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ふるさと  作者: 夕顔
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高校生

 私とユリは地元の高校と専門学校を卒業して、本社が宮城にある会社の地元本社に地域採用で入社した。


 ユリは、珍しい表情で高校のクラス会の誘いが来たと、とても嬉しそうにしていた。

「春に仙台から異動で帰ってきたクラスメイトがいて集まるんだって。」

「何さその顔。良い人いるの?」


 ユリはいつもより少し幼い「女の子」の顔をしていた。




 私の高校は女子高だが、ユリの高校は共学だった。

 女子高は女子しかいない故の楽しさがあるのだが、やはり共学も少しだけ興味はあった。


 この地域の高校生は、卒業時にかなりの人数が他県へ流出する。

 そして恐らくそのうちの半分位の人達が地元に帰ってきて、残りの人達は旅立った先で根をおろす。




 私達は笑いながら午後の始業に間に合うようにお互いの部署に戻り、デスクについた。

 デスク上のメモと書類を確認しパソコンを開いてメールのチェックをする。


 そして午前中にチェックした書類上の数字と、上司から渡された書類上の数字をデータにするためにパソコンで入力作業を始めた。

 大手では紙の使用がほとんど無いと聞いた事があり、時々この一連の作業に溜め息が出る事もある。




 午後になるとオフィスは静かになる。

 営業員が殆ど出払うのと、午前中程電話が鳴らなくなるためだ。




―――――




 私は地元の女子高に進学した。

 勉強よりスポーツがメインの高校だった。

 私は勉強はあまり得意ではなかったので、その高校の偏差値は御察しである。

 ここの制服は可愛いと人気で、私は確実にこの高校に入学するため、直を家庭教師にしたり塾に通ったりなどをして頑張った。


 女子ばかりの教室に最初は違和感を感じたが、直ぐに慣れて私は毎日笑いながら過ごした。

 中学の時のような喧嘩や嫌がらせは殆ど無く、皆誰とでも別け隔てなく会話をして笑った。

 たまに上級生と揉める生徒はいたが、イジメなんて下らない事は起きなかった。


 スポーツ高校の運動部は、女子と言えど朝早くから夜も遅くまで練習しているので、授業中に寝ている人が多かった。

 そんな生徒を思いやってなのか先生方はあまり注意をしなかった。


 変に気を使ったクラスのハンドボール部員達が全員で瞼の上にマジックで目を書いて寝ていた時は、先生は爆笑していつもとは逆に注意をしていた。

 そんな彼女達も三年生時はインターハイに出場する事になり、クラスにいたハンドボール部の主将が笑顔で優勝旗を持って帰って来た時は羨望し、運動部に入部すれば良かったと少し後悔した。




 直は地域で一番偏差値の高い共学の高校へ進学した。

 この時から眼鏡をかけるようになった。


 その高校の雰囲気は分からないが、顔を合わせると直は良い笑顔をしていたので、高校ではそこまで地味ではなかったのかもしれない。

 それか直みたいな人が多い学校なのだろう。




 ある日私に彼氏ができた。

 合コンで知り合った一つ年上の人だった。

 とてもお洒落でバイクにも乗っていて、少しチャラチャラして見えたかもしれないが、割と真面目な人だった。

 この彼氏と付き合う時に、初めて小さいが暖かい塊を自分に感じた。


 私はこの彼氏がとても好きだったのだが、それこそ私の価値観を押し付け過ぎて三ヶ月程で駄目になってしまった。

「価値観が合わないから無理。」

と言われフラれたのだが、恐らく私が価値観に拘り始めたのはこの時からだ。


 今思えば、雑誌や友達から仕入れた情報で「恋愛はこうあるべき」という物を作り上げ、求め過ぎたように感じる。

 つまり私と彼は本当の意味での価値観まで辿り着かなかったのだ。




 私は落ち込んで、愚痴をこぼしに直の家に通った。

 この頃から直は怒らなくなって、私達はほとんど喧嘩もしなくなった。

 ただし怒らなくなったかわりに理屈や屁理屈が多くなって、少し面倒な男になった。

 あまりに面倒な時は聞こえないふりをしていると直は黙った。


 この時期から直の部屋には私が昔から好きな30円の駄菓子がいつも置いてあるようになって、私はいつも食べ尽くしていた。

 しかし後日行くとまた補充してあってそれをまた私は食べ尽くし、最早日課に近くなっていた。




 落ち込んだ私に気を使ってくれたのだと思い嬉しくなり

「ありがとう。」

といつもの図々しい態度を改め、素直に笑ってお礼を言ったら、直が凄く驚いた顔をして

「笑うな!」

と大きい声を出した。


 また直の中の変な屁理屈が癇癪でも起こしたのかと思い少し苛ついたが、感謝を伝える時位は我慢しする事にした。


 その日、直は私の方を見なかった。


 それでも私はそのお菓子に釣られてそれからもちょくちょく直の家へ通った。


 何だかんだ言ってもやはり気心知れている直といるのは楽で、一人でいるより楽しかったのだ。




 母に

「いっそあんた直と結婚すれば。」

と言われたが、この時初めて直の苗字と自分の名前を組み合わせて考えてみたところ、「ヤマヤマヤ」になる事が分かって、私の結婚したい人リストの中でもただでさえ低い直はダントツで最下位になった。




―――――

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