現実とは違う灯り
後悔先に立たず。
夕食を済ませた英助が待ち受けていた現実とは--
ーーー
青年が取手を回し、ドアを押しながら、
「あー、食った食った」
と、もう片方で腹をさする。
ドサッという音ともに、ベットに上半身を仰向けにし、寝返る。
腹が少し見えている何とも格好の悪い状態だ。
そのまま軽くうつむいたかと思うと、青年は、またあのビデオ店に行くかと思いつつ
「よっこらっしょ」
と反動をつけて起き上がる。
「そういえばあの漫画返さなきゃな」
そう言い、本を見る。
あれ?
おかしいな、俺いつの間に開いたんだろう?
そんな思いを抱きつつが、全く警戒心はない。
おそらく反動で開いたとでも思っているのだろう。
そっと手に取ると、
第1章、灯りの魔法
と最初に書かれていた。
「なんだよ、これ」
苦笑いしつつも、
どうせ借りたんだし少しでも読まなきゃなと、軽はずみで漫画に目を通す。
それが後になり大波乱の幕開けになるとも知らずに
ーーー
「…えーと、ダイヤモンドの原子に近しいモノと塩1g、水少々?
ぶっは、料理本か?!
にしてもダイヤモンドの原子に近いモノ何てどこにあるんだよ」
腹を抱えて笑う青年。
しかしながら、あるモノが浮いて目の前に止まった。
フリーズ。
この言葉が英助の状態では当てはまる。
数秒後。
「うわぁあぁ!?」
目を点にし、後ろに足をバタつかせながら転んだ。
手を後ろにつき、M字型の体制で固まっていた。
そんなことも、お構いなしに漫画とあるモノは近づいてきて、また目の前に止まった。
「…シャー…ペン?」
そう。
それは紛れもなく、いつも使用しているシャープペンシル。
だがなぜだ。
なぜ、これが浮くのか?
「炭素…ダイヤモンドの原子に近いもの。シャーペンの…芯?」
まさか!
そんなわけはないと思いつつも、シャープペンシルから芯だけを抜き取った。
カラランコロン。
シャープペンシルは落ちた。
しかし、シャープペンシルの芯は落ちずに浮いたまま。
青年ははっとして、漫画と芯を奪うように手に取り、1階へかけ降りる。
「し、塩と水っ!」
そう言って青年は、台所から適当なコップに水を容れ、塩入れを手に取り庭先に出た。
「塩、塩1gどう量るんだっけ?」
あたふたしていると、水と塩を溢してしまった。
あぁ、やってしまった
そう思ったが、シャープペンシルの芯も一緒に落としてしまっていた。
するとどうだろう。
芯を中心に、青い光がうにゃうにゃと浮いてくる。
ある程度の量になると、雫型に固まり出した。
運よくも成功したのだ。
余った水と塩は地面に残ったままで、後が心配だが、出来たのだ。
気が付けば、夜も更けている。
英助はワクワクとドキドキで、夜は布団のなかで雫型の灯りを見ながら漫画を抱きしめるように高揚していた。