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第4話 記憶を追い求めて


 少し時間は戻り、店内ではガクウとアオイが服を選んでいた。


 アオイは服を選ぶのに消極的であった。

 文字や数字は読めるのだが、その商品が日本円にするといくらになるかが換算できない。

 高すぎじゃないかしら? と出来るだけ値札の桁が少ない物を選ぶ。


「ねえねえ! これとかどう?」


 対してガクウは、ホイホイと服を勧めて来る。

 平気で値札の数字が七桁ある物まで持ってくるので、アオイは青い顔をせざるを得なかった。


「……大丈夫? 高くないかしらこれ?」

「そんなの気にしなくていーのいーの! で、これどう?」

「……保留で」

「了解~」


 値段を見定めようにも、ガクウはそんな事を全く気にしておらず勧めて来る。

 その為値段の高い低いが彼女にはわからずに困り果てていた。


 今になって、誰かがバカな事を言ったら訂正するジャグーダの存在が、今ではとても頼りになっていたのだと実感できる。

 だが、ここにジャグーダはいない。頼りに出来るのは自分だけ。


 何とかしなければと改めて辺りを見回すと、視界に自分のセンスにピンと光ったモノが入る。

 それは地球で言うノースリーブシャツ。特にこれと言って目立った特徴は無いが、自分の中の欲求衝動が沸き上がるのを感じた。

 恐る恐る値段を見て見ると、五桁程の数字が記載されていた。


 これならいけるわ! と、それをガクウに見せ行こうとする。

 だが、自分の腕を改めて見て棚に戻した。


 彼女の腕には、火傷の跡が残っている。

 きっとこれからも残り続ける症状だと彼女の知識にはあった。


 今は包帯で隠しているが、いつまでも包帯で隠し続けるわけにはいかないし。

 かといって醜い火傷の跡を誰かに見られるのは抵抗がある。

 オシャレをしたければ長袖にすべきだろう。アオイはそう結論付けた。


「長手袋買わない?」

「え?」


 後ろから、ガクウが話しかけてくる。

 あまりに唐突だったもので、アオイは反応するのに遅れてしまった。


「だって、それ着たいんでしょ? 似合う長手袋探そうよ」

「え、ええ」


 ガクウはこっちだよ、と手をアオイの手を引く。

 手袋で隠せばいいという発想が出てこなかったことに、恥を覚えてしまう。

 しかし、何故だか悪い気分ではなかった。


「大丈夫。絶対アオイちゃんに似合うのあるって!」


 ガクウは力強く頷き、優しい笑みを見せた。

 それを直視できず、アオイは思わず目線を逸らしてしまう。

 自分の気持ちがわからず、顔を伏せながらガクウに手を引かれるのであった。


     ◇


 二人が買い物を終え外に出ると、町の人々が何やら騒いでいた。

 ベルゼフォンの背中に起用に寝転んでいるジャグーダは、やっときたかと二人を出迎える。


「ほーん……」


 ジャグーダがアオイを見ると、既に店で着替えていた。

 ポンチョを肩にかけており、白いノースリーブのシャツに黒い手袋をしている。

 太ももが見える様な短いスカートからは、ニーソを支えるガーターベルトがちらりと覗いた。


「趣味全開だな。それ」


 ジャグーダが皮肉を言うと、アオイはリボンを結んで作ったポニーテールを揺らしながら、全力で首を横に振る。


「違うの。髪の毛をリボンでまとめるとか、そんなあざとい事私する予定無かったのよ? でもヘアゴムにしようとすると、何故かやんわりと止められてしまうのよ」

「気にするのそっちかよ……。まあヘアゴムとか、ババアの使うもんだしな」


 ジャグーダの言葉に、アオイは目を丸くさせて驚く。

 そんな話、彼女の知識の中には無かったからだ。


「どうしてそんな風潮が出来上がっているのかしら?」

「あー……そうだな。本や芝居とかで、髪の長い英雄は紐の類でまとめ上げるからじゃねーかな」

「おじいちゃんおばあちゃんだと、結んでまとめるの面倒だしね」


 割と真っ当な理由が存在し、なるほどとアオイは納得する。

 それと同時に、どこまでも自分の知っているモノとは違う価値観で出来上がっている世界なのだと、アオイは実感した。

 一体なぜ自分は地球からこんな場所に来てしまったのか? その理由は未だ不明である。


「そう言えば町が騒がしいけど、何かあったの?」

「マスターが帰って来た」

「父さんが? じゃあ合流した方がいいかな……」

「どうせあっちから来るだろ。俺達が合流すると面倒だしな」


 マスター? 父さん? と不思議がっているアオイに、ベルゼフォンが話しかける。


『二人の父親は勇者の子孫と言われていてな。それに見合った実績もある。それに加え、二人に剣や魔法を指導した師でもあるのだ』


 ベルゼフォンの話を聞いて、アオイは冷や汗を流す。


「……もしかして私、凄い人たちに拾われてる……?」

『ああ、吾輩も凄いが、二人も戦争を勝利に導いた英雄だ。父親に比べれば小さな称賛ではあるがな』

「……そうなの」


 戦争。

 その言葉に、アオイの言葉がチクリと痛む。

 ただ耳にするだけで、胸の気分まで悪くなってくる単語。


 そして、二人が戦争に関わったことがあるというのが、アオイには信じられずにいた。

 ガクウの満面の笑みは子供の様に思えたし、ジャグーダも口は悪いが性根は良い人のように思える。

 二人を知ってまだそれ程の時間があるわけではなかったが、どうしても彼女の知る戦争とは結びつかなかった。


 そこまで考えが至り、ふと気が付く。


(私は戦争を知っている――――?)


 知識と言う意味ではなく、体験した事があると言う意味で。

 何か引きずりだせないかと懸命に頭を回転させるが、自分の記憶が思い出されることは無かった。


「大丈夫?」

『気に障ったことを言ってしまったか?』

「……平気よ。貴方が気に病むことじゃないわ」


 余程酷い顔をしていたのだろう。

 ガクウはアオイの背中を優しくさすり、ジャグーダは黙って水筒を差し出してくる。

 ありがとう、とお礼を言って水筒の中身を一気に飲み干す。


「ったく、もう寄り道は無しだからな。まっすぐ保管所へ行くぞ」


 保管所。

 この町に来た時にそんな話をしていた覚えがあったアオイだが、それが詳しくどういうモノかは知らずにいた。


「保管所? 何があるのかしら」

「お前が入ってた異物だよ。俺には燃え尽きた鉄塊に見えるがな」


 そう言って、ジャグーダは真っすぐ歩いていく。

 二人と一匹も、その後に続いた。


     ◇


 ジャグーダのいう保管所とは、アオイの知る限りだと大きな倉庫だった。

 町から少し離れたということもあり、あまり使われていないのだろう。どことなく廃れた印象を感じる。


 中に入ると、中央にポツンと黒く焦げた鉄塊があった。

 大きさは、彼女の知る一階建ての一軒家程度の物で、中は何やらむき出しになっている。

 しかし、それだけでは空を飛べないと、彼女の知識が導き出していた。


「これだけ?」

「元々はどでかい物だったらしいが、落下中に爆発四散して、国中にバラバラと広がっちまってる。他の物は国が回収してるって話しだったが……詳しは知らねえな」


 そこまで大きな話になっているとは思わず、アオイは表情を曇らせる。


「……ごめんなさい。迷惑かけてばかりで」

「だったらさっさと思い出せ。その為に出てきたんだろう?」


 言い方がキツいジャグーダだったが、アオイはもっともだと頷く。

 迷惑をかけてばかりはいられない。早く記憶を思い出して、迷惑をかけた人々に説明しなければならないと思った。

 彼女に今できることは、それだけなのだから。


「……行くわ」


 意を決して、アオイは自分の記憶を追い求め、異物の中に入っていく。

 ガクウとジャグーダも、アオイを守るように続いていった。


 崩れたら危険なので、ベルゼフォンは外で待機。


『吾輩、またお留守番か……』


 守護神と称えられている竜は、倉庫の外でうなだれた。


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