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第12話 『芸能界への誘い』

「和希くん、この人なんていいんじゃないかな?」


 今の時期は8月中盤、一般的な高校生は夏休みの真っただ中である。

 そんな中俺は今、国木田くにきださんの家にお邪魔している。


「涼子、もう一次選考も二次選考も終わってるよ。それにその人は応募してこなかったよ」


 俺は顎に頬杖を突きながら国木田家の長女である涼子を嗜めるように言った。


「和希くんとお母さんだけずるいよぉ、二人で楽しそうにして!」


「いや、だって涼子は学生だし……」


「和希くんだって学生だよ!」


 いや、そんな事言われたって俺はこれでもゲーム会社の代表なのだ。


「一応、涼子は久美子さんの娘だけど部外者だから応募してきた人の情報とかは見せられないよ」


「そうよ、涼子。遊びじゃないんだから」


 そういって俺に加勢して涼子をいさめてくれるのは我が社のメインシナリオライターであり、涼子の母親である国木田久美子さん。


「だって、お母さんのお話のキャラにイラスト付けてくれる人なんでしょ? だったら私だって参加したいよ! それに参加したいってずっと言ってたよ!!」


「それはそうだけど……我儘言わないの!」


「だって……」


 涼子は膝を抱えてしょんぼりしている。

 彼女とは夏休みの間に、お家にお邪魔して結構一緒にすごしている。出会った頃は、とても儚げで遠慮しがちな印象だった涼子も、俺に慣れてきたのか素顔の自分を見せてくれるようになった。


「はぁ……、じゃぁ二次選考の久美子さんが書いてくれた短編に、応募してきたイラストーレーターさん達が描いてくれた線画のイラストは見てもいいよ」


 そういって俺は鞄からノートパソコンを取り出す。

 涼子に見せるのは明日の三次選考に進む予定の六人のイラストだ。


「本当?! 見せて!」


 ノートパソコンを起動すると涼子がすぐ隣にきて画面をのぞき込む。

 可愛い女子高生がこんな近くに……いい香りがするし暖かい。ちょっとだけドキドキしてしまう。


 画面にイラストを表示させると涼子のまん丸な瞳がきらりと光る。


「うわぁ、すごいっ! 綺麗だね、これって全部主人公のキャラなの?」


 俺たちが作ろうとしてるのは女性向けのゲームで、俗にいう乙女ゲーだ。


 三週間ほど前に久美子さんの短編を某小説サイトに投稿したらあっという間に人気になってすごい反響があった。

 やぱり、俺の鑑定に狂いはなかった、ふふっ……。


 正直、このまま短編を連載にしたら絶対書籍化狙えただろう。それを久美子さん言ったけど、「それだと和希くんと一緒にゲームが作れないじゃない」っと言われてしまった。

 それに設定もあんまり練ってないからダメだとも言っていたけど俺としては十分だと思うんだけどな。


「あぁ、全部、主人公だよ」


「うーん、全部素敵だけど一番いいのはこのイラストかな」


「あぁ……このイラストは山田さんのだね」


 山田さんは26歳の女性の方で履歴書には大学卒業からずっと家に引きこもっていたと書いてあった。

 趣味でイラストを描いてるそうだが相当上手だと思う。

 イラスト投稿サイトとかで人気が出てそうだったけれど、そういう投稿サイトには一切投稿したことがないらしい。


「お母さんはこっちのイラストかなー」


 そういって久美子さんが指したのはペンネーム:はなび。さん。本名:黒川くろかわさんというベテランのイラストレーターさんだった。

 かなり人気のイラストレーターさんのようでイラスト投稿サイトのランキングでも上位を獲得していた。

 なんでこんなすごい人がうちみたいな零細に応募してきたのかというとやっぱり西宮財閥の関連企業という所なんだろうな……。


「実力は二人とも申し分なさそうですね」

 

 まぁ二次審査まで突破してて、あとは最終の面接だけなのだから実力は当然なのだが、涼子の機嫌を損ねない様に当たり障りのない事を言っておく。


「楽しみだなぁ、早く明日の面接日にならないかな!」


 涼子の笑顔が眩しい、けど君は参加できないよ?



◇ ◇ ◇


 そして少し時間が過ぎて時刻は夜の19時となる。国木田家からは既に帰宅して明日の面接の準備を部屋で進めていた。

 もうすぐで俺がお世話になってる西宮家の屋敷では丁度夕食の時間になるので急いで明日の準備を切り上げて屋敷にある広い食堂に向かう。

 するとそこには既に咲と執事長である安藤さん、他の使用人たちも来ていた。

 どうやら、俺が一番最後のようだ。


「ごめん、少し遅れちゃったかな?」


 そんな俺を咲が笑顔で迎えてくれる。


「そんなことないわ。ちょうどいい時間よ」


 一応、安藤さんやほかの使用人たちはいるけど食事をするのは俺と咲だけだ。

 最初はなれなかったこの食事風景も今ではもう慣れたものだ。安藤さん達はあとで別室で食べているらしい。

 俺も一応居候としてそうするべきかと咲と安藤さんに相談したけど今の形のまま落ち着いた。


「わぁ、今日の料理もおいしそうだね。料理長さんは本当にすごいな」


「ふふっ、和希にそう言ってもらえて彼女もきっと喜ぶわ。さぁ、食べましょう」


 使用人たちに見守られながら咲と二人で談笑しながら楽しく食事をする、食事は静かに食べるのがマナーだけど楽しく食べた方が美味しいよね。



◇ ◇ ◇


 夕食を食べ終わった俺は、風呂場で今日の疲れを癒していた。

 いやー、やっぱり、お風呂っていいよね、一番落ち着く場所かも知れない。


「ふぅ、いいお湯だね、咲」


「そうね。ところで和希、少し話があるのだけどいいかしら?」


 なんだろう? また小言かな? 俺は顎に手を当てて「ふむ」っと呟いて湯船につかる咲の胸をがん見しながら聴くことにした。


「あのね……なんで毎回毎回、私がお風呂に入ってるときに限って狙いすましたように、和希が入ってくるのかしら?」


 それは、男なら当然入るだろう。

 美少女がお風呂に入っていたら一緒に入りたくなるだろ? なるよな?


「咲と一緒にお風呂に入りたいから?」


 咲は深くため息を付いた。


「あのね、和希。私の理性にも限界と言う言葉はあると思うの。いくら私たちが、こ、ここ、婚約者だからって……」


 咲が小さく最後何かつぶやいたがよく聞こえなかった。

 こん? なんだって? こん○くしゃって言ったよな?

 もしかして、こんよくしゃ、混浴者だろうか……?

 この世界、特有の言葉だろうか? 確かに、混浴者とはよく言ったものだ。俺と咲は混浴者、これで毎日、遠慮せず混浴できる。


「確かに、俺と咲はまさにそれだね! だから毎日一緒にお風呂に入ろう」


「えぇ?! で、でも私の理性が……」


 咲のいう事も分かるんだけれど、俺だって毎日我慢してるのだ。きっと咲にだって耐えられる。


「大丈夫、咲ならきっと耐えれる」


「和希の、その笑顔と信頼が辛いわ……」


 そう言って咲はがっくりとうな垂れてしまった。

 まぁ、理性が負けてしまったらその時はその時だけれど、咲の次期西宮財閥の会長としての立場を考えると難しいのだろうな。

 彼女の幸せを第一に考えて俺も今後は行動を慎むか。


「それとね、和希、もう一つ話があるのだけれどもいいかしら? 明日の準備で忙しいなら後でもいいのだけれでも……」


 なんだろう?

 今度は咲の表情を見ると面倒ごとかな? でも、咲にはゲーム開発の資金を出してもらってるしそれ関係だろうか。

 今度は胸ではなく咲の顔をみてきちんと話を聞くことにした。


「うん、今で大丈夫だよ」


「そう……ゲーム開発の資金だけれど、おじい様に条件を出されてしまったの」


「咲のおじい様って西宮財閥の会長だよね。それで条件ってなに?」


 もう、スタッフの募集までしているのだ、今更やめる訳にはいかないこの時期に条件とはなんだろう? 少し、いや、かなり不安だし不満もある、それでも表情には出さないけど。


「あのね、うちの財閥がスポンサーしているテレビドラマに出てほしいの」


「えぇっ?!」


 俺は思わず驚いて声を上げてしまう。テレビドラマって毎週放送する奴だろうか……。それとも一回だけの特別放送みたいな物か?


「もちろん、和希が今すごく忙しいのは分かってるの。でも、男性の俳優さんって殆どいないから……どうしても、無理なら私から断っておくけど」


「待って待って! それって毎週放送するドラマ?」


「……うん、しかもヒーロー、つまり、ヒロインの相手役なの。だから毎週の様に撮影があるし、今以上に忙しくなることは間違いないわ」


「へぇー、ヒーローなんだ……」


 咲の様子からすると脇役の間違いではなさそうだ。

 今はゲーム会社立ち上げの大切な時期だ。できれば断りたい、しかし俺が断った場合はどうなろうのだろうか。


「やっぱり、忙しいよね。ごめんね、代わりになる人を探すの頑張るから……(すっごい嫌だけれど)」


 俺が考えているうちに咲が代役を探してくれると言い出した。最後にぼそっと何か聞こえたけど。

 男性自体の数が少ない世界だ、男の俳優なんて数えるほどだろう。

 果たして代役が見つかるだろうか? 無理だろうなー。


「仕方がないか……俺がやるよ。咲には出資してもらってるしそこまで迷惑は掛けられないからね」


「本当?! 和希なら絶対人気でるよ」


 笑顔で咲にそう言われてしまうと今更やめたいとも言えない。


「あはは……人気は出なくてもいいかな」


「あぁ……今から放送が楽しみだわ、録画の準備もしなくちゃ」


「所で撮影はいつからなの?」


「明後日からよ」


「ふーん、明後日か……明後日っ?! ず、随分急だね」


「うん、ずっとピッタリの人が見つからないって監督さんがボヤいてたんだって。それでおじい様が和希の写真を監督さんに見せたら『これだっ!!』って言ったらしいよ」 


 待ってほしい。なんで咲のおじい様が俺の写真を持ってるの? いつ撮ったの?


「それでどうしても、和希が無理なら撮影自体を取止めるっていいだしたんだって。ひどいと思わない?」


「えっ? あっ、うん、そうだね」


 俺が断ったら撮影を取止めるとか、さっきまでの代役を探す話はなんだったのだろうか?

 咲に上手い事乗せられたかな。

 しかし、ドラマ撮影か……。明日は面接で明後日は撮影、色々面倒になったかもしれない。

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