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ふるさと  作者: 夕顔
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好きな人

 社員食堂は混んでいるので、私達はいつも会社の近くにある少しお洒落な和風居酒屋へ行く。

 この居酒屋はランチもやっていて、カロリーがあまり高くない和風の食事を提供してくれるのだ。




「摩耶は大久保さんの何処に不満があって付き合う事引っ張っているのよ。」


 このネタは数日ごとのように話題になる。


 ユリの言い分は、大久保さんもまずは恋愛をしようというスタンスであり、私もまたこの年齢のため悠長にしていないで、二人の意見は合致しているのだからさっさとくっつけという事だ。


 しかし現実的に自分の将来を考える程恋愛を始める事に私は億劫になる。


 そして年齢が嵩む程恋愛に対してのスイッチが出来上がり、相手の条件や背景を見る事でオンオフをしてしまう自分に少し嫌気もさしていた。

 大久保さんに抱く感情などまさにそうだ。


 最近では

「そもそも恋愛とは何だ」

という事を考える時もあり、私は恋愛をしたいしするべきだが、そういう疑問と暖かい塊に阻まれ足を踏み出せないのだ。


 こうして私は、今朝は「大久保さんと付き合おうかな」と考えておいて、数時間後には「やっぱり違うよな」と考える。


 それを乗り越えないと価値観の問題にすら辿り着かないのだが。


 ユリは、恋愛も結婚も両方を求めるから駄目なのだとよく私に言う。




―――――




 私が最初に好きになったのは同じ小学校の、直と同じ賑やかグループの宮本だった。

 宮本は人気があって、彼を好きな女子がクラスにはたくさんいた。

 宮本は隣の席の時に私の牛乳を代わりに飲んでくれた事があった。

 彼は牛乳が好きでいつも牛乳が苦手な誰かのものを貰って飲んでたから、多分他意は無いのだが私は嬉しかった。


 でも宮本は秋世ちゃんとは仲良くするが、私とは何処か素っ気なく会話も漫ろにすぐいなくなってしまう。

 だから私は秋世ちゃんに少しだけ焼き餅を焼いた事がある。




 けれど私はそこまで執着しなかった。




 中学生になると違う小学校から来たサッカー部の男子に気持ちは移った。

 彼は身長が同級生の中では高く、大人っぽく、少し悪そうな男子で、よくサッカー部の練習風景を教室の窓から眺めていた。


 この頃から私は自分の名前の響きが気に入らなくなり、母音に「あ行」の少ない苗字か名前になりたいと思うようになった。

 結婚して苗字が変われば「カガヤマヤ」という「あ行」の束縛から解放されるのだ。

 皆は気にしすぎだと言うが、可愛い名前なのに嫌がる人がいるように、恐らく本人にしか分からない拘りなのだ。


 件のサッカー部の男子はその条件にもマッチしていて、彼の苗字になりたいなと、今思うと軽くとんでもない事を考えたりした。


 結局話しかけられないまま、その男子には彼女ができた。

 彼に釣り合いたいと流行を追いかけたが、彼が選んだのは真面目固そうな女子だった。


 当時は見る目無いのかななどと思ったが、大分後になってから当時からの自分の考えに少し後悔する。


 結局真面目そうな子の方が先に彼氏もできて嫁いで行くのが現実だった。




 そんな私の理想の男女の姿は直の両親だった。

 直の両親は中学から付き合って結婚した。

 息子は地味男子になったが、直の両親は二人共教師をしていて美男美女で、小学生から見ても素敵だと思った。


 安易な考えしかできない小学生の私はよく

「先生のお嫁さんになりたい」

と言ったものだった。

 教師の妻になる事と素敵な夫婦は別物だというのに。




 「恋に恋する」という言葉が当てはまりそうだが、現在も「結婚に恋する」ような状態で、つまり少女漫画や小説のような出来事は滅多に無い理想ではないかと思う。

 だからドキドキする恋愛をしたいが、理想と現実は違うのだと私は考える。



 でもあのドキドキを経験してしまった事で、それは暖かい塊となり今も私が見ている道の先に転がっていて、今日のように動き出す。




―――――




 私達は会社に戻り歯磨きをしてから化粧を直す。

 ユリがスマホを触りながら

「あれ、クラス会の誘いが来てる。」

と言って微笑んだ。

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