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第5話 夢の謎

 「あ、あの……」


 私は運転手に話しかけていた。


「はい、急ぎですか?」

「あ、いえ……」


 私は慌てて首を横に振りバスに乗り込んだ。

宿泊者全員と旅館の全スタッフはこのバスを先頭に避難先へと出発した。

Yの字の分かれ目にやってき来ると右折した。

街中ではなく、さらに山奥へ進むので宿泊者はにわかに騒ぎだした。

すると、運転手は言った。


「お客様、こちらの道が安全ですので、このまま進みます」


 月明かりが、街灯の無い山道をぼんやり照らす。

ふと窓の外に目をやると根本に赤い三輪車が捨てられた太い大きな木を見つけた。


「ここ……」


 私は思わず口にした。


「ここの木を登って旅館を見たら……」


 バスは少しスピードを上げて通過した。 

運転手は時計をチラチラ見ながら無線で最後尾の車両へ呼びかけた。


「こちら1号車。最後尾、異常ありませんか?」


 相手の返答は乗客側には聞こえ無いが、バックミラー越しに見えた運転手の険しい表情が大変な事が起きたと容易に想像させた。


「了解しました……全車両に連絡します。

最後尾より、旅館の方向から不審な轟音が聞こえたとの知らせがありました。 

スピードを上げ、急いで安全な場所へ避難しますので必ず後に続いて下さい」


 運転手は無線で伝えると、マイクを切替え私達へ言った。


「お客様、シートベルトをしっかり装着してください。 スピードを上げます」


 バスガイドは乗客全員のシートベルトを素早く確認する。

運転手は、彼女が席に戻り自らもシートベルトを装着した事を見届けると深くアクセルを踏んだ。 50人乗りの観光バスは宙を舞い、山道を駆け巡るバギーさながらの烈しい走りで突き進んだ。


バスは旅館の裏側にある山の中腹に到着した。

冬はスキー場になる為、ずいぶん広い駐車場が整備されていた。

運転手はバスを降り、大きな双眼鏡で旅館を見る。

乗客も目を懲らして同じ方向を見る。


「おい!火事か、あれは!?」


 乗客の誰かが叫んだ。 

旅館は燃えていた。 

耳を澄ますとサイレンが聞こえて来た。

どんどん近づいている様子だが、誰かが知らせたのだろうか。


「キミの話とは違う結果になったけど、あのまま居たら命が危険だった事には違いなかったね」


 林崎君が言うと、同僚も続いて言った。


「やだ、アンタ、超能力者?」


 こっちは完璧に人をからかっている。

私は二人の話しを聞き流しながら景色を見ていた。

なぜなら夢の中で、木の上から見た景色とそっくりだったから。

バスガイドが、あまりの驚きで目を皿にしたまま運転手に言った。


「先日、私達に話してくれた白い蛇の夢話の通りになりましたね……」

「そりゃそうさ!何たって俺ぁ……」

「再来月には孫が生まれるから顔を見るまでは死ぬワケにいかない……ですよね!」


 私は二人の間に割って入って言った。


 「あ、アンタさっきのお客さん……いや、何で孫が生まれるって事、知ってるんだい!?」


 運転手があたふたしながら尋ねた。


「私も、何度も同じ夢を繰り返して見て……で、その夢に出て来たんです。

白い蛇と、運転手さんが」


 運転手は目を丸くして固まった。

暫く無言で私を見つめていたが何かを思い出したようにポンと手を叩いた。


「途中、立ち寄ったお土産売り場で木刀を買ったって子か!

ああ、なるほど……納得した」

「はい?」


 ドラマ「相棒」の右京さんよろしく聞き返す。


「アンタね、俺の夢に出て来たんだよ」


 運転手はそう言うと、急に黙った。

月明かりの下でも、はっきりと分かるほど真剣な表情をしていた。


「……どうかしたのですか?」


 私は恐る恐る尋ねた。


「実はね、どうしても思い出せないんだよ」

「何がですか?」

「もちろん、事件だよ! 何かもう一つあるハズなんだがなあ……」

「まだ何かあるんですか!?」


 私は声を裏返して驚いた。


「まだあるよ、それが一番悔しいんだ。 俺、とにかく大怪我を負って孫を抱けない身体になっちまうんだよ。あぁ!ゾッとする」


 運転手は思わず両腕をさする。

私は一生懸命思い出そうとしたが思い当たる夢がない。

すると運転手が言った。


「白い蛇は、幸運をもたらす蛇なんだ。

身に危険があると、知らせに夢に出て来るんだ。

俺の夢に、知らせに来たんだが……クソッ!思い出せねぇ!!」


 私は運転手の言葉に反応した。

白い蛇は幸運をもたらす事とは相反する夢を思い出したのだ。


「あの……運転手さん!」


 私は耳打ちした。


「お客さん、そりゃあ……」


 運転手さんは、外へ出ている乗客を車内へ戻し、仲間の運転手達に鍵をかけろと告げた。そして私のお土産(白虎)の木刀を持つと私を連れて宿の従業員の顔を一人一人確認して廻った。


「どうだい?」

「いいえ……」


 私は周囲を見回す。運転手さんが肩を落とした。


「……従業員の中に、その悪党が居ると思ったんだけどなぁ。

こりゃあ、覚悟するしかねぇかなぁ」


 運転手さんと私は1号車へ戻る。


「お客さん、お客さんはココで休んでいてください。交代の運転手用の仮眠室なんだ……TVでも紹介していただろ? 若い女の人には、加齢臭が辛いだろうけどね。もし騒ぎが起きたら抜け出して、警察へ知らせて下さい。

ほら、そこに派手に曲がった松の木が見えるだろ? 草に隠れてるが、根本に幅30㌢ほどの細い獣道がある。真っ直ぐ降りると村に着くから…」


 私は運転手さんの目をしっかり見て頷いた。



*



 私は、オジサン達の加齢臭が残る仮眠室でずっと考えていた。

夢で見たバス会社の事務所で白い蛇に喰われた若い運転手……。

彼がもし一連の犯人なら、一体誰でこの後何を仕出かすのか。

最初はバスの運転手の誰かだと思ったが、皆、年齢が上過ぎた。

ならば旅館の従業員かと思ったが似た人はいなかった。


「あ……?」


 私は傍に置いてある帽子を見て思い出した。

仮眠室の扉を開け、顔だけを出すと運転手さんを見上げた。


「どうした、お客さん?」


 私は今、はっきりと確信した。


「お! 警察官だ! 助かった」


 誰かが窓の外を見て声をあげた。

皆が窓の外に注目する。 数人の警察官がこちらに向かって歩いて来ていた。


「お客さん、ドアを開けるから仮眠室の扉を閉めてくれ」


 私は慌てて部屋から転げ出ると運転席のマイクを取り上げた。

見よう見真似で無線のスイッチを入れ、全車両に伝えた。


「皆さん!!あの警察官達は偽物です! 全車両の運転手さん、すぐ逃げて下さい!」


 窓の外を再び見る。

月明かりの下、彼らはバスに銃口を向けていた。


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