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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第四話 出会い


 逃げる妖魔を追いかけながら緋日は焦っていた。一刻も早く妖魔を倒し綴のもとに戻らなくてはいけないのだが、先ほどから妖魔は緋日の攻撃を避けてばかりいたからだ。襲ってきたときみたいに向こうから攻撃を仕掛けては来ない。


 それにおかしな事はまだある、それは緋日が妖魔の魔力を感知できなかったことだ。通常妖魔は魔力源ーコアーを備えている。この魔力源から魔力が生成されるので退魔師が妖魔を感知できないと言うことはまずあり得ない、にもかかわらず緋日は魔力を感知できなかった。さっき避けられたのは戦場で得た感のようなものだ。全く感じないというわけではなく、近づけば微弱に感じることができるという程度だった。それは通常の生きている妖魔ではあり得ないことだった。


 思案を巡らせつつも攻撃を仕掛ける。


「はぁっ!!」


 敵の死角に入り斬りつける。が、かわされる。

 おかしい、死角に入っての攻撃なのにかわされるなんて。私の魔力を感知して避けているのか?まあ、何でもいい。

 緋日は剣を構え直し魔法を発動する。


「加速ーアクセルー」


 自身に加速魔法をかける。踏み込み地面を蹴る。今度は回り込まずに目にも留まらぬスピードで切りかかる。敵は避けることはしなかった、否、避けることができなかった。妖魔は真っ二つになり崩れ落ちる。

 ふうと一息つき振り返り敵を見るとそこにはあるはずの物がなかった。


「コアが…無い?」


 そう、コアが無かったのだ。


「…まさか!!」


 緋日は一つの結論に達し走り出した。


*********************


 緋日に気づかれないよう魔力を上手く隠し近くのビルの屋上で緋日の戦闘を見つめる者がいた。


「あ~あ、あの子にはバレちゃったか~案外早かったな~」


 そう言いながら綴のいる方向を見る。


「まあ、いっか。それなりに距離を離すことができたし」


 日の沈んできた空に視線を移す。


「さ~て、氷霞のお気に入りがどんなものか見定めさせてもらいますか♪」


*********************

 

 綴は走っていた。方向は退魔高校の方向だ。人気のない裏路地を通りながら逃げていた。なぜ退魔高校の方に逃げているかというと理由は簡単、退魔師がいるからだ。あそこで霞を待っていても良かったのだがあそこにいてはいつ他の人に危害が加わるか分からない上に霞から距離が離れている場合もある。それに警邏をしていると言っていたので、周囲にも退魔師はいるはずと思い走り出したのだが、頼みの退魔師には未だ出会えていない。


 後ろに気配を感じ振り返ると妖魔が迫っていた。


「くそっ!もう来たのか!」


 その妖魔は逃げるさいに綴が後ろ足を一本切り落としていたので変な走りをしていたが流石は妖魔、足一本でも充分に早かった。


 前に視線を戻すと二匹目の妖魔がこちらに走ってきていた。


「挟み撃ちか!」


 目の前の妖魔を切ろうと剣を振ろうとするが、細い路地なので壁に剣がぶつかってしまう。


「なっ!?くそっ!!」


 すぐさま剣を小太刀のサイズに変えたがもうすでに妖魔は綴に飛びかかっていた。


 間に合わないか!


 せめてダメージだけでも軽減しようと身を捻らせていると、突然妖魔が綴の頭上を飛んでいった。


「は?」


 驚愕しつつ妖魔を追っていた目を前に戻すと目前には少女の顔があった。 


「へ?」


 ぶつかると思いきや、彼女は顔をずらし綴を抱き止めると、綴を抱いたまま身体を半回転させ手に持っていた黒い日傘で綴の後ろから来ていた妖魔に叩きつけた。叩きつけられたら妖魔は数メートル飛ばされていった。だが、死んではいなかったらしくよろけながらも立ち上がった。


「帰ってあなた達の主人に伝えなさい。次この子に手を出したら本気で仕留めに行くと」


 冷たい眼差しを向けながら少女が言い放つと、二匹の妖魔はよろけながら去っていった。

 とりあえず窮地は去ったので一息つく。


「ふう…」


 一息つくと自分がまだ少女に抱き留められていることに気づく。


「あっ、あの、助けていただいてありがとうございます!」


 お礼を言いつつ離れようとするが、なぜか離してくれない。片腕だけで抱き留められているにも関わらず離れられなかった。


「あの、そろそろ離していただいても…」


 そういうとようやく彼女はこちらを向いた。よく見ると、いやよく見なくても彼女はとても綺麗な顔をしていた。綺麗になびく白髪はくはつは両側頭部に結わえられツインテールになっていて、路地裏に差し込む夕日を浴びてオレンジ色に輝いていた。服装は黒色のドレスなのだが派手さはなく落ち着いたデザインになっていて少女にとても似合っていた。しばしの間見とれていると彼女は笑顔になり綴を抱きしめた。


「やっと会えた…」


「へっ、あの、ちょっ」


 混乱する綴に彼女は言った。


「もう大丈夫、安心して」


 確かに大丈夫だろう、妖魔は去っていったのだから。だがしかし綴は別の危険にさらされていた。抱きしめられているせいで胸があたっているのであった。


 確かに安全だけどこれは別の意味で危険だ…!

すぐさま離れたかったのだが両腕の上からがっちりホールドされているので身動きがとれない。


「あ、あの~そろそろ苦しいので離していただけると…」


 声をかけると、少女は案外素直に離してくれた。離してくれたことに安堵していると、


「そうだ、聞いてなかったわ。怪我はない?大丈夫?」


「え、ええ。まあ、おかげさまで…」


「そう、良かったわ」


「あ、あの、助かりました、ありがとうございます」


 再度お礼を言い頭を下げると。


「いいのよ気にしないで」


 顔を上げると彼女は可笑しそうに笑いながら言った。


「それより何で敬語なの?昔みたいにタメ口でお願い」


 ん?昔みたいに?


「え?僕たち会ったことありましたっけ?」


 少なくとも僕は記憶になかったので言ってみた。


「やだ、ふざけてるの?三年も会ってないだけで忘れないでよ。それに敬語も」


 向こうは冗談だと思っているらしく笑ってはいたがこちらが黙っていると笑顔を引っ込め逆に不安そうな顔で聞いてきた。


「本当に分からないの…?」


「ええ、ですのですみませんが人違いだとーーーー」


 綴が言い終わらないうちに彼女は詰め寄ってきて綴の両肩をつかんで言った。


「この顔も、名前も、声も何もかも分からないって言うの!?」


「は…はい」


 彼女の勢いに呆気にとられていると彼女は顔を伏せ黙り込んでしまう。短い沈黙の後彼女はつぶやくように言った。


「…ああ、成る程…そう、そういうことだったのね…」


「あ、ああ、分かっていただけましたか?」


「ええ、分かったわ…何もかも全て…」


 どうやら分かってくれたらしいと安堵していると、彼女は顔を上げに言った。


「あなた、三年前の記憶曖昧でしょう?」


「え?」


 突然のその言葉に綴は間抜けな声を上げてしまう。急に聞かれたからではない、事実を言われたからだ。


「三年前のことよ。そうね、丁度夏休みあたりの頃かしら…。あなた事故にあってるでしょ?」


 ドクンと綴の鼓動が早くなる。


「な、何で事故にあったことを知ってるんですか…?」


 いや事故のことは報道されてるんだからちょっと調べれば分かる。でも、僕の記憶のことまでは分かるわけがない。それをなぜこの人は知ってるんだ?


「なぜ知ってるか?決まってるじゃない…私もそこにいたからよ、あなたとね」


「…!?」    


「あなたが事故のことを何も思い出せないのはあなたが記憶喪失だからじゃない。魔法で記憶操作したのよ。姉様が。」


 綴には、彼女が何を言っているのか分からなかった。

 姉様?いったい誰なんだ?て言うか記憶操作?何を言ってるんだ?


「まあ、混乱するのも無理はないわ」


 もし言われたことが本当ならと、思い出そうとしていると、今朝のような頭痛に襲われその場にうずくまってしまった。


「うっ、くっ!」


 痛む頭を彼女がかがんで優しくなでてくる。そうしてもらえるだけで痛みが少し和らぐような気がした。頭をなでつつ彼女が言う。


「無理して思い出そうとしなくていいわ。頭、痛いんでしょう?でも変ね、もう魔法の効力が切れていてもおかしくないのだけれど」


「……一つ聞いていいですか?」


「なに?」


「何で僕と一緒にいたんですか?」


 僕が一番不思議に思ったことを聞いてみた。他のことも気になるのだけどこれが一番気になった。これが分かれば何か思い出せるかもしれない。そう思って聞いたのだが、


「…それは言えないわ」


「何でですか?」


「乙女心がそう言ってるのよ」


 さっぱり分からなかった。むしろ謎が深まった。 


「何ですか、それ?」


「秘密」 


「でも、思い出したいんです。お願いします」


 思い出せない不安を拭いたくて頭を下げた。いや、なでられてるので頭は下げたままだったのだが今は気にしない。


「さっきも言ったけど、無理に思い出さなくていいわ。ゆっくりでいいの、私も協力するから…」


 そう言うと彼女は手を離して立ち上がった。


「さて、そろそろ行くわ。送っていけないけど気をつけてね?」


「あ、ありがとございました」


 綴も立ち上がりお礼を言う。


「あ、名乗って無かったわね。まだ思い出せてないんでしょう?」


「はい、すいません…」


「別にいいわ。私も取り乱しちゃって悪かったわね」


「いいえ、大丈夫です」


「私の名前は氷霞よ」


 氷霞、その名前を聞いたとたんまた頭が痛くなったがすぐに収まった。


「大丈夫?」


 氷霞が気づいたのか心配そうな顔をする。


「大丈夫です。あ、僕の名前は…」


「聞かなくても分かるわ。綴、でしょ?」


 それはそうだ、氷霞は僕のことを知っているのだから。


「それじゃあ行くわね、また後で」


「はい、また今度」


「敬語」


「へ?」


「次あったときは敬語やめてね?」


 そう言って微笑むとすっかり暗くなった路地裏から彼女は去っていった。


「僕も帰るか」


 そう言って綴も歩き始める。

 路地裏から出て家の方に少し歩いてくと、声をかけられた。


「綴!!」


「綴くん!!」


 振り返るとそこには姉さんと緋日がいた。

 そう言えばすっかり忘れてた。


「大丈夫綴?怪我ない?」


「綴くん大丈夫なの?怪我してない?」


 似たようなことを二人に言われたじろぎながらも答える。


「だ、大丈夫だよ、少し怪我したけど、助けてもらったから大怪我はしてないよ」

 二人は安堵したように息を吐いた。


 さっきから似たような事をする二人がなんだかおかしくて笑ってしまうと。


「何を笑っているの?」


「そうよ、笑い事じゃないんだから!」


 二人に怒られ思わず肩をすくめる。


「ご、ごめんなさい」


「はぁ、まあいいわ。とりあえず帰りましょう」


 そう言って姉さんは歩き始める。それを追って綴と緋日も歩き始めた。 

ピンチ脱出やったね


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