偽の勇者、魔王の側近
あるところに、勇者がいました。その者は、この世界の者では無かったのですが命をかけて、世界に満ちた闇を祓うために、闇の者達と戦って下さいました。その事に国民は感謝し共に戦いました。そして闇を祓う事が出来きました。世界は光が差し込み、みんなの顔にも笑顔が浮かびました。そんな出来事を起こした勇者は、元の世界に帰ると一言残し消えたのでした。その事に国民は落胆しましたが、勇者が守った世界と言うことで必死に復旧し今の平和な世界になったのです。
ライマ国[勇者の伝説]より抜粋
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ここは、時咲高等学校。この町で、一番偏差値が高い学校だ。俺は、スポーツ推薦で入ったが‥‥‥
いつも通り部活を終えて、帰ろうとしたのだが忘れ物をした事に気がついて教室に戻った。教室に入ると、クラスでも少し浮いた存在の神永 和しかいなかった。神永 和はとにかく無表情で近ずき難い雰囲気を纏っている男だ。放課後の教室で一人で勉強をしていたのだろう。成績良いからな~ と思いながら自分の机に向かった。そして、忘れていた物も鞄に入れ帰ろうとしたとき、突然辺りが光に包まれた。光が収まるとそこは、古代神殿を思わせる場所にかわっていた。
隣を見ると神永もいる。俺達の周りには、黒いマントを身に纏い顔に白い仮面をした者達が取り囲んでいた。
俺は、突然のことに動揺を隠せなかった。はっきり言って混乱していたのだ。
しかし、隣の神永 和はまるでこうなる事が分かっていたかのように、ため息を吐いたあとにクラスでは見せないような呆れた顔に柔らかい雰囲気を纏いながら、目の前の男達に向かって言い放った。
「あなた達が、私のことを呼び戻したということは、また問題が起こったのですね。」
俺には最初、神永の言っていることが分からなかった。この異常事態に落ち着いて言葉を話している事、また、相手と旧知の仲みたいに話している事に理解が及ばなかったのだ。
「そうなのです。さすがに、後三千年は目覚めないとされている魔王が目覚めてしまったというという事が起こってしまったのです。現代の最高聖導師は逃げてしまって行方しらずですし、王は判断出来ない状態に有りまして。しょうがなく和様を再度召喚させていただきました。」
呆然としている俺を置いて進んでいく話、まるで俺を居ない者としている周りの反応、まるで間違って他人の夢の中にいるみたいな違和感、それは例え一瞬だったとしても耐えられない時間だった。
「ぉ、おい。神永、ここはどこだ!?」
思わず一番知っている人間に服を軽く引っ張りながら、話しかけた。若干声が裏がえったが、気にしている場合じゃない。とにかく今はここがどこなのかと言うことと、こちらの存在を知らせようと思ったのだ。
「は? 誰ですか、あなたは? まさか、ついて来たという事ですかね。私の世界から‥‥‥ 」
返ってきたのは、そんな返事と周囲の刺すような敵意のこもった視線だった。きっと、呼び捨てにしたのが問題だったのだろう。
しばらくの間、首をひねっていた神永はやっと思い出したかのように、うなずいて言った。
「サッカー部に所属していて、暑苦しいが定評の真夏 登也君か。で、どうして君がここにいるのかな? 」
そう聞いてきた神永は、口は弧をえがいていたが目は敵意がチラチラと覗いていた。ああ、こいつも、俺のことを邪魔者だと思っているのか‥‥‥
「お、俺は、教室に忘れ物を取りに来て、そしたらここに‥‥‥ 」
「そっか~‥‥‥ 残念だったね、忘れ物をしたのが今日で。 うん、こいつ独房に放り込んどいて。こっちの問題がかたずく迄の間、だけですからね‥‥‥ 」
にっこりと笑うさまは背筋が凍るほど怖かった。抵抗する気が起きなくなるほどに‥‥‥
こうして俺は、地下にある独房に入れられる事になった。
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そして、現在、地下に続く階段を降りている。俺を地下に案内する役になったのは、メイド服を着た十五歳ぐらいの女の子と厳つい鎧を着た背の高い男二人。思わずため息が出そうになった。ふと顔を上げると女の子と目があった。なぜか考え込んでいる。どうしたんだろう?
ふと、人の心配をしている事に気がついた時、ふっと身体に入っていた余計な力が抜けた。
そうして、この状況を打開するための策を考え始めた。あいつめ、俺は大人しくしてやったりしないんだからな!
まあ、そんな事を思っていても何にも策が出ない。結構下ったように思う‥‥‥ヤバイ、時間がない。
「あなたは、本当に闇の者の手の者なのですか? 」
いきなり女の子に話しかけられた。しかも、聞き慣れない単語がある。
「闇の者って何ですか? 俺は、神永‥‥さんと同じ所から来たんですけど‥‥‥ 」
危ない、神永の事を呼び捨てにしかけた瞬間、男達から殺意を感じた。やっぱり呼び捨てはマズイ。
というか、皆の前で堂々と言ってたと思うんだけど?
「やはりそうでしたか。二人が知り合いのような感じがしたのに、『闇の者』なんておかしいと思ったんです。それに、あなたは見たことがありませんしね。」
そう言うと女の子は、口の中で何かを噛み切った。すると姿がみるみる変わり、漆黒のドレスを着た、威厳がある二十歳ぐらいの姿の女性に変わった。
いきなりの変化に驚く俺とは裏腹に、なぜか厳つい鎧を着た男達は彼女に剣を向け叫んだ。
「ま、魔王! なぜここにいる! どうやって城の警備を突破した! 」
えっ、この女性が魔王? 確かに魅入られそうなほど綺麗だけど、魔王だよね? 男のイメージだったんだけど‥‥‥
「さっきの姿で堂々と入ると、話しかけられもしなかったぞ? まあ、今は関係ないな。さて、こやつは私が頂く事にしよう。」
目の前にいた魔王は、気がつくと後ろにいた。そして、俺を抱きかかえて何かを唱えた。すると、周りの風景が歪んでいく。厳つい鎧を着た男達が、何か叫んでいる。それを確認した所で意識がブラックアウトした。
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ふわふわとした空間の中で微睡んでいると、髪が蒼い小六ぐらいの少年がいた。その少年は僕を見て微笑むと、口は動いてないのに頭の中に響くように声が聞こえてきた。
『君が、勇者だったんだけどな~ まあ、これも運命だね! 諦めなさい。能力は向上させておいたからね~ 全く、あいつには困ったよ。二度も勇者に選ばれる事なんてある訳ないのに。それに前に迷惑掛けられたし頼まれても嫌だけどね~ 態度悪いし、性格悪いし、最悪だね! こほん、まあ僕は君の事、見守っているからね~ 』
それだけ、聞くと意識が浮上するのがわかった。
目を開けて、さっき見た夢のことを考えた。なんか、少年がニコニコ笑って毒をはいてる夢をだったな。その少年、後ろに神々しいオーラと、黒いオーラ背負ってたな。しかし、なんで目を開けたら如何にもな魔王城の大広間で倒れてんだろう?
確か、いきなり魔王にさらわれたんだっけ?
そうそう、目の前にふんぞり返って座っている様な女の人‥‥‥って、本人だった!?
「えっと、魔王様ですか? どうして俺、さらわれたのでしょう? 」
すると、魔王は馬鹿にするかのように鼻で笑って言った。
「闇の者達が勇者を召喚しようとしている馬鹿な人間がいると言っているのを聞いて、わざわざ見に行ったのに『闇の者まで召喚された』とか言ってるから。むかついて、さらっちゃった! だって、やってもいない濡れ衣なんて嫌でしょう? 」
そう言うと、にぱっと笑った。
そこからが、大変だった。魔王様が連れてきた人間というレッテルを貼られ、奇異の目を向けてくる闇の者達。そして、教育係りとして選ばれた者達からの厳しい『教育』という名の体罰。何度死ぬと思ったか数え切れない。それでも頑張った。なぜなら、この世界にはここしか俺の居場所は無いのだから。
そんな頑張りを認められたのか、次第に闇の者達との距離は縮まり、教育係りの者達とも対等に渡り合えるようになった。そして、二週間たったときには魔王の側近まで地位を確立出来ていた。
その二ヶ月間の間にも、勇者が戦っているという噂は流れてきた。しかし、昔よりも腕が落ちているや切れがないという噂もあった。
ちなみに、魔王様に教えてもらったのだが、神永 和は昔に召喚された勇者だったらしい。まあ、薄々気がついていたがやはりそうだったか。
それから三ヵ月後、やっと勇者一行は魔王城にやってきた。
迎え撃つのは、俺を含む近衛四天王達だ。
魔王様、さらってくれたおかげで自分の居場所が出来た。ここで、その恩を返すよ、魔王、いや俺の愛するユーリ‥‥‥。
最後、幸せになったのかは、読んだ方の想像で補って下さい。(*´▽`*)
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