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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第七話 最悪の会敵


 火が燃え盛るデパートに僕と氷霞はいた。氷霞の後ろにも人が立っていたが顔がぼやけて誰だか分からない、それ以外はどこもかしこも火で包まれていた。氷霞が僕に向かって何かを言っている、それを呆然と見つめる僕。


 火のせいか息が苦しくなるのを感じる。でも、この息苦しさは火のせいだけではないのかもしれない。氷霞の話は呼吸するのを忘れるくらい僕には衝撃的な話だったのかもしれない。氷霞が何かを言いながら僕の左目に指をいれえぐり取った。激痛に泣き叫ぶ僕を気にとめず今度は自分の左目に指をあてえぐり取る。苦悶の表情を浮かべながら自分の目を僕の左目があった穴に入れる。


 氷霞がまたも何かを言っているか僕には何も聞こえない。聞きたくなかったのかもしれない。ただこれ以上は何も見たくはなかった。



「うああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 叫び声を上げながら起き上がる。荒い息を整えながら左目に手を当てる。暑くもないのにびっしょりと汗をかいている。


「はあ、はあ、はあ…夢か…」


 今のが夢だとわかり安堵してベットに倒れる。それでもまだ早くなった心臓の鼓動は収まってくれない。心なしか頭も痛い。


「昨日と言い今日と言い何の夢なんだ…」


 今見た夢の事を考えていると、急に部屋のドアが勢いよく開き母さんと姉さんそれに緋日まで入ってくる。


 先ほどの綴の叫び声を聞いたからか、皆手には魔力で生成した武器を握っていた。傍目に見るとかなり怖い。女性三人が武器を持って男の部屋にいるという図は男の浮気がバレて修羅場になっているように見える。


「綴くん大丈夫?何があったの!?」


「綴大丈夫か!何があった、敵か!!」


「綴大丈夫?何かあったの?」


 皆同じような事を言いながら各々手の持った武器を構える。それを見て慌てて誤

解を解こうと口を開く。


「あ、いや、敵が来たとかそんなんじゃないんだ!ちょっと、夢を見て驚いただけなんだ、心配かけてごめん」


「ふう、なんだ、そうなのよかったわ何もなくて」


 綴の言葉を聞いて皆が安心したように武器を消す。ほっと一息着く綴にそろそろ

ご飯ができるから早めに降りてくるように言うと皆一階に降りていく。


「かなり心配させてるな…」


 早く何とかしなくちゃ。そう思いながらも、今は打つ手がないことに歯噛みするしかなかった。


 着替えをすませて下に降り洗面所に行き顔を洗う。その間も今朝見た夢のことを考えていた。


 今朝の夢は何だったのか、なぜ氷霞が居たのか、氷霞の後ろの人物は誰だったのか、そして何よりなぜ氷霞は自分の目を僕に移したのか。鏡を見ながら左目に手を当てる。触れてみるも何も違和感はない。


「まあ、所詮夢だしな」


 と言ってみるもののただの夢と切り捨てることは今の綴にはできなかった。昨日の氷霞の様子からも何か知ってそうだった、何より綴自身は覚えてないのだが綴が遭った事故はデパートの火災事故だったらしいのだ。綴の知っていることと夢の内容があまりにも酷似していた。


「氷霞に会ったら聞いてみるか…」


 今の綴に出来ることといえば氷霞に話を訊くことしかなかった。霞や緋日に訊いてもよかったのだが昨日の様子だとはぐらかされるのが落ちだろう。それにデパートには綴と氷霞それに顔の見えない誰かしかいなかったので訊いても意味は無いと判断したのだ。


「今日は何もないといいけど…」


 小さい声で呟きリビングに向かう。

 扉を開けるとちょうど朝食の準備が出来たところだった。席につきご飯を食べる。食べ終わった後時間があったのでソファーでゆっくりしていると。


「そう言えば」


 と、母さんが何か思い出したのか手をポンと鳴らす。


「昨日の妖魔の死体が足らないって話ね。緋日ちゃんが倒した死体を回収していろいろ調べてみたんだけどね、やっぱり足りない死体の内の一体だったわ」


「そうですか。分かりました、わざわざありがとうございます」


「いいのよ、気にしないで」


「と言うことは、残りの死体は五体…」


 一匹でも綴にとっては死活問題なのだ。五体も一気に来られたらたまったものではない。十分用心しないと。


「それと、そのことを私の上司に報告したら、町の巡回にいつもより多く人員をさいてくれるそうよ」


「そうなの?よかった…。それなら安心できるよ」


 今の言葉を聞いて綴の肩の力が幾分か抜けた。


「でも、あんまり気を抜かないようにね?何があるから分からないんだから。もし何かあったら、迷わず、まず私に電話するのよ?緊急回線ならすぐでられると思うから」


「分かったよ」


「霞さん、連絡が来たら私にも回して」


 三人が話していると陽子が時計をみてもうすぐ出る時間だと告げる。三人はカバンを持ち家を出る。


 今日は緋日も一緒なので昨日よりも視線が増えるのかと思っていたが、今日は驚くほど視線を感じなかった。それもそのはず、二人は周りを警戒する余りに目線がかなり鋭くなっていた。もう、殆ど睨んでいる状態だ。


 しばらく歩くと昨日と同じ場所で昨日と同じ人物に声をかけられた。


「おーっす、綴ー。って、増えてる…」


「おはよう元親」


「おう、おはよ」


 声をかけてきた人物、元親は綴の右を歩く霞に挨拶をすると、今度は反対側にいる緋日に目を向け僕に目線を戻し言った。


「綴、この美人さん誰?」


 と言う、元親に綴は呆れながら答える。


「元親…流石にそれはないんじゃないか?僕たち三人、小学校は六年間クラス一緒だったじゃないか」


 そう言うと元親は考え込むような顔をする。

「……………………………………………あっ、ああああああああああああああああああああああああ!!」


 急に大声を上げる元親に周りを歩いてる人は何事かと目を向けるがそれにかまわ

ず元親は口を開く。


「お前、神崎緋日か!?」


「朝からうるさい、近所迷惑だぞ元親」


「お、おお、そうだな、悪い」


 素直に謝る元親。


「いやぁ、昔と随分雰囲気が変わったから分からなかったぜ」


 そう、昔の緋日は前髪で目が隠れていていつも本を読んでいるような暗い感じの子供だった。三年前の綴の事故をきっかけに退魔師学校の中等部に転入したのだ。その際に今のような髪型に変えていた。クラスが変わったしさほど接点のない元親が気づけなくとも無理も無い。


「そういう元部くんは相変わらずね」


「どこらへんが?」


 元親は中学を卒業し高校に入学してから髪を染めたり、ピアスの穴を開けたりだので外見には相変わらずの要素は一つもない。


「元気なところとかね」


「そう?」


「そうよ」


「ふーん、まあ、なんて言うか、変わったねぇ。こんな美人になるとは思ってなかったわ」


 元親の言い分に姉さんが反論する。


「違うわ、元親くん。緋日ちゃんは元から可愛かったのよ、髪の毛で隠れてただけよ」


「なるほど、それは盲点だった」


「ふ、二人とも、やめてほしい…。私は可愛くなんか…」


 照れたように顔を伏せ胸の前で両手を振って言う緋日。


 緋日が盛り上がる二人から目をそらし助けを請うように上目遣いで綴を見る。綴は手を挙げて緋日の頭に手を乗っけて撫でる。顔を真っ赤にして俯く緋日。


 余りの可愛さに無意識に撫で回してしまっていることに気づいたが、可愛かったので続行した。


 調子に乗って撫で回し続けていると、ニヤニヤした顔で見ている二人に気づく。はっとして手をどけるが二人はまだニヤニヤしたままだ。


「いやあ、朝からお熱いですなぁ。ねえ、霞さん?」


「そうねえ元親くん。見せつけてくれるわよねえ、こっちまで暑くなっちゃうわあ」


「な、今のは、その!」


 弁解をしようとするも上手く言葉が出てこなくてつっかえてしまう。


「熱々の二人はおいといて行きましょうか、元親くん」


「そうですね~」


 そう言うとスタスタと歩き始める二人。しばらく突っ立っていると。


「わ、私たちも行きましょう…」


「あ、ああ、そうだな、遅刻しちゃうし…」


 お互いがお互いの顔を見れないまま、先に行った二人に追いつきそのまま学校まで向かう。昨日と同じ所で姉さんと緋日と別れた。


「そういや、何で今日は神崎も一緒だったんだ?」


「ああ、それはーーーー」


 昨日おこったことを簡単に元親に説明をする。説明が終わる頃には教室に着いていた。


「なるほどなあ…まあ、とにかく大した怪我じゃなくてよかったぜ」


「ありがと」


「何々、何の話?」


 席に着いたら昨日と同じく美来と良子が来た。


「んあ?ああ、綴が妖魔に襲われたって話だ」


「ええ!?そうなの?大丈夫?」


「大丈夫なんですか?お怪我は?」


「いや、大丈夫だよ、なんともない」


「そう、ならよかったわ」


「そうですね、大事がないようでよかったです」


「ありがとう二人とも」


 二人にお礼を言いつつ三人に誰にも言わないようにくぎを差したが、多分意味はないだろう。美来が大声を出したことで周りのクラスメイトに多少は聞こえてしまっただろうからだ。そのことを面倒だと考えているとチャイムが鳴り担任がやってきた。ホームルームが終わり授業に入り二時間目に入ったところで異変は起きた。


 外から犬の鳴き声が聞こえまさかと思い窓を見やると、外には昨日戦った死体が立っていた。その数は残りの五体全てであった。


 なぜ学校に!?


 焦る中、他のクラスメイトも気づいたのか外を見て悲鳴を上げる。


 落ち着け、落ち着くんだ僕


 姉さんに言われた通りに緊急回線で電話をかける。


「姉さん、僕」


『どうしたの!?何かあったの!?』


 授業中だからか電話越しに教室のざわめきが聞こえる。


「昨日の残りが来た」


『っ!?分かったわ今から行くから、校舎から出ちゃだめよ!』


 分かったと返事をしようとして、身体にゾッとした寒気が走り校庭の方を見る。


「ごめん、無理っぽい…」


『なに!?何があったの!?』


 校庭に飛来した何かが着地しドォンと言う重低音が響き砂埃が舞う。皆が身を縮こまらせる間も綴は校庭から目を離せなかった。


『今の音はなに!?綴くん答えて!!』


 姉さんが何かを言っていたがその声は耳に入ってこなかった。突然一つ雄叫びが上がり、周りの砂埃が四方に吹き飛び、飛来した何かの姿が見える。


『綴くん!!綴くん!!』


「ごめん、できれば、早く来てくれると助かる…」


 綴にはそれを言うのが精一杯だった。


『どうしたの!?なにが来たの!?』


「…A級……」


『え?』


「多分こいつA級だ…」


『!?』


「時間稼ぐから早めにお願い…」


 そう言うと電話を切り、眼下の敵を見下ろす。見た目は他の妖魔と大差ない、違うところは二つあった。一つは大きさ、その大きさは象のように大きかった。いや、下手すれば象よりも大きかった。そして二つ目は、首が二つあることだ。


「さながらオルトロスだな…」


 飛来してくるときから感じた強大な魔力、この魔力を感じ取ったから姉さんも焦っていたのだろう。


「いや、そんなこと考えてる場合じゃない!」


 綴はどうするべきかを瞬時に考えた。


 多分、結界はもう張り巡らされてるだろう。死体五体なら防げるが奴は無理だ。まずは死体五体を再起不能にしてそれから時間を稼ぐ。だが、一人で出来るか?素人の僕が、奴らを相手に死なずに時間を稼ぐ…。無理だ。それが不可能なのは火を見るよりも明らかだ。


「でも、僕がやらなきゃ…」


 他の生徒は武術の心得さえ無い者ばかりだ、ここで実戦経験があるのは綴だけだった。


「やるしかない…!」


 窓を開け飛び降りる。小さな悲鳴と元親の綴を呼ぶ声が聞こえるが綴にはそれを考えられるほど余裕はなかった。

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