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新米退魔師と氷結の姫  作者: 槻白倫
第一章 覚醒編
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第三話 遭遇


 学校に着き下駄箱に靴をしまい教室に向かう。元親とはクラスも同じなので一緒に向かう。


「しっかしまぁモテるね~霞さんは」


 どうやら元親も視線には気づいていたらしい。


「姉さんは視線に気づいても、視線を向けられる理由については分からないみたいだけどな」


「向けられる当人ってのはだいたいそうさ」


「こっちとしてはもう少し自覚して欲しいけどな」


 教室に付くと綴はいくつかの視線を感じたが気づかない振りをした。


「聞きたくて仕方ないって顔してるな~みんな」


「分かってるよ、でも向こうが聞いてこない限りこっちから律儀に説明してやる事もないだろ」


「おっしゃるとおりで」


 席に着くと誰かが近寄ってきた。


「ねえねえ柊くん、今朝一緒にいたキレイな人ってだれ?退魔師高校の制服着てたよね、どんな関係?」


 面白いおもちゃを見つけたような笑顔で近づいて来たのはクラスメイトの紙野美来-しの みらい-だ。美来はクラスでも指折りの美少女で男女共に人気があるらしい。


「美来ちゃんあまりそういうことは無理に聞かない方が…」


 対照的に申しわけなさそうな顔をして近づいて来たのは美来の親友の四季良子-しき りょうこ-だった。良子は活発な美来と違い落ち着いていて何に対しても冷静だ。クラスの男子にも地味に人気があるんだとか。因みに情報源は両方とも元親だ。


「無理には聞いてないよ!で、誰なの?彼女さん?」


 ちらっと周りを見てみると聞きたそうな顔をしている人が何人もいた。

 別に答えても支障はないし誤解されても困るしな。


「紙野、誤解されても困るからはっきり言うけどあれは姉さんだ、恋人なんかじゃないよ」


 わざとクラスのみんなに聞こえるように言った。みんな納得し興味を無くしたのか各々の会話に戻っていった。

 これで誤解はされないですんだかな?


「な~んだ、つまんな~い」


「お姉さんだったんですね、驚きました。お姉さんお綺麗ですね」


「だよな~やっぱりキレイな人だよな~霞さん」


 僕の隣の席の元親が答えた。


「なによ元親、あんた柊くんのお姉さんに会ったことあるの?」 


「まあ、ガキの頃からのつき合いだからな~綴の家に行った時に会ったり、三人で買い物行ったりなんかもしたしな~」


「へ~そうなんだ」


 因みに元親と美来は幼なじみだったりする。何でも学校は違ったが元親の道場の門下生なんだとか。


「それで、何で一緒に登校してきたの?」


 一緒に登校するまでの経緯とその理由を説明すると、


「家族全員退魔師なんだ!」


「そうだったんですね、驚きました」


 現在では、家族の誰かが退魔師というのはさほど珍しくない。でも、家族の大多数が退魔師というのはやはり珍しかった。


「で、何で柊くんは退魔師になんなかったの?」


 家の事をはなすと必ずといっていいほど聞かれるこの質問、綴が霞との登校が憂鬱になる二つ目の理由はこれだった。小中学とクラスが変わり同じ事がある度に聞かれるので正直うんざりしていた。理由を話すにも事故のことを話さなければならない。この事は綴にとって思い出したくないことだった。 


「悪い、あまり話したくないんだ」


 なので、いつもこう回避するようにしている。


「え~つまんな~い」


「美来ちゃんあまりそういうことは無理に聞いちゃだめだよ」


「無理に聞いてないよ!ていうかこのやりとり二回目!!」


 などと話しているとチャイムが鳴る。


「ほら、お前ら席付けー、ホームルーム始めるぞ~」


 チャイムから少し遅れて担任教師がやってくる。


「あ、先生きた。じゃ~ね~」


「それでは」 


 元気よく去っていく美来と軽くお辞儀をする良子を見て、対照的な二人だなと思う綴であった。


*********************


 授業も終わり放課後。教室で姉さんを待っていると少し窓際が騒がしくなっている。視線を向けてみると校門の辺りを見ているようだ。

「あの子誰だろう~」「さあ、でもきれいだな~」「退魔師高校の制服着てるよ!」「誰待ってるんだろう?」


 姉さんが来たか?

 そう思い窓際に寄って見てみると、そこにいたのは姉さんではなかった。が、見たことある姿であった。


「まさか…」


 と思い携帯を確認すると姉さんからメールが届いていた。


『ごめんなさい。用事が入ってしまい私は迎えにいけないので、変わりに緋日-あけひ-ちゃんに迎えに行ってもらいます。帰るのはそんなに遅くならないと思いま

すが戸締まりとか気をつけてね?』


「やっぱり…」


 綴は荷物を持って急いで校門へ向かった。校門付近は帰宅する生徒や部活で校外走をする生徒が多くいた。その誰もがちらちらと緋日を見ていた。校門に近ずくにつれて綴はため息が出そうになった。いや出ていたかもしれない。なんにせよこの中を行くのはやはり気が滅入るのであったが、意を決して声をかけた。


「着いたら着いたで連絡くれないか緋日。来てるの全然気づかなかったぞ」

 姉さんからのメールに気づけなかったことを棚に上げて言っているが、何か喋ってないと周りの視線が気になってしまう。とにかく早くこの場所から離れたかった。


「ごめんなさい。急かしてしまうと悪いと思って」


 こちらを向く緋日は申し訳無さそうな顔で言った。 


「まあいいよ、取りあえず行こう」  


 先ほどから二人に向ける視線が増えていたので綴としては早くこの場から去りたかったので急かしたような感じになってしまったが。


「そうね、行きましょう」


 気にした様子もなく歩き始める緋日。隣に並びチラッと緋日を盗み見る。緋日とは昔からの幼なじみだ。


 昔から綺麗だったけど最近はさらに綺麗になったな…。顔は人形のように整っていて、腰まで伸ばした黒髪は艶やかで美しかった。校門で見られていたのは退魔師高校の人が珍しいというのだけでなく、どちらかと言えばこの容姿によるものの方が大きいと思う。


「そう言えば姉さんの用事ってなんだか聞いてる?」


「今朝のニュースは見たよね?今朝の妖魔は複数体いたから逃がしが無いか警邏けいらに駆り出されてる」


「そうなんだ…」


 姉さんに何事もないといいが…。

 姉さんが心配になりついそんなことを考えてしまう。緋日はそんな綴に気づいたのか、気を紛らわせるために話を続ける。


「…学校はどう?」


「どうって、普通かな」


「友達はできた?」


「心配しないでもいるよ友達くらい。…なんか母さんみたいなこと聞くな緋日は」


「そんなことはない」 


「緋日の方こそどうなの、学校で上手くいってるの?」


「問題ない。小枝子-さえこ-もいるから」


「なら安心だ」


 緋日は僕より他人に無関心なところがあるから少し心配だった。因みに小枝子とは緋日の中学からの友人である。


「っ!!」


 緋日が急に僕を抱き抱え跳んだ。


「え、ちょ、なに!」


 緋日が跳躍してすぐ僕らがさっきまで居た場所に何かが降ってきた。そこには四本足で立つ犬のような生物が立っていた。


「妖魔!?」


 なぜこんなところに!?

 少し焦りつつどうするべきか判断をあおるべく緋日に視線を向けると、緋日はすぐに僕を降ろし臨戦態勢をとった。幸いな事に周囲には人はいないようだった。


「…」 


 緋日が剣を持つようにして構える。そうすると何もなかったところから剣が現れ緋日の手に収まる。これは自分の魔力に形を与え武器にする魔法だ。こうすることで常時武器を持っていなくてすむ。


「…少し離れてて」


 綴は素直に頷き少し距離をとる。

 両者ともにらみ合う中、先に動いたのは妖魔だった。緋日に真っ正面から飛びかかる妖魔。緋日は身を捻って回避しつつ横腹を斬りつける。着地後妖魔は少しよろけるがすぐに体制をたて直しまた跳躍する。今度は先程より早さが増していたが緋日はまたも難なく避けて斬りつける。このやりとりが数回も続くと向こうも勝ち目が無いと悟ったのか急に方向を変え逃げ出した。緋日はすぐに妖魔を追おうとしたが足を止めてしまう。


 大方、僕を追いていけないとか思ってるんだろうな…。


「緋日、早く奴を追うんだ!」


「でもーーーー」


「早く!被害が出ないうちに追うんだ!」


「…分かった。綴もすぐに帰って霞さんに連絡して」


 そういい残し緋日は逃げ出した妖魔の後を追った。


「僕も早く帰らないと…」


 走り出しながら携帯を取り出し霞に電話をかける。


『もしもし、どうしたの?』


「姉さん、僕だけどさっき妖魔に襲われた」


『ええ!?大丈夫なの?怪我はない?』


「僕は大丈夫。今緋日がーーーー」


 急にもの凄い勢いで跳んできた何かが綴に当たった。


「ぐっ!!」


 勢いを殺しきれずブロック塀にぶつかる。


「がっ!!」


 背中を勢いよく打ち付け咳込んでしまう。痛みに苦しむ中何があたったのか確認するために視線を向ける。するとそこには先程緋日が追っていった妖魔が立っていた。いや、正確には少し違った。綴に突撃してきた妖魔は先ほどのより少しばかり小さかったのだ。


 二匹目か!くそっ、どうする!


『どうしたの!綴くん返事して!綴くん!』


 ずっと握りしめたままだったらしい携帯からは姉の心配する声が聞こえた。


「ごめん姉さん、すぐ来て。それと一回切るから」


『えっ、ちょっとまって、状況だけでもーーーー』


 何か言ってる最中だったがかまわず切った。初めて対峙する妖魔を前に電話をしながら対処できると思わなかったからだ。

 さてどうするか…。姉さんが来るまで時間を稼がなきゃ。

 そう考えるやいなや先ほど緋日がやったように魔力で剣を作り上げる。


「これ習っといて良かった」


 心の中で教えてくれた姉さんに感謝していると、後方からの気配を感じた。すぐさま左へ跳躍して振り返りながら着地すると、目の前に妖魔が迫っていた。慌てて剣で防ぎバックステップで距離をとる。


「まさかとは思ったけど……」


 そういいつつ剣を構え先ほど自分が居たブロック塀のあたりを見る。そこには二匹目と似たような妖魔が立っていた。


「三匹目か…。二匹同時はちょっと厳しいかな…」


 二匹を相手にどう逃げるかな…。

 何の経験もない綴には二匹を同時に相手にすることはかなり荷が重いことだった。


今回主人公ピンチです。次回物語が動き始める予定です。


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