第13話 『イラストレーターの面接』
今日は俺が代表のゲーム会社『Ice Country』のイラストレーターの最終面接を行っていた。
ちなみに、名前の由来は俺の苗字である氷室と国木田さんの苗字を合わせたものだ。
そして最終選考まで残ったのは6人で、既に4人が面接を終了していて、今まで入ってきた人たちは全員が俺を見て『男性?!』って驚いていた。
面接の場所は西宮財閥の所有するビルの一室を使わせてもらっている。
方式はグループ面接で2名ずつ面接。
トントンとドアがノックされる。どうやら、次の面接の人達が来たようだ。
「どうぞ、お入りください」
俺の隣にいるメインシナリオライターである国木田久美子さんが入室を促す。
「し、しししし、失礼しますっ!!」
「失礼しますぅ」
先に入室してきたのは以前、国木田涼子が良いと言っていたイラストを描いてくれた山田紗代さん26歳。その後に入室したのがイラストレーターとしてすでに人気のあるはなびさん改め、黒川早苗さん28歳だ。
山田さんはストレートの黒髪が腰のあたりまである可愛らしい女性で胸がデカい。今まで見た中でも一番大きいかもしれない。
黒川さんはゆるふわパーマのセミロングでとてもおっとりした女性で甘えたくなるタイプだ。オネショタ好きの俺としてはポイント高いよ。
「本日はお時間を頂きありがとうございますぅ、黒川早苗と申しますぅ。本日は宜しくお願いしますぅ」
「え? あっ、やや、や、山田紗代でしゅっ! よよよ、よろしくお願いしまし!」
黒川さんが挨拶をして、山田さんが黒川さんにならって慌てて挨拶をした。
山田さんを見てると俺まで緊張してしまう。頑張れ山田さん。
「どうぞ、お座りください」
久美子さんが二人に着席を促す。
二人が席に座るのを見てから久美子さんが話し始めた。
「本日は当社にご応募いただきありがとうございます。まずは自己紹介させていただきますね。私は当社である『Ice Country』でメインシナリオライターを務めています、国木田久美子と申します。それで私の隣に座っているのが当社の代表で――」
「氷室和希です。現役の高校生ですけど代表をやらせてもらっています。本日は宜しくお願いします」
そう言って軽く頭を下げておいた。
「はぃ、よろしくお願いしますぅ、ふふっ」
「はぅ、カッコいい……、よ、よろしくです……じゃなかった! よろしくお願いしますっ!!」
黒川さんと山田さんも会釈してくれた。
「今回は最終面接ですがマナーや言葉遣いなどが見たくてお呼びした訳ではありませんので普段どおり楽にしてもらって結構ですよ。まぁ、そう言っても難しいでしょうけども……」
俺が若干苦笑いしながらそう言うと山田さんが恐縮したように『すみません……』っと謝ってしまった。
山田さんは大学卒業からずっと引きこもっていたらしいから、今日はきっと一大決心して来たのだろう。
少しでも緊張をほぐしてあげたいけれど俺はそういうの苦手なんだよな……。
「まぁ、気を取り直して質問させて頂きますね。月並みですけど志望動機をお聞きしてよろしいですか? まずは黒川さんからよろしいですか?」
「はぃ、私はぁ初めは西宮財閥の関連ブランドという事で応募させていただきましたぁ」
「初めはって事は今は違うという事ですか?」
俺は思わず黒川さんに尋ねた。
「はぃ、二次で読ませていただいた短編でそちらの国木田先生のファンになってしまいましてぇ。あの文章力と想像力、そして構想なども本当にすごいなぁって驚いたんですぅ。この人のストーリーに私のイラストを絶対に付けたいって思ってしまってぇ」
「そこまで有名なイラストレーターさんに褒めていただくとなんだか照れてしまいますね」
まんざらでもない様子の久美子さん。
「では、次は山田さんはどうですか?」
「えっ? あっ、はいっ! えっと、私も同じような感じです……私は他にとりえもないのでイラストレーターになれたらいいなっと思いまして……」
「山田さんは趣味でイラストを描いてたんですよね? 今は描き始めて何年目なんですか?」
「えっと……4年目です、すみません……」
「4年?! それであそこまでのイラストを描けるなんてすごいですよっ!」
俺が少し大げさに言うと山田さんは少し嬉しそうに笑った。
「えへへっ、有難うございます。イラストには少しだけ自信があるんです」
「あの、手を見せてもらってもいいですか?」
俺は鑑定スキルを発動するべく、手を見せてもらう様にお願いした。
「手ですか? えっと……その、綺麗な手じゃないですけど」
「構いません、お願いします」
「あっ、はい……男性に触ってもらえるなんてなんか嬉しいです」
何となく分かるわ。前世だと電車に乗ってるときに女子高生が隣に座ってくれたような嬉しさだろうか。
とりあえず、山田さんの手を取り鑑定を発動する。
うーん、この人凄いな。コミュ力は少し低めだけれど……問題を起こすような人ではなさそうだ。
それにイラストレーターとしての才能も申し分ない。構図なのどのセンスも悪くない。
そして何より、この人は努力のできる人だ。ここ数日で僅かだけど画力が伸びてる。
「有難うございます……とっても努力されてるのですね、手でわかります」
「えっ? ど、努力なんてそんな、好きでやってる事なので……」
「そうですか、貴女にはイラストレーターという仕事が似合ってると俺は思います。それと、山田さんの手、俺は好きですよ。だって、頑張ってきた人の手だから」
俺は思わず笑顔で彼女にそう言ってしまった。
だって頑張ってるだもん、応援したくなった。
「はぅ……あ、ありがとうございます」
俺はその後、黒川さんに向き直り同様に手を見せてもらう事にした。
さてさて黒川さんのステータスは……。
うん、黒川さんはコミュ力は問題なさそうだ。それに全体的に平均より高めといった所。
何でも器用にこなせるタイプの人間だな。
でも、流石人気イラストレーターだけあってそっち方面のステータスは軒並み高い。配色や空間把握能力もいいセンスしてる。
現時点では山田さんより黒川さんの方がイラストレーターとしては格上か、やっぱり経験の差かな。
それでも、この二人は将来的には良いライバルになるのではないだろうか。お互いに刺激し合えるし、性格の相性も悪くないかな?
「有難うございます、黒川さんもイラストが大好きって感じの手ですね」
「ありがとうございますぅ」
俺は目でシナリオライターである久美子さんに合図する。
久美子さんからイラストレーターの採用は俺の独断で決めてもいいと言われている。
なので、申し訳ないけどその行為に甘え俺はこの二人を雇おうと思う。
まぁ採用枠は最初から2人から3人と話していたので問題ないだろう。
それからは久美子さんが二人に当たり障りのない質問して過ごした。
「では最後に質問はありませんか?」
久美子さんがそう質問すると黒川さんから職場環境などの質問があり終了となった。
「本日はぁ、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
そう言って二人が席を立とうとした瞬間に俺は声をかけた。
「あの……」
「はぃ?」
「は、はいっ?!」
「本当は今ここで言うのはダメかもしれないのですけど、お二人を合格として雇用させていただきたいと考えています。なので、もし辞退される場合は言っていただいてもいいですか? そうでないなら雇用する方向で話を進めたいのですけれど」
「私は願ってもない事ですぅ。是非雇用していただける方向でお願いしますぅ」
黒川さんは快く了承してくれた。
「わ、私も問題ありません! よ、よろしくお願いします!!」
山田さんも問題ないようだ。
俺は久美子さんを見て軽く頷いてから後を任せることにした。
「では、必要な書類などがあるので書いていただいてもよろしいですか? 判子などは後日で大丈夫ですので。あとは――」
さて、これで面接は終了であとはゲームを作るだけだ。
やっとゲーム会社として動き出す。
そして明日はドラマの撮影だっけ。いきなり、撮影とか言われても困るがやるしかない。
正直不安だーっ!
◇ ◇ ◇
私の名前は山田紗代26歳、独身。当然、彼氏などできた事もない。
職業は無職……っというかニートだった。引きこもりなので当然だけれど。
そんな私だけどイラストレーターなら絵を描くのは得意だからなれるかな? なんて軽い気持ちで西宮財閥の関連新規ブランドである『Ice Country』に応募した。
ネットのスレなんかを見てると結構な人数が応募しているらしく私なんかはすぐ選考落ちするだろうと安心していたら、あれよあれよという間に最終面接まで残ってしまった。
家族にそれを報告すると大喜び。
そして今朝、家を出る時なんかは母親と妹に『頑張るのよ、普段通りの自分を出せばいいのよ』とか『姉ちゃん頑張れっ!』なんて声をかけらた、正直期待されて胃が痛い。
そして普段余り喋らない姉までが『あまり気を張らずに頑張りな』なんて言ってた。
痛むお腹を摩りながら電車とバスを乗り継いで西宮財閥の所有する巨大なビルまで行く。
ここ数年外に出てないから人ごみが怖くて途中なんども帰りたくなったけど応援してくれる家族を思い出して頑張ってここまで来た。
最終面接はグループ面接と言う事で私の気分をさらに重くする。
一人での面接だって嫌なのになんでグループなのよっ!! もうヤダ、お家帰るっ!
なんて途中で言えるわけもなく流れに乗って面接会場の待機室まで案内された。
私のほかに5人来ており皆、すごいオーラを放っている。
私と一緒に面接を受けるのは黒川さんと言う人気のイラストレーターさんでどう考えてもニートな私と一緒に面接を受けていい人ではない。
あぁ……きっと私は当て馬にされたのだ。ごめんね、みんな。
なんて考えてるとあっという間に私の面接の順番が回ってきた。
正直、その後の事は何を話したかとかよく覚えていない。
ただ、高校生の男の子が会社の代表と聞いて驚いたのは覚えている。緊張しすぎてリアクションできなくてよかった。
それと、男の子は面接中も私に優しくしてくれて、頑張り屋さんの手だって褒めてくれて、私の手を好きだとも言ってくれた。あんな、美少年に好きって言われた、今日頑張って面接に来てよかった。
そして面接が終了したと思った私に奇跡が起きる。
なんと、私と黒川さんを合格として正社員として雇用してくれると言うではないか。
私はシナリオライターの国木田さんに言われるがまま必要書類を書いて帰路に就く。
帰り際に、代表の男の子……氷室和希くんから『山田さんには期待しています』って声をかけられた。そして、美少年なのに優しい彼は私に他にも色々と話しかけてくれたがプレッシャーに弱い私は殆ど会話の内容など何も覚えておらず、白目でお礼をいって帰ってきた。
家に帰るとまず母が出迎えてくれた。
「面接、どうだった……?」
大学生の妹もスマホでゲームをしながら聞き耳を立てているようだ。姉はまだ仕事から帰ってきていない。
「う、うん、なんか合格って言われた……」
「「えぇ?!」」
母親も妹もすごく驚いていた。私だって驚いた。普通、面接してすぐ合格ってならないよね? 後日合否の手紙が届くもんだよね? その間生きた心地がしないまま過ごすものだと思っていたのに……。
「凄いじゃないっ!! 紗代」
「姉ちゃんすげー! あの西宮財閥の関連会社なら安泰じゃん」
「ゆ、夢じゃないよね……?」
「「夢じゃないよ!!」」
「あっ、そうだ。都合がいい日に判子を持ってきてって言われてるんだ、後通帳とか作らないと……」
今まで実感がなかったけど家族に報告してから急に合格したんだって実感がわいてきた。
そしたらなんか嬉しくて涙が出てきた。
「「ばんざーい、ばんざーい」」
妹と母親も大喜びでなんか私もすごく嬉しい気分になった。
それと、姉さんからメールが来ていたけど返信はしなかった。だって直接、報告したいじゃない。