第16話 『番宣の撮影』
今日、俺はドラマの監督に言われた通り、番組宣伝も兼ねてバラエティー番組に出演するためテレビ局にきていた。
「和希くん、大丈夫?」
一緒に出演してくれるのはドラマの主役である黒羽モカさんだ。
緊張で少し顔色の悪い俺を心配してくれている。
「うん、大丈夫だよ。少し緊張するけどね」
「和希様、お水をお持ちいたしました」
そして、俺のマネージャーみたいな立ち位置としてすっかり定着してしまった専属メイドの河内さん。
二人の美女に囲まれて若干気分がよくなる。
お礼を言って河内さんからミネラルウォーターを受け取り飲み干す。
「そろそろ、本番でーす! 氷室さん、黒羽さん準備をお願いします」
スタッフの人が呼びに来てスタジオ入りするために立ち上がる。
「河内さん、それでは行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「本番は私が出来るだけフォローするから安心してね」
モカさんが頼もしい。普段お姉ちゃんぶってるだけある。
◇ ◇ ◇
今日、俺たちが出演するのはスポーツバラエティで色々なスポーツの映像を見たり、体験したりするといった内容の番組だ。
俺とモカさんはその番組の、スポーツを体験するというコーナーの一つをゲストとして任されており20分ほど出演することになっている。放送は録画なので実際の撮影時間はもう少し長いと予想される。
ちなみに、スポーツの内容はバスケットボールである。
バスケは前世の体育でしかやったことがないが、まぁそこそこ得意といった所だろうか。
この体だとかなり上手く動けそうではあるけど。
「はい、というわけで始まりました、バスケのコーナーです! 今日は素晴らしいゲストが来てくれています! ドラマ『お嬢様な私がクラスで貧乏な美少年助けて、一流の執事として育て上げる』の主演のお二人です!」
司会の下田さんという40代の女性とスタッフ全員が拍手で俺たちを迎えてくれる。
俺はカメラに会釈をしながら小走りで下田さんの近くへと向かう。
「どうも、黒羽モカです! 宜しくお願いします」
「氷室和希です。今日は宜しくお願いします」
俺もモカさんにならって挨拶をした。
「いやー、すごい美男美女が揃ってますね。特に和希くんは男子なのに女性にとても優しいという情報が来ています」
下田さんのコメントに俺ではなくモカさんがすかさず答える。
「はい、和希くんは撮影現場でも、とても優しく私や子役の最上燈子ちゃんとも仲良くしてくれるんです」
「ほー、そうなのですか?」
そういって下田さんは俺にマイクを向けてくる。
どうしても俺のコメントが欲しいらしい。
「いえ、お、じゃなくて、僕は普通にしているだけですよ。むしろ他の役者さんやスタッフさんが僕に優しくしてくれています」
俺はカメラを意識しながらにこやかに対応する。
俺の対応次第でドラマの視聴率も変わってくるだろうし、ここは頑張り所。
いつもの、俺ではなく僕でここは通す。
「そうなんですね、聞いていた通りとてもやさしい方の様です。それで、和希くんはバスケのルールは知っていますか?」
この世界では男性が少ないから、男性の俺にばかり質問が飛んでくる。
モカさんが少しかわいそうだ。
「はい、知っていますよ。実際にプレイしたこともあります」
まぁ、プレイしたのは前世だけど。
「えぇ、そうなんですか?! 和希くんは現役の高校生ですが学校でもスポーツをやってるんですか?」
「そうですね、高校ではクラスメートとサッカーなんかをしますね」
「ほー、サッカー! いいですね、和希君の学校は男子校かな? スポーツ男子が多いんですかね」
「いえ、普通に共学で、サッカーは女子とやってますよ」
「えっ……、それは、大丈夫なのですか?」
下田さんはとても驚いた雰囲気で尋ねてくる。
モカさんも若干苦笑いを浮かべている。
「はい、皆優しいですし、怪我なんかもしないように配慮もしてくれてるみたいですから」
「そ、そうなんですね、では続いて質問です! 和希くんの憧れの人を教えてください。また好きな女性のタイプでも可です」
なんかこの番組、スポーツではなく俺への質問コーナーになっているが大丈夫なのであろうか。
それと、憧れの人か、憧れで一番に思い浮かぶのは、いつか駅前でピアノを弾いていた女性。
そう、世界的ピアニストの高野亜里沙さんである。
彼女を思い出すと、今でも俺も彼女の様にきらきらと輝きたいという思いがこみ上げてくる、それと同時に今の俺は輝けていないのではないかという思いも。
「憧れているのは高野亜里沙さんですかね、ピアニストの」
「ほぅ! あの若き天才と言われた彼女ですか! ちなみにどういった所が?」
「ピアノを弾いてる姿がとても輝いて見えて。僕もああなりたいと」
「なるほど、純粋な憧れですね。でも、和希君も十分に輝いて見えますよ! それで女性のタイプは?」
結局そっちも聞くのね。
まぁ、それくらいの事は答えておくか。
「人に優しく出来る人ですかね。あと胸の大きい人も好きです」
「ほー、和希君は女性の胸にも興味あるんですね。珍しい」
しまった、緊張で余計な事を口走ってしまった。
重要なのは大きさではなく感度だった。
俺は「あははっ、そうですね」と言って笑ってごまかすことにした。
それからは、特に問題なく番組は進行していき。バスケットボールの紹介も終了した。
そして、番組コーナー最後の『フリースローを決めよう!』と言うチャレンジコーナーが始まる。
10本シュートを打って、1本でも決まれば番宣の時間を貰えると言う企画らしい。
ちなみにシュートを打つのはモカさんではなく、俺になった。
番組前半でプレイをしたことがあると言ったことが大きかったらしい。
俺は更衣室でテレビ局が予め用意していた、動きやすいユニホームに着替えた。
「あの、少し露出が多くありませんか?」
モカさんが俺のユニホーム姿に問題があると下田さんに言っている。
確かに屈んだら上から胸が見えそうだけど、バスケのユニホームってこんな物じゃないかな?
それに、一応下にインナーを着てるし平気だろう。少しサイズが合わなくてパツパツだけど……。
「まぁ、まぁ、バスケのユニホームはこんな感じだから」
下田さんも番組スタッフもそんな感じでモカさんを説得する。
モカさんは渋々と言った感じで引き下がる。
「和希くんごめんね、そのユニホームで本当に大丈夫?」
「うん、まぁ、平気だよ。それよりシュート外したらごめんね」
「それはいいんだけど……本当に嫌だったらすぐに言ってね」
俺はモカさんにお礼をいってコートに立った。
「さぁ、それでは番組の宣伝をかけたシュートチャレンジの始まりです!」
下田さんはそう言って笛を吹いた。
俺は前世でみたバスケットボール選手の綺麗なフォームをイメージして真似してシュートを放つ。
ジャンプした瞬間にユニホームが捲れ、さらに中に着ていたインナーもサイズが小さめだから上にあがってへそチラしてしまう。
――やっべっ! ちょっとオヘソでたかも!
俺の放ったボールは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれていった。
よし、一本目で決められた。
俺は喜びから思わずガッツポーズをした。まぁ、へそチラしたと思うけど、それくらいならOKだろう。
そして、モカさんにやったぜっと目線で合図を送ったのだが……。
「……か、和希くん、お、おへそ、おへそ見えた!」
モカさんはそれ所じゃなかったようだ。
顔を赤くしてアワアワしている。
「ごめん、もしかしてNGかな?」
「そ、そりゃそうだよ! 和希くんおへそ見えちゃったんだよ!」
モカさんが興奮気味に言ってくる。
「いえ、和希君がOKならこのままオンエアーします」
「えぇ?! 何言ってるんですか! ダメに決まってますよ」
モカさんは反対みたいだけどせっかく、綺麗なホームで綺麗に入ったのに勿体ない。
「えっと、僕はこのままでいいですよ?」
「えぇ?! 和希君、ダメだよ! お腹が! 綺麗なオヘソが全国に流れちゃうんだよ!」
そんなおへそくらいで大げさな。
と言うかモカさんにバッチリ見られてたのね、おへそ。
「それじゃ! OKでいきます! 残り9本はどうしますか?」
司会の下田さんが残りのシュートをやるか聞いてくるけど、一回入ったしもういいかな?
俺がそう伝えると、番組スタッフもかなり残念そうにしていた。サービスはもう終わりだよ。
その後、俺とモカさんは番組宣伝の時間を貰い、無事に? 番組宣伝という役目を果たすことが出来た。
この番宣が放送する日はドラマが放送される一週間前だから少し時間がある。
だけど放送日が楽しみだな。放送されたら咲と一緒に観るかな。