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第14話 『ドラマ撮影』

 さぁ、やってまいりました憂鬱なドラマ撮影の日が。


「私の事はトーコって呼んでね、和希お兄ちゃん」


「うん、トーコちゃん」


「呼び捨てでトーコって呼んでいいよ。そっちの方が恋人っぽいし……」


 俺に今、抱き着きながら話しかけてきているのがこのドラマで俺の妹役である最上燈子もがみとうこちゃん11歳だ。

 髪型はツインテールで俺にロリ属性はないけど、妹としてみると可愛らしくてついつい甘やかしてしまう。

 ほっぺを手でぷにぷにさせて貰っている。


「ねぇねぇ、和希君、私はお姉ちゃん! お姉ちゃんって呼んで」


「はい、モカお姉ちゃん」


 そしてもう一人がドラマの主役である黒羽くろばねモカさん18歳。

 モカさんはやはり主演を務めるだけあって見た目は清楚で、100年に一人の美少女と言われている。カチューシャをしている長く綺麗な髪の清純派美少女だ。前世の俺よりは年下だが、お姉さんぶってて可愛い人だと思う。

 二人とも名前は芸名らしく本名は別にあるらしい。


 ちなみに今は撮影の休憩時間で俺たちは椅子に座って駄弁っている。


「ね、ねぇ、和希くん、私もトーコちゃんみたいに抱き着いていいかな?」


「えーダメだよ、そう言うのセクハラって言うんだよ」


 俺ではなく、すかさずトーコちゃんが答えた。

 貞操観念逆転している世界だとトーコちゃんはエロガキになるのだろうか、こんなに可愛いのに……。

 俺がトーコちゃんを疑念の目で見ていると、彼女は可愛く首を傾げた。


「えっと、モカお姉ちゃんもよかったらどうぞ」


 俺はそう言って両手を広げて受け入れ態勢を作った。


「はぁ、和希くん、カッコいいカッコいい、和希くんカッコよすぎるぅ~スリスリ、スリスリ」


 モカさんは座っている俺に前から抱きだきついて、胸のあたりに顔をうずめてほっぺをスリスリしてくる。

 これは、この世界だと立派なセクハラになるのではないだろうか? 俺じゃなかったら訴えられてますよ、モカさん。

 でも、モカさんは可愛いし、いい香りがするから許しちゃう。

 

「ちょっと、モカお姉ちゃん、それセクハラ! セクハラだから! 和希お兄ちゃんから離れて!」


 そういって、トーコちゃんがモカさんを押しのけた。


「えぇ~?! せ、セクハラじゃないよ?! ちょっと甘えてただけだよ!」


「和希お兄ちゃん、警察呼んだ方がいいよ、本当に!」


 確かに警察沙汰レベルのセクハラだったけど、モカさんレベルの美少女に抱き着かれたからwin-winの関係で許そう。


 うんうん、今日から撮影開始という事で緊張していたが撮影現場は和やかムードでよかった。

 いきなり演技の素人である俺なんかがやって来て何か言われるかと戦々恐々っとしていたが肩透かしに終わった。


「氷室さん、モカさんもうすぐ出番なので準備お願いしまーす」


 トーコちゃんにモカさんから助けてもらったお礼にほっぺをぷにぷにしながら、物思いにふけっているとスタッフのひとが俺たちを呼びに来た。


「はい、すぐ行きまーす、じゃぁトーコちゃん行ってくるね」


 柔らかかった、トーコちゃんのほっぺからさよならして撮影場所へ向かう。

 俺はヤンキーたちに絡まれるシーン撮影する、そこをモカさんが助けると言う場面だ。

 俺の初登場シーン、少し緊張する。


「よし、いこっか。和希君、あんまり緊張しないでいいからね」


 モカさん、なかなかいい人だ。ただのセクハラの人じゃなかった。


「ありがとう、モカお姉ちゃん。けど頑張って演技してみるよ」


「う、うん……まぁ、最初は皆、素人なんだしあまり気にせず和希くんは自然体で演技すればいいと思うな」


 なんか普通にアドバイスまで貰ってしまった。

 自然体か……カメラワークとか多少意識した方がいいのかと思ってたけど、俺の出番が来たら最初はモカさんのアドバイス通りやってみるか。ダメだったら監督がなんか言うだろ。


 ――ちょっと練習してみるか。


 俺はお礼と、ちょっとした悪戯心をこめてモカさんに抱き着いた。

 まぁ、モカさんなら冗談ですませてくれるだろ。


「モカお姉ちゃん、ありがとう。撮影頑張ろうねっ」

 

 彼女の耳元で優しい声を意識して、更に自然体……こんな感じだろうか?


「ガ、ガンバル」


 少し不自然だっただろうか?

 片言だったモカさんの返事を聞いてすぐに離れる。

 やってみたけどやっぱり自然体って難しいな。


「か、和希お兄ちゃん! 私も、私にも!!」


 トーコちゃんが俺にハグを迫ってくる。本当はモカさんだけの予定だったけどしょうがないか。


「はいはい、それじゃぁ行ってくるね」


 トーコちゃんは俺のハグに力強く答える。


「うん、頑張ってね!」


 それを見たモカさんが少し不機嫌そうに呟いた。


「この、エロガキめ……」


 いや、モカさんも相当だと思うけど?

 そして、モカさんと俺は急いで撮影へと向かっていった。


「和希様、少しよろしいでしょうか?」


 撮影のメイクの最終チェックをしている俺に話しかけてきたのは今日の撮影に付き添ってくれた、咲の屋敷で働いているメイドさんの一人である河内かわうちさんだった。

 河内さんは俺の専属メイドとして、いつもお世話になっている。彼女はあまり喋らない女性なので大抵話しかけてくるのは何かしら注意をしてくる時だ。


「何でしょう?」


「和希様、男性が女性に抱き着くのはあまりよろしくないかと。それに撮影にも影響が出かねます」


 あぁ、さっきの見られてたのね。


「すみません、ちょっとした出来心で……以後、気を付けます」


「そうしてください、ガワだけは美少年なのですから」


「俺は中身もイケメンですよ……?」


 得意のどや顔スマイルを決めてそんな事を言ってみると河内さんはため息を付いて俺のおでこに軽くデコピンをした。


「痛い……」


 河内さんには普段お世話になっているから俺がズボラな事を知られている。

 例えば、寝る前に髪をちゃんと乾かさないとか……翌朝、髪がぼさぼさでよく小言を言われている。でも、そんな河内さんを俺は嫌いじゃない。

 前世の両親はこっちの世界に来る数年前に他界していたので、小言とかそういう事を言ってくれる人はいなかった。

 だから、そういう事を言ってくる人の有難みを俺は知っていた。


 ――河内さんって本当のお姉ちゃんみたいだな、まぁ前世の俺より年下なんだけれど。


「ごめんなさい、反省してます」


「はい、よくできました」


 そう言って河内さんは少し背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。うーん、そこはかとなく俺の大好きなオネショタを感じるのはなんでだろう。

 見るのは好きだけどやるのは少し恥ずかしいな。


「和希様、撮影が始まるようですよ。メイクの方もばっちりですよ」


「はい、河内さん、有難うございます」


 河内さんはそう言って俺から離れていった。

 もうすぐ撮影が始まる、落ち着いていこう。


◇ ◇ ◇


 撮影が始まる、シーンは俺が路地裏でヤンキーの女達3人に絡まれるシーンだった。


『や、やめてくださいっ! 人を呼びますよ?!』


 俺は腕を掴まれヤンキー達に言い放つ。

 自分で言うのもなんだけど中々いい演技ではないだろうか?


『人ぉ~? こんな場所に人なんて来やしないよ』


『いいじゃん? アタシたちと楽しい事しよう?』


『へへっ、カッコいいねぇ、彼女とかいるの? まぁいても関係ないけど、ふふっ』


 おぉ、ヤンキー達の演技もレベルが高い。

 ちなみに、このドラマは毎週木曜の9時から放送される。放送開始は二カ月後だ。

 ドラマのタイトルは『お嬢様な私がクラスで貧乏な美少年助けて、一流の執事として育て上げる』である。

 ちなみにジャンルは純愛物。この世界の流行りらしい。


 まぁ、それは置いておいてこの後、俺とヤンキー達が数回やり取りをしてカッコよくモカさんが登場するシーンだ。


『だ、誰かーっ!』


 俺は叫んだ。


『だから誰も――』


『あの、大丈夫ですか?』


 っとここでキメ顔でモカさんが登場する!! ……シーンなんだけど何故か表情がデレデレしていて、滅茶苦茶ニヤけていた。


『……』


 ヤンキーと俺が『テメェ、誰だ!?』と『た、助けて』っというセリフが続くはずなのだが続かない。


「カットッ!!」

 

 いったんここで監督が止める。


「おい、モカなにをニヤけてやがるっ!! そんなニヤニヤしながら大丈夫もくそもあるかっ!!」


 監督、大激怒である。


「ひっ、す、すいません!」


「全く、なにをやってやがる! リテイクだ! 準備しろ」


『はい』


 スタッフも役者たちもリテイクの準備に入る。


 なぜだろう、俺は関係ない……関係ないんだ。なのに遠くから見ているメイドの河内さんからの視線が痛い……。

 そして、河内さんの唇が動いた。

 内容はおそらく――「……貴方のせいですよ?」だろう。


「は、反省してまーす」


 俺は誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 うん……これから、悪戯で人に抱き着くのはやめておこう。

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