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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第八話 絶体絶命


 霞は焦っていた。綴との電話が切れたこともあるが高い魔力が綴の学校方面で急激に発生したからだ。他のクラスメイトも先生ですらも困惑したようだった。電話の最中に立ち上がってしまったのでしばらく皆の視線の的になっていたが今は皆窓の方を見ている。その先に綴の通う学校があるのだ。


 霞は教室を出ようと扉に向かうが気づいた先生に止められる。


「待ちなさい柊さん」


 呼び止められたことに苛立ちながら先生の方を振り返る。


「何ですか先生。私、行かなくてはいけないんですが」


 自分でも驚くほどに冷たい声が出た。気の弱い女性教諭である十凪加代子-とおなぎ かよこ-はビクッとしながらも言う。


「あ、あなたを向かわせることはできません。あそこには、軍の人向かうはずです。私たちが勝手な行動を取るべきではありません。軍からの要請が来た場合を想定し待機です」


 クラスメイトの視線が集まるが今は気にしている場合ではない。


「あそこには弟がいるんです!私は弟を守るために行かきゃならないんです!」


「それでも待機です!あなたは学年二位の実力者ですが、あれと戦うには力が足りません!犬死にするだけです!」


「そんなことは分かってますよ!」


「なら待機していてください!」


「私は…弟を守るために技を磨き己を鍛えてきました。今行かなくては私がここに来た意味がないんです!」


「霞さん!」


 突如、教室の後ろのドアが開き声が乱入してくる。皆の視線が自然と入り口に集まる。そこに立っていたのは緋日だった。


「緋日ちゃん…どうして?」


「綴の学校方面で大きな魔力を感知したからまさかと思って来てみた。霞さん、綴から連絡来たんでしょう?」


「え、ええ」


「なら私は向かう。霞さんは?」


「もちろん行くわ」


「ちょっと待ちなさい!勝手に話を進めないで!神崎さんも教室に戻って先生の指示を待ちなさい!」


「………」


 緋日は煩わしそうな目をすると十凪に言った。


「先生、私はある人を守るために、その力を付けるためにこの学校に来たんです。今がそのときなんです分かってください。霞さん私は先に向かいます」


「ちょっと待った神崎さん」


 今まで傍観していてクラスメイトの一人酒井健哉-さかい けんや-がわって入ってくる。


「今俺の使い魔に様子を見に行かせてる。スクリーンに映すから、行くにしてもそれを見てからにしよう」


 各教室にはこのような事態に備え使い魔からの視覚情報を受信しスクリーンに映し出す機械がある。それのことを言っているのだろう。


「全くの無駄足になる可能性もあるわけだし、ね?」


「…分かった、緋日ちゃんもそれでいい?」


「……構わない」


「分かった、それじゃあ映すよ」


 健哉はそう言うとスクリーンの電源をつけ映像を映した。最初は小さく映っていた高校が段々大きく映っていく。映像が校庭を映したところで緋日は血相を変えて即座に教室から駆け出し教室を出て行く。霞は絶句してその場にひざを突いた。そこに映っていたのは、血を流して倒れる少女とその倒れている少女に治癒魔法をかけている少女、二つの頭を持つ犬の姿をした妖魔と戦っている元親。そして、血を流し地面に横たわっている綴の姿だった。


*********************


 綴は窓から飛び降り落ちている間に武器を精製して着地をする。そのまま駆けだし一番近い妖魔に切りかかる。後ろに跳びかわされるが追撃し仕留める。


 後四体!


 そのまま勢いを殺さず二体目に向かい走る。


加速アクセル!!」


 加速魔法をかけさらにスピードをつけ切りかかる。またしても避けられるが相手の反応が少し遅れたため左前足を切り落とせた。着地の瞬間バランスを取れずよろめく妖魔を両断する。


 後三体!


 後ろから気配を感じ左に跳ぶが妖魔の爪が右肩に当たり皮膚が裂ける。着地をし今度は横から気配を感じ避けられないと悟り急いで自信に防御魔法をかける。


防護プロテクト!!」


 身体に衝撃を受けそのまま吹き飛ぶが、なんとか魔法が間に合い大したダメージを受けずにすんだ。立ち上がり残りの三体を見据える。


 気味が悪いな…


 そう思うのも無理もない、先ほどからオルトロスは綴に攻撃を仕掛けてこず見ているだけなのだ。綴が戦闘を開始してから一分も経っていないが未だに攻撃をしてこない。


 まあ、こちらとしては有りがたいけどな


 剣を構え直し、相手の出方をうかがう。一体が走り出し綴に飛びかかって

る。剣を上段から振り下ろし斬りつける。次の攻撃に備えようとしたが遅かった。綴に気づかれないように二体目が一体目の後ろに隠れていたのだ。


 間に合わないっ!!


 防御も回避も間に合わないと感じ衝撃に備えるため身を固めるが、妖魔は綴に届く前に吹き飛んでいった。綴の上を何者かが飛び越し妖魔に回し蹴りを食らわせたのだ。足に風魔法を纏わせていたらしく蹴らた妖魔を無数の斬撃が襲った。振り返りながら蹴りの主が言う。


「急に飛び降りんじゃねえよ!ビックリしただろうが、綴!」


「元親!」


 蹴りを入れた者の正体は元親だった。なぜ来たのかと問おうとしたが別の言葉が口をでる。


「元親、後ろ!!」


 元親が蹴りを入れた直後に三体目が走り出していたのだ。元親が振り返るよりも早く妖魔が飛びかかる。だが、またもやその攻撃は当たらなかった。妖魔は横から跳び蹴りをくらい吹き飛んでいく。元親と同じ風魔法を使っていたので瞬時に誰だか理解できた。


「紙野!!何でお前等降りてくるんだ!!今すぐ戻れ!!」


 二人目の蹴りの主は紙野美来だった。美来は綺麗に着地すると綴りに向かい言った。


「そう言う柊くんだって退魔師でもないのに真っ先に降りたじゃない。おあいこよ」


 そう言うと少し離れたところにいるオルトロスを見る。


「こいつは…かなり厄介そうだね…」


「だから、早く戻るんだ!こいつは僕たちの手に終える奴じゃない!」


「じゃあ何で柊くんは真っ先にこいつらに向かっていったのよ?」


「こいつらが今朝言った僕を襲った奴らなんだ、だから狙いは僕だ!姉さんが来るまで僕が時間を稼ぐのは当然だろう!」


「だったら俺も手伝うぜ、倒すんじゃなくて時間稼ぎなら俺にもできそうだ」


「それに私たち自分の意志で来たんだから柊くんにどうこう言われる筋合い無~いの」


 確かにそうかもしれないが、自分が狙われているのが理由なのだから迷惑はかけたくなかった。そう思い口を開こうとすると元親が言葉を被せてくる。


「だから綴、諦めろ」  


 元親がこう言うとてこでも言うことを曲げない。一つため息を付き言う。


「分かった、頼む。ただ危なくなったら下がってくれ!」


「あいよ!」


「了ー解!」


 話が終わりオルトロスを見る。死体五体は倒したので残りはオルトロスだけとなった。オルトロスは話をしている間も動こうとしなかった。動く気配がないのでこのまま放置しといても大丈夫かと思っていると、唐突にオルトロスが口を開けた。


「話は終わったかな?」


「!?」


 低く渋い声が聞こえて驚きしばらく硬直するが我に返り口を開く。


「ああ、待っててくれて感謝するよ。それより喋れたんだな」


「まあな、私ほどの者となると言語を理解するのは難しいことではないのでな。そ

れで、もう始めてもいいだろうか?」


「できれば、援軍が来るまで待っててほしいけどな」


「それは出来ない。死体がすべて動けなくなったら動けと主から命令を受けているのでな。それでは行かせてもらうぞ?」


 その言葉を合図に戦闘が始まった。

 綴は効果が切れた防御魔法を唱える。


防護プロテクト!!」


「「防護プロテクト!!」」


 二人も綴の後に続き唱える。

 こちらの目的はあくまで時間稼ぎ。相手の出方をうかがいつつ防御に徹する。オルトロスがどうでるか見ていると急にオルトロスの姿が消えた。左側に気配を感じ慌てて剣を構える。直後衝撃を受け吹き飛び校舎にぶつかる。


「がはっ!!」


「綴!!」


 背中を勢いよく打ち付け口から空気と共にいくらか血が漏れる。校舎の壁にひびが入るほどの威力。防御魔法をかけていなかったら背骨は簡単に折れていただろう。咳込みつつ立ち上がり次の攻撃に備えるために剣を構える。


「ほう、今のを防ぐとはたいしたものだ」


「防げてはいないさ…」


「いやあ、私の今の攻撃に剣を入れて直撃を防いだのだたいしたものだよ」


「そりゃどうも…」


 こうして喋っているうちも綴は理解していた。


 甘かった、これほどまでとは…。時間を稼ぐのですら無理だ。力量差が圧倒的すぎる

 せめて二人だけでも逃げるようにと口を開こうとしたが遅かった。


「この野郎!!」


 元親は高く跳躍しオルトロスの頭めがけて蹴りを放つ。だが、それも易々とかわされる。


「はあああああああっ!!」


 今度は美来が避けた先に向かい胴体へ蹴りを放つが、かわされる。


「お前達のその技は当たらなくては意味がない。それでは私を倒せないぞ?」


「クソッ!」


 再度同じ技を放とうとする元親。


「よせ元親!挑発に乗るな!僕たちの目的はあくまで時間稼ぎだ!」


「…ああ、分かってるよ!」


 今度は先程より高く跳躍しオルトロスに向かい空中で蹴りを放つ。距離が足らずに蹴りは当たらない。だがオルトロスはその当たらない攻撃をあえて避けた。瞬間、オルトロスのいた地面が何かによって抉れる。


「風魔法を纏うのではなく飛ばしたのか。だがそれでも私には届かぬ!!」


 跳躍したオルトロスは着地しようとした元親に向かい前脚を横なぎに払う。


「元親!!」


 だが、オルトロスの攻撃が元親に当たることはなかった。


「てやあぁぁ!!」 


 あたる直前に美来が前脚に蹴りを放ちオルトロスの攻撃を弾く。オルトロスは驚

愕に目を見開く。一瞬の隙が出来たのを感じ、綴は走り出す。


 ここだ!!


 オルトロスの首に一直線に跳ぶ。剣に炎を纏わせ突き出す。


火線ひせん!!」


 一筋の炎の線がオルトロスの首を仕留める。直前、綴の攻撃は何かに阻まれた。


「!?」


 綴の攻撃を阻んだのはオルトロスの二つ目の頭だった。綴の剣を噛んで受け止めていた。


「飾りかと思ったか?」


 悪寒を感じ剣を離そうとしたが遅かった。オルトロスは首を振り綴を地面に叩きつける。叩きつけられた反動で宙を浮く綴を容赦なく前脚で横なぎに叩く。爪が引っかかり背中が斬りつけられる。受け身もとれぬまま地面を転がる。


「綴ぃ!!」


「柊くん!!」


 二人が綴の方を向くがそれがいけなかった。特に美来はオルトロスに近い分一番気を抜いてはいけなかった。


「避けろ美来!!」


 元親が気付くも遅かった。オルトロスの攻撃はもう目前まで迫っていた。思わず目を瞑る。突然ドンッと突き飛ばされるような衝撃を受け少し後ろにとばされるがそれだけだった。オルトロスの攻撃にしてはあまりにも軽すぎた。目を開くとオルトロスは前脚を薙いだ後だった。本来美来がとばされたであろう方向を見るとそこには良子が倒れていた。


「良子!!」


 急いで駆けつけ体を抱き起こす。正面から受けたらしく肩からわき腹にかけて切り裂かれていた。


「なんで、なんで…」


 言っても今更意味はないと分かっていても言わずにはいられなかった。自然と涙が出てくる。


「美来、ちゃんが……危ないって…分かったら、自然、と…体が、動いたの…。ほんとはね、誰かが…怪我、したら…担いで…運ぼうと、思ってた、んだけどね…」


 美来を安心させるためか微笑む。


「馬鹿っ!!それで自分が怪我しちゃ、意味ないでしょ!!」


「そう、だね…ごめんね…」


「馬鹿、馬鹿っ!!」


 良子を強く抱きかかえ泣き崩れる美来。


「美来!!泣いてないで治癒魔法をかけろ!!」


 元親の言葉を聞き顔を上げ治癒魔法をかける。治癒魔法をかけるも血はどくどくあふれてくる。


 血塗れになり倒れている綴と良子。泣きながら良子に治癒魔法をかける美来。未だにこない援軍。そして、全く通用しない攻撃と防御。


「これは…」


 自虐的に笑う元親。


「これはもう、絶望的だな…!」


 

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