第二話 登校
二人とも準備が整い家を出た。
この後のことを考えると姉さんには申し訳ないが、姉さんと登校するのは少し憂鬱だった。
別に姉さんといるのが嫌と言うわけではない。なら、なぜ僕が憂鬱になっているのか、その理由は主に二つだ。その一つが…。
「なんだか、さっきから妙に視線を感じるのだけど…。私なんか変?」
そう、視線だ。視線を向けられるのは姉さんが単に美人だからだ。滑らかで長い黒髪に、美しく整った顔、そして、程よく引き締まった身体。そんじょそこらのモデルとは比べものにならないほど、姉さんは美人だった。
そのことを自覚しているのかいないのか(多分、自覚していないだろう)姉さんは不安げな顔でこちらを見てきた。
「大丈夫、おかしなところはどこもないよ」
「そう?ならいいのだけれど…」
そう言いつつもやはり視線が気になるのか少し落ち着かない様子の姉さん。
ごめん姉さん、多分その視線の九割は僕への嫉妬の視線だ…。どうせ似合わないカップルとか思われているのだろう。だが、残念だったな、僕らは姉弟だ、決してカップルではない!そう、カップルでは無いのだからこんな視線気にする必要なんて無いのだ。とは思うもののやはり勘違いであれこういう視線は気になってしまう。
そう、この嫉妬の眼差しが僕が憂鬱になる理由の一つめだ。姉さんと出歩く度に向けられるのだから、少しはなれてもいいと思うのだが、
「やっぱりなれないな、これは…」
「ん?何か言った?」
「あ、いや、何でもないよ」
危なかった声に出てたか、気をつけないとな。姉さんのことだから気にしなくていいと言っても気にしてしまうからな。
「ん?あれ、綴と霞さんじゃん」
不意に声をかけられた。声の方を向くと見知った顔のやつが立っていた。声をかけてきたのは僕の友人、元部元親-もとべ もとちか-だった。元親の外見を一言で表すと、チャラい、だ。茶髪に染められた髪に、少し着崩した制服、耳にはピアスの穴まで開いている。うん、今日もチャラいな。
「おはよう元親、今日もチャラいな」
見たまんまの感想を言ってみた。
「おはよう元親くん、今日もチャラいわね」
姉さんもそう思ったらしい。
「おはよう霞さん、今日もおキレイですね~」
毎回恒例なので元親は普通に返事を返してくる。
「あら、ありがとう」
「僕はスルーか元親」
綴は、自分が無視されたのが気にくわないのでつっかかた。
「ちっこくて気づかなかったわ」
くそ、僕が気にしていることを…!
「お前、さっき普通に僕の名前を呼んだだろうに」
「記憶にございません」
「どこぞの政治家かお前は!」
「ははっ、冗談だよ、おはようさん綴」
と、いつものやりとりを交わしていると、
「そう言えば、珍しいな二人一緒に登校なんて、なんかあった?」
「元親は今朝のニュース見たか?」
「見てないけど…ああ、なるほどな~」
流石は元親、付き合いが長いからすぐに気づいたか。因みに元親とは小学校からの付き合いだ。
「妖魔が出たから霞さんが送り迎えをしてるってわけだな?」
「当たり、僕はいいって言ったんだけどね」
「ダメよ、怪我してからじゃ遅いんだから」
「そうだぞ~、お前に何かあったら親父さんが血相変えてこっちまで来ちまうしよ。」
そう、それが一番厄介だ。父さんは僕が中学一年の頃に入院するほどの大怪我を負ってから、前から過保護だったのがさらに悪化した。父さんだけじゃなく、姉さも母さんも過保護になった。僕としては心配してくれるのは嬉しいけど大げさすぎる気がするんだよな。
「それによ~。こ~んな美しいお姉様が送り迎えをしてくれてんだからいいじゃねえか~。俺としては羨ましい限りだぜ」
「お前だって可愛い妹がいるじゃないか。咲妃ちゃんも退魔師だろ?送ってもらえよ」
実は元親の妹も退魔師だ。退魔学校の中等部三年生。姉さんから聞いたのだが実力は申し分ないらしい。
「俺は大丈夫だよ、うちが古武術やってんの知ってるだろ?最近じゃ魔法も取り入れて修行とかしてんの」
元親の家が古武術の道場を開いているのは知っていたが魔法を使うようになったというのは初耳だった。
「元親くんの家も魔法を取り入れたの?最近増えてるわね、道場で魔法を取り扱うようになるのって」
「そりゃあ、まぁ、こんなご時世ですからね~。自分を守る術を身につけておきたいっていう人最近増えてるんすよ~」
確かにその通りだ。いつどこから現れるかも分からない妖魔から逃げる術くらいは持っていた方がいいだろう。
「綴もどうだ?うちで稽古付けてもらうか?今なら親友価格で安くしておくぜ?」
「遠慮しておくよ。僕は姉さんの稽古だけで手一杯だ」
こう見えて僕も人並み以上には戦える。これも姉さんの稽古の賜物だ。魔法も多少は使えるし剣も使える、剣の方は姉さんと互角に戦えるほど強くはなった、魔法は初級魔法が限界だけど。
「それもそうか~、良かったな霞さんが学年二位の強者で」
「有り難い限りだよ」
と喋りながら歩いてるうちに学校が見えた。
「姉さん、僕はここまでで大丈夫だよ」
「…分かったわ。それじゃあ私は行くわね、帰りは迎えに行くから待っててね?」
「分かったよ姉さん」
姉さんが去っていくのを少し見送ると僕らも学校へと歩き始めた。