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第2話 現実化した夢

 私は上司と同僚に付き添われバスに戻る。

気持ちが落ち着くからとココアを飲まされ、宥めすかされているうちに、私は眠ったらしい。目が覚めた頃にはバスは走っていた。


「あ、気づいた。ねぇ大丈夫?」

「うん……。それで、夢の続きなんだけどね」

「えー!? まだあるの? ……しょうがない。わかった。付き合うから存分に話しなさい」

「ありがと……」


 私は夢の続きを話す。


「まさに夕べ見た夢なんだけど……。旅館へ行く途中の分かれ道……。その道はYみたいに左右に道が分かれていて、分岐点には大きな1本の木とその根本に消火栓があるんだけどね。私は毎回、右側の道を進んで旅館へ行っていたの。だけどね、今回は左側の道へ行こうと思ったのよ。この左側の道は、どこへ続いているのかな?って。でもね、行けども行けども真っ暗闇。途中、木の根元に三輪車が捨ててあったのだけど、その木がとっても太くて高くて……でも、登りやすい木だったの。だから、『ここは一体どこなのかなぁ』っと思って登ってみたら……見ちゃったのよ!」

「へぇ、見ちゃったの。で、何を?」


 同僚が呆れ顔で、私の言葉を反復しながら尋ねた。


「化け物……化け物よ! しかも真っ白い蛇!!あの蛇が通った後は、『一面血の海』ってヤツよ。モザイク必須なほどの状況で……気持ち悪い……吐く」

「ヤダ! ちょっと、アンタ!! 眠りながら吐くの、やめてくれない!?」


 私は両頬をバシバシ叩かれて目が覚めた。


「……あれ?」

「おバカ!」


 同僚に散々怒られた。

私は夢の中で、同僚に夢で見た話をしていたのだ。


「まったく、夢と気づいてくれて助かったわ。よく寝てスッキリしたでしょ? あんた、社員旅行の実行委員やっていて疲れていたのよ。今夜は旨い物食べて、温泉にゆっくり浸かって酒飲んで、さっさと寝ちゃいなさい」

「……ねぇ、ここは?」

「旅館へ行く途中の道。 ずっと田舎の1本道よ」


 私は子供のように窓ガラスにしがみつき、外の景色を見た。夢で見た光景と、何もかもが全く同じだ。


「……ねぇ、Yの字の分岐点は過ぎた?」

「はぁ? ずっと1本道だって言ってるでしょ」

「この後に、Yの字の分岐点があって、そこに1本の木とその根元に消火栓がある夢を見ているの。もし、それが本当にあったら……私の夢の話を信じてくれる?大きな ”白い蛇の化け物”が出た夢を……」



ギギギギギギギッ!



「うわぁっ!!!」


 バスがいきなり急停車した。

車内がどよめく中、運転手さんが座席まで慌てて来て言った。


「今、白い蛇の話をしたお客さんは誰かね!? もっと詳しい話を聞かせてくれ!!」


 「あ、運転手さん。 この子ですけど、気になさらないでください。ただ単に、寝ぼけているだけですから」


 同僚が慌てて運転手に告げ、私の頭を上から押さえつけながら自らもペコペコ頭を下げた。


「お客さん……その白い蛇について詳しく話してもらえませんかね」


「は……はい」


 私は自分が白い蛇の事だけでなく、夢で見たことを全て話した。


「そうですか……。 その白い蛇が旅館にいる人達や外へ逃げていく人達を喰らった夢ですか……。わかりました、教えてくださってありがとうございます」


 運転手は眉間にシワを寄せたまま一礼すると、マイクを使わずに大きな声で乗客全員に伝えた。


「お客様には大変申し訳ございませんが、一旦、街へ戻ります。夕食に2時間は遅れる事になりますが…。旅館へは、『白い蛇の悪夢を見た者がいたから』と伝えて下さい」


 当然、車内は蜂の巣を突いた様な騒ぎになり、バスガイドも慌てて運転手に言った。


「まさか! 村の言い伝えを信じているんですか!? 困りますよ!! お仕事ですよ、これは!!!」

「今の若ぇ者がナント言おうとも、俺ぁ嫌だね! 来月、ひ孫が生まれるんだい。顔を拝んでからでなきゃぁ、俺ぁ死にたくはねぇよ!」


 運転手は、急いで運転席に戻ると、観光バスをバックさせはじめた。狭い1本道を進んできたので、しばらくUターンができないのだ。

 観光バスは街に到着すると、そのままバス会社へ向かった。 運転手の前代未聞な勝手な行動に、車内はもちろんバスガイドも慌てふためいた。バス会社へ到着すると、運転手は言った。


「こちらで、ゆっくりお茶でもすすって、難を逃れてください」


 私以外は皆、呆気に取られた。


「……ちょっとアンタ、どーするのよ。あんな変な夢の話をするから、こんな事になっちゃったのよ!」


 同僚が私を責める。 上司も周囲も、私を一斉ににらみつけた。


「あ、あの……でも……」


 頭から冷や水をかぶったように身体が硬直する。


「まぁまぁ……。そのお嬢さんを責めないでやってくださいよ。地元じゃね、まぁ、他所から越してきた者は別だが」


 運転手が皆を宥めすかしながら、バスガイドをチラリと見る。


「何度も同じ夢を繰り返して見て、もし『白い蛇』が出たら、それは『正夢』だと言い伝えられているんでさぁ。信じる、信じないはともかく、俺も『白い蛇』が出る夢を見ましてね……」


 運転手は腕時計で時間を確認するとおもむろに車内のTVをつけた。


「確か、俺が夢で見たのは……この番組だったかな。緊急速報が入ってね、わぁ~っなんて騒いでいたら、事務所の奴がドンドンドン!ってそこのドアを叩いてね。『現場に行って、被害者を助けてやってくれ』……ってな」


 突然、ニュースキャスターが緊急速報を伝えた。

その内容と映像に車内は騒然とした。 私達が泊まる予定の旅館で無差別大量殺人事件が発生したニュースだった。旅館の宿泊客、全従業員合わせて多数の死傷者が出ていると報道されていた。犯人は複数で旅館へ押しかけ手当たり次第殺害した後に火を放ったらしい。犯人達が乗ってきた車の車内からは、大量の危険ドラッグが見つかっていて警察が事情聴取しているとの事。


「お客様、大変申し訳ございませんがバスから降りてください。旅館への道は、ちょいと特殊でして地元の人間じゃないと迷うし、上手く通れないのでね」


 私達は速やかに降りて、バス会社の事務所で休ませてもらう事にした。事務所に待機しているよう命じられた若い運転手さんが私達にお茶を配ってくれた。


「あの人は……。あ、皆さんをお連れした年配の運転手ですが、年中、白い蛇が出た夢を話してまして……。今回は当たりましたね。 驚きましたよぉ! ははは!」


 若い運転手は、年配の運転手を少し馬鹿にするように突然話し出し一人でウケて大笑いした。私以外は、同僚でさえツラれて大笑いしている。何か不安を感じた私はとても笑えず、うつむいてお茶を啜っていた。


「ギャーァ!!!」


 誰かが突然叫んだ。驚いて顔を上げると、若い運転手を白い蛇が丸呑みしていた。 蛇は、ゴクリと喉を鳴らして腹へ収めると、舌をチロチロ出し入れしながら私へ語り掛けた。


「ねぇ、大丈夫?」




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