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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第五話 報告


 路地裏から出た氷霞はしばらく歩いて別の路地裏に入っていく。別にあてもなく歩いていたわけではないここが目的地だった。夜の路地裏は暗く気味が悪かったが氷霞にとってはなんと言うことも無かった。氷霞は路地の暗がりに向かって声をかける。


「やはりあなたの仕業だったのねミリアム・マクスウェル」


「フフフ、イヤだなぁミリーって呼んでよ~」


 暗がりから現れたのは小柄な少女だった。少女の顔はおよそ人間とは思えないほど整っていたが目の下にはくまがありせっかくの可愛い顔が台無しだった、髪は暗がりでも分かる程金色に輝いていた。手にはつぎはぎだらけのうさぎの縫いぐるみが握られている。


「あなたとはそれ程仲が良いわけでは無いのだから、愛称で呼ぶ必要もないでしょう?」


「え~、みんなミリーって呼ぶからそっちでお願いよ~」


 何も言わずに冷ややかな眼差しを向ける氷霞にミリーは小さく舌打ちをしたが、おどけた口調で続けた。


「あ~あ、つまんないの~。…もっと綴クンで遊べばよかったぁ」


 急に二人の周りの温度が少し下がった。


「おお~寒っ~。そ~んなに怒らなくてもいいのにぃ」


「次に彼を襲ったらタダじゃ済まさない」


「お~お~怖い怖い。それでぇ~タダじゃ済まさないってのは具体的にどうするわけ~?」


 今度はさっきとは比べ物にならないほど温度が下がった。


「殺してあげるわ」


「やってみろ、ガキンチョ」


 ミリーの方から突風が巻き起こる。突風のせいであちこちで物が倒れ飛んでいく。だが、そんな突風何ともないように氷霞は話を続けた。


「そうね…。次なんて必要なかったわね。ここで殺してしまえばいらない心配しなくてすむもの」


「ガキが、つけあがるなよ」


「さっきから口調変わってるけどキャラ作りはいいのかしら?」 


「ほざけっ!」


 突風と冷気が勢いを増す。冷気に耐えられなくなった近くのパイプにピキッとひびが入る。その音を合図に互いに動き始める。


「そのくらいにしなさい二人とも」


 急に乱入してきたその声をきいた二人は足を止め声の方を見る。いつの間にかミリーの後ろにその声の主は立っていた。ミリーは小さく舌打ちをし声の主の名前を呼んだ。


瑞樹みずき…」


「まったくあなた達は…」


 呆れたように小さく首を振る。もしかしたらため息もでていたかもしれない。


「止めないでくれよ瑞樹ぃ、今から生意気なクソガキにお灸を据えなきゃならないんだからさぁ」


「…これ以上やるのなら私が相手になるけど…それでもかまわないなら続けなさい」


 ミリーは苛立ちに顔をしかめる。


「チッ!クソがっ!」


 ミリーは転がってるゴミ箱を蹴り暗がりに歩き始める。


「覚えとけよガキンチョ」


 そういい残すとミリーは暗がりの中に消えていった。

 残された氷霞と瑞樹は互いを見る。申し訳無さそうな顔で氷霞が言う。


「申し訳ございません姉様。私少し冷静ではありませんでした」


「いいって気にしないの。あなたがそこまでするって事はあの子がらみなんでしょ?」


 少し恥ずかしそうに俯く氷霞の頭に手を置いてわしわしと乱暴になでる。


「ふふっ、青春だね~恋する乙女だね~」


「もう!からかわないでください!」


「ふふっ、ごめんごめん。おっと、ここで悠長に話してる暇無いんだった。氷霞、奴らが魔力を感知して向かってきてるから場所を移すよ」


「あ、はい、姉様」


 そうして二人は歩き出すと路地裏の暗がりに消えていった。


*********************


 一方、綴は無事自宅に着くことができた。帰る間も気を抜かずにいたが妖魔は現れることはなかった。綴は少し怪我をしていたので霞に手当をしてもらった。手当が終わると「着替えてから行くから先に行ってて」と霞に言われリビングに向かうと緋日はソファーの上で正座をして待っていた。これから今日あったことの情報交換をするので待っていてもらったのだ。


「わざわざ正座じゃなくてもいいんだぞ、足崩せよ。ていうか何でソファーの上で正座?」


「正座の方がなれてるから。でも、崩した方がいいなら崩すわ」


 そう言うと緋日は足を崩した。


「怪我の具合は?」


「大丈夫大したこと無かったよ」


「そう、なら良かった」


「はいはい、それじゃあ情報交換始めちゃいましょ」


 いつの間にいたのか部屋着に着替えた姉さんがソファーに座る。


「そうだね、あんまり遅くなってもいけないし」


 今の時間は7時だ。緋日の家は隣だがそう遅くならない方がいいだろう。綴がソファーに座る。


「はい、じゃあ始めるわね。まずは緋日ちゃんからお願い」


「分かった。最初は綴と同じ感じだから二人で説明したほうがいい」


 そう言われ僕は緋日の話に補足を付け足したりした。


「ここからは綴と分かれた後の話」


 僕も聞く番になったので口を閉じる。


「綴と分かれた後、私は綴の言うとおり妖魔を追った。すばしっこいから多少手こずったけどすぐにけりを付けられた。ただ…」


「ただ?」


「戦ってる最中に違和感を感じた」


「違和感?」


「うん…。その妖魔からは魔力を感じなかった。近づけば微弱だけど感じ取ることができたけど少し離れると魔力を捉えられなかった。最初に襲われるとき直前まで気づけなかったのも多分そのせい」


 それでも感知できたんだから凄い。僕には全くわからなかった。後ろからの攻撃を避けられたのも感のようなものだ。


「それで、理由は分かったの?」


「ええ、真っ二つに切った後死体を見たらコアが無かったの」


「コアが無い?」


 それじゃあどうやってあの妖魔は動いてたんだ?


「そう…。成る程、そう言う事ね」


 納得したように頷く姉さん。


「なに、分かったの?」


「うん、多分それ死体に魔力を流し込んで操ってたんだわ。近くに他の魔力は感知できた?」


「いいえ、出来なかった」


「敵に死体の魔力を感知させず操る。しかも自身の魔力を隠しながらもしくは遠隔操作、か…。どちらにせよこれは厄介ね。S級妖魔の可能性が高いわ…」


 妖魔には強さによってランクがつけられる。C級、B級、A級、S級に分類される。一つの級の中でもランクは三分割される。例としてC級シーCC級ダブルシーCCC級トリプルシーと分けられる。力の序列はC級<B級<A級<S級だ。


「それで、私が倒した奴が囮だって気づいたから急いで綴を探しに行ったの」


「で、途中で私に電話かけてきて合流したのよ」


「それで二人とも一緒だったんだ」


「そう言うこと」


「ていうか、緋日の方が囮って事は僕がターゲットってこと?」


「まあ、そうなるわね…」


 何で僕なんだろう…。


「思い当たる節は?」


「全くない」


「でしょうね…。妖魔と関わりもって無いんだから当たり前だけど…」


「今は理由を考えても仕方ない。次、綴に何があったか教えて」


「あ、うん、わかった」


 頭の中で少し整理し、自分の身に何があったかを話した。すべてを語り終えると二人は安堵したように二人は息を吐いた。


「助けてくれた人に感謝ね…。まあ、初戦で二匹相手によくできた方だわ。何より無事でよかった…」


「僕としてはもう戦いたくないけどね」


 こんなに危険なことはもうこりごりだ。


「でも、ターゲットがあなたであるうちはその妖魔をどうにかしないと、また戦う事になるにかもしれないわよ?」


「勘弁してくれ…」


 はあ、とため息を付く。


「そう言えば助けてくれた人の名前って聞いてる?ていうか本当にその人の事覚えてないの?向こうは知ってたんでしょ?」


「残念ながら覚えてない。名前は聞いたけど」


「名前は?」


「氷霞だって、珍しい名前ーーーー」


「「氷霞!?」」


 二人が声をそろえて身を乗り出して言う。たじろぎつつ身を引き答える。


「う、うん、え、何二人とも知ってるの?」


「え、いや、何でもないわ」


「そ、そうよ!ちょっと珍しい名前だなと思っただけだから~」


 あからさまに視線を逸らす二人。


「ま、まあ今はこれからの対策について考えましょう!ね?」


「そう、そんなことより今はやることがある」


「そうだね…」 


 二人の態度はまだ気になるが、確かに今は目の前のことを考えた方がいい。なぜ僕が狙われているのか、相手は誰なのか、これからどう対策を練るべきか、考えなくてはならないことは山積みだ。


 パシッと両手を打ち鳴らし姉さんが立ち上がる。


「はい!それじゃあ話もいったんまとまった事だし、ご飯にしましょう!」


「そうだね、もうこんな時間だし」


 時計を見るともう八時になろうとしていた。結構話し込んでいたらしい。


「よかったら緋日ちゃんも食べていかない?ていうかもう泊まっていっちゃいなさいよ」


「いや、私家すぐ隣だし帰るよ」


「いいじゃない、泊まっていきなさいよ~」


「いや、でも…」


 と、チラッと緋日が僕の方を見る、目が合うと慌てて逸らす。なんだろう?

 綴が頭にハテナを浮かべていると、霞がニヤ~っとイタズラっ子な笑みを浮かべる。


「ふふふ、青春ね~緋日ちゃん」


「そ、そんなんじゃ!」


 顔を赤くして否定する緋日を見てさらに楽しそうな顔をする姉さん。


「ん?どうしたの?」


「鈍~い綴くんには関係のない話よ~」


 さらに頭にハテナを浮かべる綴。


「まあ、ぶっちゃけた話いざとなったら緋日ちゃんにも綴くんを守って欲しいのよ。それに、うちの場所も緋日ちゃんちも知られているかもしれない。だから、一人暮らしの緋日ちゃんには事が解決するまでしばらく家に泊まっていて欲しいのよ」


 成る程、そう言う意図があって言っていてのか。

 緋日は、はぁと息を吐くと。


「分かりました、私もひとりじゃ心許ないので泊まっていきます」


「分かればよろしい!さて、それじゃあご飯にしましょ!」


 こうして三人は遅めの夕食をとりはじめた。

 

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