二章・04
翌日。
俺が教室に到着する頃には、どうやら他の生徒は一通りそろっているらしかった。
「……、……」
喧騒に分け入って、自分の机にたどり着く。
周囲の連中に挨拶を飛ばすと、高杉君を始めとした幾つかの声が返ってくる。
どれも昨日の委縮っぷりに比べれば好意的な声に聞こえた。今のうちなら、彼らの会話に混ざっても違和感はないはずだ。
はてさて、どのような話題を持ち込んだものか。
――などと悩む俺の後頭部に、覚えのある声が飛んできた。
「先輩っ!」
「……渚ちゃん?」
先輩? と周りの連中がややざわつく。
それに俺は「あだ名みたいなもんでな?」と曖昧なフォローを加えておいた。
「昨日はありがとうございました! おかげさまで、――無事に告白できました!」
「うぇ?」
ざわつきが強くなる。
ただ、鳩羽の天真爛漫な表情で、聞いていた周りの男子はみんな騙されてしまったようだ。
どこか、軽やかな印象がある喧騒であった。
「いや、……っていうか早くね!?」
「昨日恋愛運一〇〇点だったんですよっ」
「あ、そうなの……?」
いやわかんないけど。というかこの子マジで大物だ。バイタリティがヤベえ。
「これ、お礼です」
と言って、彼女は五〇〇ミリ缶入りのコーラを俺のうなじに当ててきた。
……なにやら、俺を待つ間にぬるくなっていたようで、大したリアクションも出来ずに俺はそれを受け取った。
「それじゃあ!」
「あー、うん。仲良くやってね」
「はいっ」
言って、鳩羽が女子のグループに戻っていく。俺がそれを視線で見送っていると、その向こうに佳城の姿が見えた。
「……、……」
佳城も、俺の視線に気づいたようだ。
その手にあったコーラの缶を、俺の方に向けてふらりと振った。
「――で、なんだったの今の!」
……視線を切って俺は、そのように高揚した様子の高杉の方に応える。
「……、……」
さてと、どこまで話したものだろうか。
告白、というフレーズは彼女が話してしまったし、その他のこととなると、面白い話ができる自信はあまりない。
「まあ、……大した話じゃないんだけどね?」
――女子のプライベートということもあって、俺は少しばかり言葉の選び方を迷ってしまう。
なにせ、コントの件などは普通に考えて全カットだ。本当に、話せることなんて殆どない。
「……。」
かくして俺は、
そのような薄い話を、せめて最大限のユーモアで着色して、彼らに話して聞かせたのだった。




