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 蒼く長い髪に、エルフの血が半分混じってる故か非常に整った顔立ちだ。年の頃は十代中頃に見えるが、ハーフとはいえエルフは非常に長命種族であり、見た目通りの年齢ではない事が多い。

 そして持っている杖はかなりの高級品で、着ているローブも俺のとは雲泥の差だ。

 一見して高レベルの魔法使い。あの装備を見る限り、十八階層に来るようなレベルではない。

 貴族じゃないと使えない人間とは違い、エルフやドワーフといった半妖精種族は魔法が使えるのだ。だからこの迷宮都市にいる魔法使いの大半はエルフ、またはドワーフであり、人間の魔法使いはあまりいない。


「……えっと、どちらさまでしょうか?」


 少なくとも俺にこんな可憐な少女の知人はいない、初対面のはずだ。

 それにダンジョンの中では探索者同士の接触は、同じクランでも無い限り御法度。余計ないざこざを避けるためであり、せいぜい互いに警戒しながらも、敵愾心がない事を示すよう会釈する程度だ。

 ダンジョンは広い。一階層の面積は階層によっても異なるが、広いところだとこの迷宮都市の十倍以上あるらしい。

 いくら探索者が数万人いたとしても、そこまで出会う事は往来の頻度が高い階段か出入り口くらいしかない。

 不釣り合いなレベルのものが低階層、しかもここは階段から離れているようなところに来るのは実に怪しい。

 故にある程度の距離を離れ警戒する。

 探索者のレベルはそのまま肉体の強さを表す。いくら見た目が力のなさそうな可憐なハーフエルフでも、俺よりレベルが高ければ力は向こうが上なのだ。


「貴方の魔法すごく綺麗だった」


 そんな俺の考えとは裏腹に、実にフレンドリーな話し方だった。でも表情は、にこやかに笑うでもなく、変化に乏しかったが。

 ああ、無口キャラか。○門さんいいよね。

 でも俺の問いかけの答えにはなっていない。


「そ、それはどうも……ありがとうございます? 重ねて失礼ですが、どちらさまでしょうか。あ、私の名前はエージロー=カサキという魔法使いです」

「ウィーネ」

「ウィーネさんですね、よろしくおね……ってウィーネ……ハーフエルフ……もしかして、あの、捧げる剣ブレードデヴォートの?」

「うん」


 クラン捧げる剣ブレードデヴォート

 剣神ソードガイアの二つ名で呼ばれるレベル四十八の剣士率いる、この迷宮都市で最大手クランの一つだ。

 そして剣神ソードガイアにはウィーネとフィーリュという双子のハーフエルフが娘にいる。剣神ソードガイアという都市最高レベルの探索者が手塩にかけて育てたらしく、その実力は若手ナンバーワンとの名が高い。

 年齢はあまり覚えてないけど二十才は行ってないはずだが、確かちょっと前にレベル三十を超えたとか噂できいた事がある。


 ぼく三十四才でレベル二十三ですがなにか?


 とは言っても、俺は探索者になって十四年、翻って目の前の少女もおそらく幼少の頃から剣神に鍛えられたので似たような探索者歴だろう。

 つまり探索者歴はほぼ同じ、育てられた環境が違うんだ、俺の才能が低いわけじゃないんだ!


 えっち先生と出会う前は十年かけてレベル十五だったけどな。


「そんな有名な方がなにゆえこんな低階層に?」

「魔法の練習」


 彼女の答えに首を傾げた。

 迷宮都市内は私用で魔法を使うことは固く禁じられている。だから魔法使いは魔法実験や練習をする際、ダンジョンに潜る。

 そして五階層までは町の住人、つまり探索者でない一般人向けに割り当てられているので、大抵六階層から十階層の間で実験を行う人が多い。

 わざわざ十八階層まで来る人はほぼ居ないと言っても良い。


「人が多くてうるさいから」


 首を傾げた俺に、少ししょんぼりしながらそう伝えてきた。

 ああ、有名だから一目見ようとする輩が多いのか。

 この子が有名なのはもちろんレベルもそうだし、最大手クランのリーダである剣神の娘というステータスもそうだが、やはり見た目が非常に可愛いからだろう。隣の領地だったエフェフィーナ子爵令嬢より上かもしれない。有名税ってやつだな。

 でも魔法の練習ということはもちろん制御に失敗する可能性もある。万が一流れ弾が見ている人たちに向かったらどうなるか。

 有名な分、悪い噂が流れるのは早い。そうなったらギルドに弱みをつけ込まれるだろう。

 だからあまり人が来ないような場所に来たのか。


「とても勉強になった、ありがとう」

「……あの、お礼の言葉をいただいても、私、何かしましたか?」

「うん、魔法の制御を見てた」


 魔法を成功させるには正確な呪文詠唱はもとより、適量の魔力量、その魔力を流す際の制御などが必要だ。

 俺は転生者の性なのか知らないけど、物心ついたときからずっとそればかり繰り返してきたから、魔法制御には自信がある。

 俺は回路だ、電池を使って電流を流すのだ、なーんて思いながらやってたな。

 それが難しければ○タゴラスイッチと言い換えても良い。


 それでも剣振り回しながらの魔法発動は難しいけどね。


 それよりこの子、魔法の制御を見てたということは、魔力の流れが視える・・・のか。さすがエルフの血を引くだけあるな。

 それにエルフは水と風に親和性が高いので、俺がメインで使う風魔法もジャンルは違うけど理解しやすいのだろう。


 ……でもいつから見てた? 俺全く気がつかなかったんだけど。


 索敵というか気配を読むことはほどほどに出来てるつもりだ。そうでないとソロでダンジョンには潜れない。

 これは相当レベル差があるな。


「そうでしたか。私程度の腕で申し訳ないですが、それでウィーネさんの勉強が捗るなら幸いです」

「エージローは貴族?」


 呼び捨てかよ。

 いやまあレベルは俺のほうが低いから、探索者としては普通だし別にいいんだけどさ。


「元貴族、ですね」

「ダンジョン嫌い?」

「いいえ。貴族じゃなくなったのは単に私の才能が足りなかっただけですし、幸いこうして探索者になって生活できるようになりましたから、ありがたい存在ですよ」


 ぶっちゃけ貴族なんてお堅い人たちだらけだし、礼儀にうるさいし、飯はそこまでおいしくないし、魔石のせいで仕事がなくいつも暇してたし、エフェフィーナ子爵令嬢は可愛かったけど兄貴に取られたし……甥っ子や姪っ子は元気してるかな、もうかなり大きくなっただろうな、ちくしょうめ。


 それはさておき、生活は正直苦しいが楽しさだけで言えば、今の探索者のほうが何倍も自由で楽しい。

 それに夜遅くまで起きてても誰にも何も言われないしな!

 昔は魔力制御の練習に夢中になって夜中だったとか、夕飯食べそびれたとかしょっちゅうあったっけ、懐かしい。


「クランは?」

「元貴族故、生憎とどなたからも一歩引かれています」

「じゃ問題ない、わたしが拾う」

「……え? ちょ、ちょっと」


 いきなりウィーネの姿が掻き消えたと思ったら、いつの間にか俺のすぐそばまで近寄っていた。更に俺の腕をむんずとつかんでいきなり走り出す。


 うわっ、なにこの子めっちゃ力あるよ!

 しかもさっき目で追えなかった。これもしかしてレベル差十以上ないか?

 探索者でレベル十以上差があると絶望的な開きがある、とは聞いたことがあるけど、実際本当に絶望的だな。

 しかもこの子前衛タイプじゃなく後衛タイプの魔法使いだろ?

 それでこの身体能力ってマジかよ。

 いや、仮にも剣神の娘だ。俺と同じように武器もって戦えるのかも知れない。


 というか、なぜ俺は連行されているの? 何か悪いことした? えっち先生教えて!


≪我には理解できぬ。ここ最近英知という名が重く感じるようになってしまったわ≫


♪ ♪ ♪


 しばらく腕捕まれて引きずられてたら、突然停止したかと思うと、そのまま腕を離された。

 腕が真っ赤になってるぞ、力強すぎだろ!


「フィーリュ」

「あれ、ウィーネ姉、どこ行ってたの? っていうか、そのおっさん何?」


 彼女が声をかけたのは、もう一人の自分……でなく、ウィーネの髪を短くしただけの本当に似た女の子だった。

 双子の妹、フィーリュだろう。

 手には長剣を持っていて、周りにはごろごろと魔石が落ちている。かなり魔物を倒したのだろう。そして、拾っていないということは、彼女にとってこの階層の魔石など拾う価値もないのだろう。


 ……拾わないなら欲しいかも。


 じゃなくって、何、と言われても俺も何が何だかさっぱり分からないんだよ。

 取りあえず立ち上がり、ローブについた汚れを叩いて落とす。

 そして改めて挨拶を交わそうとしたところ、ウィーネに指を指されながら先制された。


「拾った」

「拾った場所に返してきなさい!」


 ほんとそれな。

 俺も今日は魔石が予想外に多く集まったんだから早く帰って酒飲みたいんだよ。

 だから返して。


 それを丁寧な言葉で言おうとしたら、またもや先制された。

 しかも爆弾だ。


「だめ、わたしの魔法の師匠」

「「は?」」


 俺とフィーリュの声が意図せずはもった。




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