表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8


 そういえば、エルフって元々妖精の血を引く種族だったんだっけ。

 妖精と言えばいたずら好きな種族で、地球でも色々な伝説が残っているけど、こっちの世界も同じで、色々と迷惑をかけまくるそうだ。

 そのためか、エルフやドワーフといった妖精の血を引く種族も、先祖返りなどで極まれにいたずらが好きなやつが生まれるらしい。


 ちらと、ウィーネを見てそう思った。


 ウィーネが引き連れてきた魔物は三十匹以上。それだけならまだ何とかなっただろうけど、問題は、でかい斧のような武器を片手に粋がってる巨大なオーク、十階層にいるエリアボスだ。

 こいつを討伐するのに、ギルドが推奨する人数は二十レベルを四人ほどだ。

 でもこっちは俺二十三、ウィーネは三十代。正直戦力的に心許ない。

 しかしここで下手に逃げるとモンスタートレインになってしまう。他の探索者たちに見られでもしたら、悪評が一気に広まって表を歩けなくなる。

 そして一度広まれば、自称正義の探索者とやらに狙われる確率は格段にあがる。こうなればもう探索者としては死んだも同然だ。


 ここで倒すしかない。


 魔物どもは俺という探索者が一人増えたためか、今はまだ様子見しているようで、襲いかかってはきていない。が、当然時間の問題だ。


「ウィーネさん、色々と言いたいことはありますが、まずは二人でアレを倒しましょう」


 俺がそう言うと、ウィーネは驚くような声をあげた。なぜ自分も戦わなければならないのか、という顔だ。

 そして一言、蒼き盾よ、とだけ呟くと同時に、彼女の周囲にうっすらとした蒼い壁のようなものが生み出される。


≪ほう、精霊魔法の蒼の障壁ディーシールドか。詠唱速度、魔法強度、精霊との親和性、どれを取っても申し分ない。この娘、なかなかの使い手だな。ただ惜しむべきは魔力伝導率に若干のムラがある点だ。なるほど、詠唱を学びたいと汝に伝えてきたのは、自分の足りない場所が分かっているからか。素晴らしい才能と、それに値する努力だな≫


 先生、こんな場面で評価しないでください。

 しかしべた褒めだな。

 前にフィーリュの殺気を吹き飛ばしたのは精霊魔法を使ったから、と言ってたけど、なるほど詠唱が速い。これじゃそうそう魔法詠唱は読めないだろう。

 って、そうじゃなくって! 

 この魔法って盾だよな、つまり自分は安全地帯へ逃げ込んだって事だよな?


「これは師匠の試練です」

「普通試練は師匠が弟子に対して与えるものだと思います。というか、手伝ってください、さすがにあの数は私一人では無理です」

「わたしが一緒に戦うと魔法見られない」


 そういう問題じゃないから!

 俺が死んだら魔法は二度と見られないだろ!?


 そう叫びたかった。

 だが叫べなかった。なぜならオークキングが一声吠えると、魔物たちが一斉に襲ってきたからだ。


 俺ここから生きて出られたら、浴びるほど酒を飲んだあとに、このくそハーフエルフの母親に文句を言うんだ!


 泣きながら、俺は両手に持った二振りの剣を振り回した。


♪ ♪ ♪


≪このままでは汝は死ぬな≫

「なら助かる知恵をくれよ先生!」


 半分以上魔物を倒したが、そろそろ息がやばくなってきた。

 いくら十階層の魔物で、ダメージはほとんど受けないとはいえ、体力的に辛い。

 低階層にいる魔物は連携など何も考えず、本能の赴くままむしゃらに襲ってくる。が、エリアボスがいる場合、そいつの指示に従うのだ。

 そしてエリアボスは総じて知能が高い。

 オークキングはまず、俺の体力を削る事に専念したのだろう。うざいくらいに二匹ずつ、左右同時に襲ってきやがる。

 少しでも疲れた様子を見せると、すぐオークキングがそばに来て斧を振りかざし、襲いかかるフリ・・をしてくる。

 さすがにアレで切られれば、下手すると死ぬから警戒しなければならない。その分魔物への対応は遅れるし、ダメージは殆ど受けなくとも疲労は蓄積してくる。

 なんだよ、随分と狡猾じゃないか。


 徐々に押され始めて来ている。

 右にきたシュゼールンを剣で切ろうとしたとき、左のバラスというタコのような魔物の触手が俺の腕を叩き、逸らす。

 そのせいでシュゼールンは剣筋から逃れると、即座に反撃してきて、俺の腕に噛みついてきた。一瞬痛みに顔をしかめる。

 なんだよこいつら!

 剣の柄でシュゼールンの鼻先を叩くと、キャン、という鳴き声を発して口を離した。更に追撃で蹴りを入れて吹き飛ばすと、すかさず次の魔物が空いたスペースに割り込んでくる。


 これはまずい。


 悪評が立つのは諦めて逃げる事にするべきか?

 ここで死ぬよりはマシなはずだ。

 足が魔物たちと逆の方向へ行こうとした時だ。

 まるで俺の考えを読んだかのように、えっち先生の声がぼそりと脳内へ響き渡った。


≪我が思うに、汝は本当の戦いを経験したことがないのが、この原因だ≫


 さすがにこの状況で会話している暇はない。

 バラスの触手を斬り落とす。

 だがまだ触手は残っていて、俺の腕を引っかけるように絡めてくる。


 ……本当の戦いって、なんだよ。

 俺が言葉に出さなくとも、えっち先生は会話を続けた。


≪本当の戦いとは、命をかけたやりとりだ。百年以上昔は、それこそ死闘を繰り返した探索者ばかりだったが、今のダンジョンは安全性を随分と高めている。誰も彼もぎりぎりで戦わぬ≫


 ……そりゃそうだろう。右も左も分からなきゃ、そうならざるを得ない。そうして蓄積していったダンジョンの情報によって、探索者の死亡率が減ったのだ。

 偉大なる先達のおかげで、俺らはこうして安定した生活を続けられているのだ。


 右手に持っていた小剣を落としてしまう。

 それを好機と受け取ったかオークキングが接敵してくる。が、学生の頃、授業でやったサッカーを思い出しながら足を上手く使い、落とした小剣を蹴り上げ手でキャッチした。


≪だがそれでは、いざという時何もできない探索者が増えるばかりであろう? 汝などまさにそれだ。危険を侵さず得るものなど少ないのはこの世の真理である。現にこの八十余年、五十階層を突破したものは皆無だ。汝が五十階層へたどり着くのにいったい何百年かかるであろうな≫


 命大事に。これは当たり前だろう? 死んだら元も子もないのだ。

 安全マージンと稼げる金額とを天秤にかけ、ぎりぎりのラインで安定して稼ぐのは普通じゃないのか?

 それとも、これは攻略本や攻略サイトを見ながらゲームをクリアしているようなものなのか?


 俺の行為に驚いたオークキングに隙が出来た。拾い上げた小剣を迂闊に近寄ってきたオークキング目がけ下から振り上げる。

 が、それはオークキングの皮膚を浅く斬っただけに止まった、堅い。


≪汝もここで勇気とやらを持てばどうだ。無謀とは異なるぞ? 汝はこのオークキングを討伐出来るだけの力は持っているのだ、安全まぁじんとやらは知らぬがな。何のために我は汝としち面倒くさい魔法の練習をしたのだ? こういう予想外の事が起こった時のためであろう? ここで使わずしていつ使うのだ?≫


 いまでしょ!

 とでも言えばいいのかよ。

 でもえっち先生の言いたいことも分かる。

 俺はこうして攻撃しながらでも魔法詠唱がほぼ・・出来るように練習はしておいた。

 傍から見ると変に思われるようなものだから、こっぱずかしくて室内だけしか使った事はないけど。


 オークキングが憎々しげに俺を見て、一旦下がる。

 追いかけようとするものの、シュゼールンが足を狙って噛みついてきた。

 そいつを蹴り上げ浮かし、脳天へと小剣を振り下ろした。

 粒子となって消えてくシュゼールンだが、バッツィオという紫色したイモムシが毒の糸を吐いてきた。

 内心舌打ちしながら地面を蹴って下がった。

 ざっと周りを見ると、まだ魔物は十匹以上残っている。


 えっち先生よ、確かに俺はかなり安全マージンをとって戦ってきた。

 だけど初めてダンジョンに潜った時、最初の戦闘では足の震えが止まらなかった。目を塞ぎながら丈夫な杖で一階の魔物を叩いていたっけ。

 いま思えば何と情けない戦いだっただろうか。

 でもあの頃は、それはそれは怖かったよ。あれは初心者の頃の俺にとっては死闘そのものだったんだ。

 だからな、本当の戦いを経験したことがない、と言われるのは心外だ。


 やってやろうじゃないか!









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ