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魔法ととある科学書  作者: kaHo
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日常の夜からの旅立ち

 妙に涼しげな夏ももうすぐ終わる頃。

遠くを見れば、黒ずんだ海が見える。

空には星が輝いている。

見上げれば、曇りがない絶好の夜景である。

そんなある日のこと。

どこにでもある少し田舎町ーーーー



 その田舎に唯一ある2階建て屋上駐車場のビデオ店で、小学校高学年と見られる子供たち3人が店内でいた。

もう夜も遅いと言うのに、子供たちは半袖で半ズボンという姿だ。

中には、タンクトップの姿の子も1人。

赤いタンクトップを着て焼けた素肌の坊主姿が印象的だ。

他の2人は黒髪短髪にロゴの入ったTシャツを着ている。

黒髪短髪の少年の1人は眼鏡をしポケットの多いズボンを着ていたところで、特にこの3人には何か特別な事情があるわけでもない。

 やんちゃなその小学生の少年3人は、昨日のテレビの話をしながら、屋上に繋がる階段に向かっていた。

恐らく座って雑談でもしようと思ったのだろう。

さして、屋上に用があるわけでもなく、こなれた感じで3人で話が盛り上がっていた。

おそらく近所の少年達のようだ。



 ところでこのビデオ店、屋上にいくには階段しかない少し不便なビデオ店でもある。

駐車場はなかなか広く、夜に屋上に停めに来る客は少ない。

この日も、2、3台といったところか…

そのためか、屋上に繋がる階段の辺りは薄暗い。

しかしながら、CDやDVD以外にもコミックなども置いていて、意外となかは豊富に揃っているため、田舎ながら店内はちらほらといる。



 そんななか少年たちの1人である半袖に半ズボンといった平凡の少年は、階段の手すりを背に反っている。

黒髪短髪の眼鏡の少年は、正反対の壁際で階段に足を一歩踏み出している。

 そして、まだ階段に足を踏み出していない小麦色に焼けた少年が何かを踏んだ。

「……なんだこれ?」

そうい言いながら、手に取ると食べきったアイス棒だった。

しかしながら、裏をみると"当たり"と書いてある。

それを見や否や、小麦色に焼けた少年が、

「やった! これ当たりだぜ。がるがる君!」

と言いながら、テンションがあがった声でガッツポーズをしていた。

それを聞いた少年2人は、

「マジかよ!?」

「えっ、めっちゃいいじゃん」

と歩み寄る。

眼鏡の少年もそれを確認すると、

「うわっ、まじだ。なぁなぁ俺にくれよ! 前に貸した10円まだ返してもらってないじゃん? それでちゃらにするからさ」

と我先にとしゃしゃり出る。

負けじと今度は、半ズボンの少年も黙ってはいない。

「ずりーぞ! 俺だってほしい!」

3人はその後一悶着し、今いる場所が階段のためか、じゃんけんの"グリコ"で一番先に屋上に上がった者が当たりのついたアイス棒をもらうという話で落ち着いた。



 そんななか、ビデオ店の屋上めがけてじゃんけんをしている少年たちのことなど全く知らない学生であろう水色のブレザーの制服を着た少年、いや青年といっていいのだろうかーーーー

身長170センチを越えている高校生が自転車で駐車場を上っていく。

 上り坂がきついのか、立ちこぎをしつつもあまりにも急なのか、途中で締めているネクタイを少し緩めながら息絶え絶えに屋上に向かっている。

「はあっ、はあっ、……はっあ」

 という最後の力を絞りきったかのような声とともに、屋上に着いた。

 自転車に乗っている青年は、しばらく空を見上げ、はたからしては何かに耽っている様子だが実はあまり意味はない。

ただ、ひとつ前の古いiPodに流れている曲と涼しげな風が心地よいのだ。

少し立ち止まったあと、今度は勢いよく出入り口を目指した。



 青年が出入り口を間近にひかえたとき、

「やったー! 俺のもん♪」

という、先程の小学生の1人である小麦色に焼けた少年が両腕をあげて鼻歌を歌いながら駆け足で出てきた。

当然、青年はブレーキを踏むが間に合うかどうか…

キキーーーーー

そんな甲高い音ともに、小麦色に焼けた少年が、

「うわあ!!」

と後ろに転げながら倒れこんだ。

弧を描くように、避けた青年。

間一髪で、轢くのを免れたようだ。

少年のすぐ前には、青年の自転車のブレーキでかすれた線がうっすら駐車場に残っている。



 しかしその音と悲鳴めいた声で、残りの2人もどうしたんだと言わんばかりに出てきた。

「おい、どうしたんだよ? 大丈夫か?」

「なんかあったのか?」

と駆けつけてきた。

 お互いに驚き少し固まっていたが、青年がハッとなり自転車を止めながら、

「大丈夫か?!」

と転げ倒れた少年の元に駆け込んだ。

続けざまに、

「怪我は?」

と問う。

転げ倒れた少年も唖然としていたが、少し経つと、

「もう少しで危ないところだったじゃねぇか!? 自転車で屋上に来るんじゃねえよ、バカ!!」

と叫んだ。

「……悪い。今度からは気を付けるよ」

怪我がなさそうだとわかって一安心したのか、青年は意外と冷静であったが、

  駆けつけた眼鏡の少年は、

「一体どうしたんだよ?」

と心配そうに聞く。

小麦色に焼けた少年は、

「あいつが勢いよく向かってきたんだよ!! ……はぁ、危ないところだったぜ……?」

そこで、なにか足りないのに倒れこんだ小麦色に焼けた少年が気がつく。

「ああーーーー!? 当たり棒がない!?

えっ、えっ、どこだよ俺のがるがる君!」

と付近を探すがない。

 この屋上は少し他の屋上とは異なっている。

屋上は2つに分離しており、屋上にあがったところの半分が車の2/3低いのだ。

そして出入り口の東側が高いとまではいかないが塀になっている。

つまり、屋上の出入り口は東側は行き止まり。

そして、小麦色に焼けた少年が転けた方角も東側。

もしかしたら1Fの駐車場に落ちた可能性が高い。

折角見つけた当たり棒。

 怒りの矛先は、当然青年に向けられる。

「俺のがるがる君の当たり棒どうしてくれんだよ! 探してこいよ!今すぐに!!」

当たり棒を競り合っていた少年2人もそうだそうだと捲し立てる。



 青年は困った事になったと、内心溜め息をついていた。

青年は、

「わかった。これで皆で買ってこい」

とがるがる君3本分の値段にお釣が少し出る程度の小銭を渡す。

 するとさっきまでの勢いはどうしたのか、少年たちは嬉しそうな顔をしていた。

転げ倒れた小麦色に焼けた少年がハッとなり、躊躇いながら、

「……し、仕方ないから、これで許してやるよ……」

続けて、

「で、でもよ、当たり棒分足りないぜ? ……ほ、ほら。よ、よこせよ」

とせがんでくる。

 なけなしの小遣いがと内心泣いている青年は大きな溜め息をつき、がるがる君1本分の小銭を出す。

「もういいか? 中にはいっていいかな? 怪我がないなら」

と手を差しのべる。

 小麦色に焼けた少年はにやけた顔で青年の手を振り払い、自身で起き上がった。

土埃を払いながら、にやけるのをおさえつつもあごを少し突き出し、

「ぉお……別にいいぜ」

と、偉そうにしているつもりなのだろう。

 青年の20センチ以上低い相手にどう臆せようか。

全く恐ろしく感じない青年。

まぁ轢いていたら、これだけでは済まないからがるがる君の4本で満足するならそれで良しとしよう、と青年はじゃあと片手を振りながら店内に入っていった。




 屋上には、しばらく3人の少年が声には出さずに影の方でガッツポーズしていた。

青年は、やっとのことで入れたビデオ店の2Fにあるコミックコーナーにいた。



 何かこれと言って読みたい物もなく、ただ面白そうな新作漫画でもないか探していた。

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