第10話 『買い物』
今日、俺は西宮財閥が経営するファッションビルに咲と安藤さんと一緒に来ていた。
俺が普段着を持ってないことが問題になったからだ。学校の制服と執事服だけじゃ流石に厳しい。たまにはラフな格好もしたい!
ちなみに、今着てるのは高校の学ラン。
そしてそんな、俺たちは既にファッションビルにきてから小一時間ほど経過し、今は洋服を選んでいた。
「ねぇ、この服なんて和希にいいんじゃない?」
「うん、いいね。咲はセンスがあるよ」
咲が今、手に持っている洋服はとても着心地の良さそうな生地で出来たブランド物のかっこいいTシャツだ。値段はなんと25000円。
問題は俺のお小遣いで買えるかって所なんだけれど、出来れば数着ほしいのでこれは買えない。
しかし、女の子だと普段これくらいの値段の洋服を普段買っているのだろうか。咲がお嬢様だから特別なのか? お嬢様にしては安めの服なのだろうか? わからん……。
「ふふっ、ありがとう、でも和希なら何でも似合うわよ」
「ありがとう、でも、せっかく選んでもらったのに、俺のお小遣いだと予算的に厳しいかも……」
「そうなの? その辺は安藤に任せてたら知らなかったわ」
俺は咲の屋敷でお世話になってるうえに毎月少しだがお小遣いまで貰っている。もちろん執事として一応は掃除なんかを手伝ってはいるが、それにしては多すぎる金額を貰っている。
国からも男性補助金というのが出てるらしいがそれには手を付けていない。
なので、この服を買うには圧倒的にお金が足りない。
俺の予定では安いTシャツを数着とズボンと下着なんかを数着買えばいいかくらいに思っていたんだけど……。
「もっと、安いやつでいいかな」
「えぇー、せっかく素材がいいのに変な洋服なんて着させられないわ、和希はカッコいいんだから洋服も拘らないと」
「うーん、安くてもいい物はあると思うんだけど。確かに俺がイケメンなのは認めるけど」
「認めちゃうんだ。でも、安藤もこの服、和希に似合ってると思うわよね?」
「はい、咲お嬢様。和希様、この洋服の代金は私が出しますから気に入ったのなら購入しては如何ですか?」
安藤さんがにこやかに提案してくる。
「えぇ、悪いですよ。やっぱり、咲その服は止めておくよ。流石に一着だけだとこれから困るし他にも数着買いたいから……」
「じゃぁ、こうしましょう。この服は安藤がプレゼントして他の服は私がプレゼントするわ」
「お嬢様、それは名案かと」
「えぇー! 俺には安いTシャツでいいから、それくらいがお似合いだから」
「何言ってるのよ、どんな服でも和希には似合うけど折角ならいい洋服を着てほしいわ」
「そうですよ、和希様。人の第一印象は最初でほぼ決まると教えたでしょう?」
確かに、安藤さんからの教えでそのような話を聞いたけど……。
うーん、身だしなみには気を付けないとやっぱりだめか。それで一緒にいる人まで迷惑がかかる事もあるかもしれないし。
「わかりました。けれど、この借りはいつか返します」
「ふふっ、楽しみにしています」
安藤さんは俺を微笑ましい物を見るかのような表情で言った。
逆に咲は何かお願い事を考えているようだった。
「和希ったら律儀ね、気にしなくていいのに。でも、それじゃぁ一つお願いしていいかしら?」
「うん、何でも言ってよ」
「それじゃぁ、私の下着を一緒に選んでくれないかな?」
「あぁ、うん、下着ね……下着?!」
◇ ◇ ◇
あれから数十分後……。
俺は今現在、咲の下着を選び終わり試着室にいる咲を待っている。
咲は俺が選んだ下着を購入前提で着替えて帰るそうだ。
ちなみに俺が選んだのは、咲の瞳の色に合わせたフリルの付いた水色の可愛い上下セットの下着だ。
前世でもあまり女性と一緒に洋服を選んだりしたことが無かったのに、今回はいきなり下着という事でドキドキしてしまう。
咲は俺の選んだ下着を気に入ってくれるだろうか。
「和希、着替えたわ」
試着室から咲の声がする。
「う、うん」
こんな時どんな返事を返していいのか分からない。
「似合ってるのかな? 自分じゃよく分からないわね。和希、ちょっと中に来て見てみてよ」
えっ、中に入って見ていいんですか? だったら是非見たいです。
俺は思わず隣に立っている安藤さんの顔を見てしまう。
すると安藤さんは俺の耳元でこっそり「和希様がお嫌でなければ、ご覧になってあげてください」と呟いた。
貞操観念逆転してるからね、男性が女性の下着姿みても特に問題ないらしい。
よし、安藤さんの許可もとったし。和希、いっきまーす!
俺は試着室のカーテンを潜って中に入る。
「ど、どうかな?」
中では下着姿で少し恥じらう咲がいた。
その男を誘うような、美しく欲情的な格好に思わず生唾を飲み込んでしまう。
――天使だ。天使がいる。
「す、すごい、可愛い……可愛いよ、咲」
「えへへっ、本当? なんか和希に選んでもらった下着付けてると、特別な関係みたいでドキドキしちゃうね」
分かる、分かる、他の人に見せる訳じゃないから俺たちだけの特別な感じ。
コメントまで可愛い咲をじっくりと観察させてもらう。
「で、でも、じっくり見られるとやっぱり恥ずかしいね」
「そうだよね、ごめん。でも、すごく似合ってるよ」
「可愛いの選んでくれてありがとね、和希」
そう言って咲は花が咲いたように笑った。
この素晴らしい光景を目に焼き付けておこうっと俺は心に決めた。
こうして俺たちはショッピングを楽しんだのだった。
◇ ◇ ◇
洋服を買った後、一時間ほど自由行動をしようと言う事になった。
ちなみに、今の俺の格好は高校の学ランではなく先ほど買ったばかりのカッコいい洋服に身を包んでいる。
さっき鏡を見たけど、いつもの三割マシでカッコいい俺。
咲と安藤さんは二人で行動している。安藤さんは咲の護衛だし当然だよね。
今日は、俺の専属のメイドである河内さんもいないので、久しぶりの単独行動である。
男性の一人歩きは珍しいが一応、ビルから出なければ大丈夫だろうっと安藤さんも判断したらしく許してもらえた。
俺は買ってもらった洋服のお礼にせめておいしい物でも買おうと考えている。
うーん、ケーキがいいかな? チョコレートの美味しいお店があると他のお客さんが話してたのを小耳にはさみそっちもいいかななんて考えていると、ふと、壁に貼ってあるポスターが目についた。
そのポスターはこの前、駅前でピアノの演奏をしていた高野亜里沙さんのピアノコンサートの物だった。
――ほんと、こんな可愛くて綺麗な人なのにピアノも一流なんてすごい人だよな。俺も彼女みたいにキラキラ輝ける何かを見つけたい。
俺がポスターを熱心に見ていると後ろから、突然声をかけられた。
「あの、少しいいかしら?」
俺が振り返ると70歳くらいの身なりのいい御婆さんが立っていた。
なんだ、一瞬ナンパかと思ったけど違うのか。いや、こんなお婆さんでもありえるのか?
なんて、まさかな。
「お兄さん、突然ごめんなさい。ここに美味しいチョコレートのお店があると聞いたのだけれども何処にあるか知らないかしら?」
「あぁ、それならちょうど俺も行ってみようと考えてたんです。よかったらご一緒しますよ」
「あら、そうなの? じゃぁお言葉に甘えていいかしら」
「はい、構いません」
御婆さんは足が悪いのか杖を突いていた。
「あの、よかったら手をどうぞ」
「あら、ご親切にどうも」
そう言って、お婆さんの手が俺に触れた瞬間に鑑定が発動した。
「っ――!!」
思わず一瞬でバっと手を放してバックステップで距離を取る。
この御婆さんのステータスグラフが頭に流れ込んだ瞬間に無意識にとった行動だった。
「あら? どうかしたの?」
御婆さんはそんな俺に変わらず笑いかける。
俺の頬を冷や汗が伝った。
彼女のステータスは若かりし頃は凄まじい能力を誇っていただろう事、そして特殊能力――。
サイコメトリーを持っていた。