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最終話 夢から覚めて

 あれから1年経った。

今年も社内旅行の話しで盛り上がっている。

休憩所で楽しくお喋りする新入社員達。

話題は毎日毎日、社内旅行。

当時、あのバスに乗り合わせていた私や同僚達は無言で立ち去った。

辛い思い出に、心臓が押し潰されそうだった。

 あの日、救出された一人は運転手さんだった。

夢で見たように両腕に大怪我をした。

でも孫を抱けなくなる最悪の事態は避けていた。

なぜなら林崎君が身をもって運転手さんを守っていた。

特殊部隊の突撃に驚いた林崎君の隙をついた犯人が

彼から拳銃を奪い返し、発砲した。

結局二人は犯人の銃弾に倒れる事を避けられなかった。

 運転手さんは、林崎君以外の乗客を逃した後、車内へ戻った。

林崎君の代わりに残る考えだった。

だが林崎君は、自分でなければ奴らを止められないからと断った。

そこで運転手さんは彼と二人で残り、警察が助けに来るのを待っていた。



「あ、そうそう!お線香を用意してきたんだ」


 同僚の言葉に、私は現実に戻った。


「アンタ大丈夫?」

「ごめん……二人の事、思い出してた」

「……アンタのお陰で、大勢の人達が助かったんだから白い蛇が出る夢に感謝してるわよ」

「ありがとう。 でも……」

「落ち込まないの! だって神様じゃないんだから。出来ない事だってあるのよ」

「もう一度、チャンスが欲しい…チャンスが欲しいよ!!」


 私は腹の底から叫んだ。

業務開始を知らせるブザーが鳴り響いていた。


「ほら、休憩は終わり!仕事よ、仕事!」


 同僚は私の腕を引っ張った。


「ごめん、ボーっとしていた。すぐ行くね」


 私の返答に同僚は怪訝な顔をした。


「アンタ! もう、いい加減にしてよ! 寝言で返信するの止めてくんない!?」

「……!」


 私は、ガン!と頭に強い衝撃を受けた。

同僚が垂直に拳コツを落としたのだ。

私は大きく目を見開き周囲を見回す。

会社の正面玄関にある来客用の椅子に、私は腰掛けて眠っていた。


「ね、コレって……」


 景色がにじむ。


「あらやだアンタ、そんなに痛かったの? まあ可哀相。  涙が出てるわよ♪」


 意地悪く笑う同僚に、私はお願いした。


「私の頬…耳でもいいや、おもいっきりツネッ……痛あーっ!!」


 遠慮の無い同僚は、私が言い終わらない内に実行した。


 「どう?目……覚めた?」


 私の頬を思いっきりツネリながら冷静に言う同僚。

自分で頼んでおきながら、私はその手を振り払った。


「覚めた! ってか覚めてるってば!」

「ほら、さっさとバス会社の人達に挨拶しなきゃ。雰囲気が悪くなっちゃうよ」


 私は同僚に急かされながら腕を引っ張られ玄関ロビーの外へ出た。

複数台のバスが整列している広い駐車場には、旅行に参加する大勢の社員がひしめき合いながら出発を待ちきれずにワイワイ浮かれて騒いでいる。

彼女に連れられバス会社の人達の元へ向かいながら私は林崎君を探した。

そして、特に賑やかな人山の中に彼の姿を見つけた。


「林崎君……いた!」

「え? 誰それ……って、やだ何アレ……」


 林崎君は、10人以上の若い女性社員達に囲まれてウハウハ中だ。

同僚は白い目で彼を見るなり中指を立てた。

私は同僚を残して、女性社員の輪に割って入る。


「ねえ、林崎君……だよね?」

「え?はい……ってか、初対面なのに、よく俺の名前分かりましたね。あ、もしかして俺って有名人?」

「ふざけた事言ってないで、私と一緒に来てくれない!?」


 私は彼の腕を鷲掴みして、強引に人山ハーレムから引きずり出した。

私の心臓は今、とてもバクバクしている。嫌だわバカね、私は何杯もお酒を飲んだときみたいに浮かれている。林崎君の手を掴んで嬉しそうに走っている自分が、夕日に照らされる海辺を走るバカップルみたいで恥ずかしいけど、そのぐらいに……いえ、それ以上に私は嬉しくて興奮している。 なぜなら、私がついさっきまで体験してきた事は全て夢。


『何度も繰り返される苦い思いは全て夢!』


今はまだ、何も始まっていない旅行出発直前の朝!

林崎君は現実にいた。そして夢に出てきたバスの運転手さんは……。

ほら! 目の前にいる。 今までの事は全て正夢まさゆめなのだ!

私は歓喜のあまり、林崎君の手を掴んだまま腕を振り上げた。


「出来る! 全員を助ける事が出来る!」

「ちょっと待って君。俺をどこまで連れて行く気なの?」


 林崎君が一緒に走りながら呆れ顔で私に尋ねる。


「そうよね、まずはあなたに話さなきゃね」


 私は立ち止まり、並んでいる観光バスの陰に連れ込んだ。


「この旅行について大事な話しがあるの」

「大事な話?」

「私達を含む全員の、命に関係する話」

「あの、俺……ちょっと、まいったなぁ」


 遠慮がちに私を見ていた林崎君の表情は、あからさまに怪訝な表情に変わった。


「悪いけどさ冗談に付き合うのは……それじゃ、俺、戻るから」


 立ち去ろうと彼は私に背を向けた。


(逃がすか、コイツめ!)


 私は素早く彼の肩を掴み、耳元でゆっくりと意地悪くささやいた。


「あなた……”白い蛇”が出た夢を見たでしょ」

「えっ?」


 林崎君は驚いて振り返る。


「3Dプリンターで作った銃でバスが襲われる夢……見たでしょ」

「えっ!? ちょっと待ってくれ」

「林崎君とバスの運転手さんが犯人の1人を取り押さえるけど、あなた死んじゃう……!」


 彼は私の口を塞ぎ、慌てふためきながら口早に捲くし立てた。


「何で知ってるんスか? 俺、誰にもまだ話してない! 何で? 知ってるんだ!」

「その夢を見たのは、林崎君だけじゃないの」

「え?」

「私の他にもいるの……ね、協力してくれない?」


 私はアタフタする林崎君を連れて、夢に出て来た運転手さん探し回った。

運転手さんは、仲間の運転手さんと出発前の確認をしていた。


「運転手さん、おはようございます」


 私は林崎君と並んで会釈。


「……まさか、まさかなあ!! 君達は…!」


 これが、私達を見た運転手さんの第一声だった。

夢の中では何度も顔を合わせているけど、現実では3人が初対面。

にも関わらず、運転手さんは、私と林崎君との出来事を詳しくペラペラ話し出した。それは全て私が見た夢と合致している。

驚きのあまり声が出ず、口をパクパクしている林崎君も……恐らく合致しているのだろう。とにもかくにも、これから起きる殺人事件を未然に防ぐことが出来るのは、夢に現れた白い蛇を縁に集まった、この私達3人だけ。


「今度こそ必ず全員を助けたいんです!」


私は、自分でも信じられないくらいの気迫を放っていた。



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