第1話 『俺、イケメンになる』
突然だが俺の話をしよう。
俺は25歳のブラック企業に勤めていたサラリーマンだった。
だったっといっても別に仕事を辞めたわけではない、ある日家に帰って寝てたら神とやらが現れて俺を異世界に転生すると言うではないか。
これには俺も大興奮で異世界行きを了承、チート能力はなにがいいかな? なんて考えていたら神が俺にくれた能力は鑑定のみだった。
「えっ? ちょっ!? 鑑定のみって無理だって死ぬって!!」
「安心するがいい、お前が行く世界はそうそう死ぬような世界ではない」
「えぇ?! いやでも、三種の神器のアイテムボックスと言語理解くらいはくださいよぉぉぉぉぉ!!」
「では、行くがよい」
◇ ◇ ◇
そして俺は神に異世界へ送り出されて光に飲まれたと思ったら夕焼けが綺麗な空の下、人っ子一人いない公園のブランコに一人座っていたのだった。
「えっ? なんでブランコ?? つーか、ここ普通に街中じゃん……」
マジかよ、異世界ってパラレルワールドみたいな所? たしかにそうそう死ぬようなことはないと聞いていたがまさか現代とは……。
「あれ? あー、あー、あー? 何か声が心なしか違うような……それに体も軽い?」
俺は恐る恐る自分の体を確認するため自分の手のひらを見る。
何という事でしょう、あんなにゴツゴツしていた手はマメ一つない綺麗で柔らかな物に……。
「いやいやいや、まさかな……」
俺は公園の隅にあるトイレに向かい、手洗い場の鏡を覗き込む。
するとそこには黒髪の短髪で綺麗に整った超イケメンがいるではありませんか。
年はだいたい高校生といった所。顔のパーツはまさに黄金比で並べられておりアイドルも裸足で逃げ出すレベルのイケメン、まさに人生の勝ち組である。
そして鏡をよく見ると、今までは気が動転していて気付かなかったが、洋服の所々がほつれてるし、穴も空いている所もある、それにどことなく小汚い印象だ。
「なんでこんなボロボロの服来てるんだ? まぁ、イケメンだからなんでも似合ってるけどさ」
俺はボロボロの服装をみて自分の服の臭いを嗅いでみる。
「うーん、臭くないような気もする。自分だと分からないな」
俺はとりあえず、現代らしき場所に転生し、自分が別人だがイケメンの男になっていたことに安心して、もといた場所、ブランコに座る。
「どっこいしょ。……おっと、オッサンぽかったな、これからは気を付けなくては」
とりあえず、状況を整理しよう。寝ていたら神に会ってスーパーイケメンにされていた。
うん、完全に頭おかしいわ俺。
「そういえば、神にチートもらったんだった。ブランコを鑑定。」
しかし、何も起こらなかった。
あれ、物を鑑定できない系? あーわかった。これ人物鑑定特化だわ。俺はそういう小説よく読んでたから詳しいのだ。
「そうだ、自分を鑑定」
自分の手を見ながら鑑定と唱える。
しかし、何も起こらなかった。
「えっ? 嘘でしょ? 人物鑑定できない系? す、ステータスオープン!!」
やはり何も起こらない。
ここは異世界と言ってもファンタジー系ではないのだステータスはないのかもしれない。
やべー、やべーよ、これ詰んだよ。
「いや、でも待てよ……」
俺は顎に手を当てながら考える。
もしここが俺のいた世界と大して変わらないのなら鑑定が使えなくても困らないんじゃ……。
いや、でもなー。骨董品とか鑑定して転売するとかロマンがあったけど高校生だと、たいしたお金もないしそれも難しいしなぁー。と言うか、俺金持ってるのか?
ポケットを探ると何も入ってなかった。
今どきスマホも持ってないとか何者なんだ俺は。
俺はそのまま10分くらい考え込んでいたので誰かが接近してくるのに気が付かなかった。
「ねぇ、貴方? こんな所でどうしたの? 体調が悪いなら私の車で病院まで送ろうか?」
「えっ?」
俺が顔と目線を声がした方へ向けると、金髪の長い髪が綺麗な物凄い美少女がいた。年は今の俺と同じくらいか?
ちょっと外国の血が混じっているのだろうか?
背はすらっとしていて、今の俺よりは低いと思われるが平均よりやや高めくらいだろうか。
胸はやや大きめでぶっちゃけ俺のすごい好みの女性だ。
「なんだか唸っているみたいだったから声をかけたの。それにもう暗くなるわ。いくら日本が治安がいいと言ってもこんな時間に貴方みたいな男がここにいると危ないわよ」
一瞬ポカーンっとした表情で彼女の青い瞳に釘付けになったが、慌てて頭を振る。
なんだよ、メッチャいい娘じゃん。俺を心配してくれるとか。しかも美少女だし嫁にしたい。
ちょっと強気そうな釣り目をしているが正直そこも可愛い。
「い、いえ、大丈夫です……」
しかし、思わず声をかけられたので何時もの癖で遠慮してしまう。
そして彼女を少し観察する。
「そう……? 貴方、お名前は?」
「氷室和希です」
俺はとっさに前世の名前を答えてしまう。
いや、でもこの体の名前を知らないし、これでいいか。
「そうなの、私は西宮咲。これでも西宮財閥の令嬢なのよ」
そう言って彼女は優しく微笑んだ。
チラリと公園の入り口に目をやるといつの間にか高そうな車と黒服を着た女が数人いた。
西宮財閥って何? なんか凄そうな感じだけどこの世界の事何にも知らないし本当にすごいのか全く分からない。
「まぁ、元気そうで良かったわ。よかったらお家まで送るわ。この近くなの?」
「えーっと……」
そう言われて思わず言葉に詰まってしまう。
家何処やねん、こっちとら転移してきたばっかやぞ!!
思い出してくれ、俺の頭!!
「ん?」
そうこうしてる間に咲が首を傾げる。
控えめに言って可愛い。
いや、今はそれどころじゃなかった。
「家ね? え~っと、……ないです」
俺はもう観念した。
戸籍とか大丈夫なんだろうな神様。現代じゃ名もない村から出てきた冒険者テンプレートは使えねーんだわ、つれー。
「えっと……ないってどういう事?」
咲は唖然としたように聞いてくるがない物はないのだ。家なき子だ。
そして俺の天才的な頭脳はひらめく。
ここをキャンプ地とする。
「家、ここです。」
そうして俺はブランコを指さす。
正直俺も混乱していて分けわからんのだ。だっていきなり転移してこの状況ですよ?
落ち着いてるように見えてパニック起こしてるんですよ。
「うーん、つまりホームレス的な?」
咲はそう言って悲しそうな表情をする。
やめてくれ、その表情は俺に効く。
ホームレスね、確かにそうかも。認めよう、俺はホームレスだと。
「はい……」
「そうなの……ご両親は?」
両親? そんなのいるのか? いや、体の持ち主的には居るのか。
うーん、神様その辺どうなってんだろう、やっぱり両親心配してるんだろうか。
俺はうつ向いたまま黙っていた。
「ごめんなさい、無神経だったわ。私のお家においで。そこには男性もいるし、貴方は何も心配しなくていいから」
そう言って咲は俺に手を差し出す。
あれ? なんか勘違いされた? でも、訂正するのもあれだしこのまま流されておくか。
ブランコから立ち上がろうと伸ばされた咲の手を掴んだ瞬間に鑑定が発動した。
「っ――!!」
頭の中に咲のステータスが流れ込む。
思わず膝をついて頭を抱える。
「だ、大丈夫?!」
一瞬の出来事だったがあまりの情報量に驚いてしまったようだ。
「だ、大丈夫、ちょっと頭痛がしただけだから……」
「そ、そう。無理はしないで」
そう言って誤魔化したがさっきの鑑定で咲と言う少女の事がある程度わかった。
彼女のカルマは善で、ある程度信用できること。
そしてステータスグラフみたいなものも読み取れた。
まだ咲の物しかステータスグラフはしらないが軒並みステータスが高く、特に容姿と魅力などがヤバいくらい高いことが分かった。ちなみに年齢は16歳らしい、高校生でこの能力ってすごくね?
あと、どうでも良いかもしれないけれどスリーサイズや体重なんかも分かった。
他にも筋力や精神力や伸びしろなど色々な項目があったが今は咲に怪しまれるので無視する。
「ありがとう、でも見知らぬ男を家に連れ帰って咲のお家の人とかは大丈夫なのかな?」
咲は一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔になって一言、大丈夫よっと言ってくれた。
こうして俺は彼女の家……っと言うか屋敷でしばらくお世話になる事にした。
◇ ◇ ◇
私は西宮咲。
今日、私は公園で一人の男の子を拾った。
彼の名前は氷室和希 恐らく16歳位だと言う。
恐らくと言うのは本人が言っていたので自分でも歳が分からないそうだ。
いったいどんな環境で育ったのか私には想像もつかない。
ただ彼がとてもつらい環境にいたのは間違いないだろう。
彼の容姿から言って誰かに監禁でもされていたのだろうか? 車の中で少し話をしたがあまり世間の事を知らない様子だった。
特に、男女比が1:50程度にまでなっていて、自分がとても貴重な男性であるという世界の常識まで知らないとなると……。
「安藤」
私は執事の安藤を呼ぶ。
安藤の年齢は40代でこの世界でも珍しい男性だが私の家に仕えてくれている。
「はい、咲お嬢様。彼の調査結果が出ました。」
「そう」
「氷室 和希様は戸籍は存在しました。しかし、どうやら両親がその……」
「言いなさい。」
「はい、随分あくどい事をやっていたようです。犯罪ギリギリの事まで。そして、今日あの後すぐに公園に訪れた中年女性に話を聞いたところ母親から少年を買ったと――『ドンッ!!』」
私は一瞬で頭に血が上る。
思わずテーブルを強く叩きつけた。
親が子どもを売った?! それも貴重な男性を! ふざけないで!
「お嬢様」
「ごめんなさい、取り乱したわ」
「それで、続きは?」
「どうやら日常的に虐待もあった様で先ほどお風呂からあがった氷室様の体には無数の痣や傷があったのが確認できました……」
私は深く息を吐き出して自分を落ち着かせる。
「そう……彼を引き取る事は可能?」
「お嬢様が望むのであれば、ただ会長にも報告は必要かと」
「そう、ならお願いするわ」
「畏まりました」
そう言うと安藤は部屋を退室した。
どうか、彼のこれからの人生が明るい物になるようにと私は祈る事しかできなかった。