中学生
大抵午前中は電話の対応と前日の契約書類等のチェックで終わってしまう。
年度末からゴールデンウィークあたりまでの間はそこそこ忙しい。
年度切り替え前後の契約が多く、しかしこの時期を乗り越えると割と平和に過ごす事ができるようになる。
だから今日も大量の書類に集中しないといけない。
そのはずが今日の私は「ふるさと」を聞いてから、暖かい塊に少しずつ動かされ、手も頭も思うように動かない。
そして相変わらずその塊に触れる事を避けようと葛藤する。
実はこの現象は今が初めてでは無いので、触れないようにするのは癖にもなっている。
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私は生意気な中学生だったと思う。
勉強はそっちのけで、とにかく友達と流行や恋愛を追いかけていた。
中学にも合唱部はあったが、気が合いそうな人がその部にはいなかったし、友達とカラオケで歌っていれば十分だった。
当時はティーンズ向けの雑誌が多く、学校が終わると友達の家に集まってその雑誌を囲んでお喋りをした。
当時の雑誌は過激な物も多く、中には中高生の恋愛や性行為を煽る記事が珍しくはなかった。
すると彼氏が出来た友達の中にもそういう事をする人が少しずつ現れ、私達はその未知の世界を知る事が大人への一歩なのではないかと、今思うと妙な考えを持ち始めた。
その割に中学では好きな男子はいても彼氏が出来ず、流行好きで見た目の勢いと隙はあるが、純潔はしっかりと守られていた。
中学生になると、モテる男子というのが変わってきた。
見た目と統率力と所属部活動が人気の基となり、小学生の時のように賑やかで運動神経が良いだけではモテなくなってきた。
だから気付いたら小学校の時には人気があったのに、中学校では目立たなくなる男子も珍しくはなかった。
小学生の頃に賑やかで人気のあるグループにいた宮本は、イケメンで成績が良くて、中体連の大会では全校応援がある野球部所属だから中学生になってもモテていた。
当時私が好きな他小学校出身の男子も、女子達に人気のサッカー部に所属していた。
しかし直は成績は良いがイケメンではなく、6人しかいない弱小バレーボール部所属で、ついに実は短気だという事もバレたためか女子からの人気は無くなった。
しかし直も良い所はある。
私服と靴のセンスの拘りは、流行ど真ん中ではないが私はなかなか好みだった。
ただ学校ではそのセンスも分からないため、直はすっかり地味系男子になった。
そんな弱小バレーボール部が中学最後の中体連の大会で、なんと市の三位に入った。
素晴らし快挙だと私は思ったのだが、学校では専ら野球部とサッカー部に注目が集まっていて、直達を讃える声は少なかった。
なんだか悔しくて私は直に
「おめでとう!
凄いじゃん。特訓したの?」
と声をかけた。
すると
「三位入賞したら先生がエロ本買ってくれるって言ったからすげえ頑張った。」
と直は笑顔で答えた。
私はそれを聞いた時自分の事を棚にあげて、幼い頃から付き合いのある直が性に目覚めている事にどこか苛ついて思い切り足蹴りしてしまった。
それから暫く口をきかなかった。
中学卒業式に直は第二ボタンにゴムをつけ
「あげようとしたらゴムが伸びるとか面白くね?」
と言っていた。
私は正直な所、地味男子の直の第二ボタンを誰が貰うのかと哀れに思い笑えなかった。
しかしいざ式が終わると一人の女子が直にボタンを貰いに行っていてショックを受けた。
流行を走る自分より、地味男子の直の方がモテる事に屈辱を感じたのだろうと思う。
その後直達の家族と私達の家族で外食したのだが、私は暫く不機嫌だった。
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お昼のチャイムが鳴ったと同時に皆椅子から立ち上がった。
手が止まっていた私は少し焦り、ペースを上げて残り数枚の書類チェックを終わらせてしまう事にした。
隣のブースから共に昼食を食べる予定のユリが迎えに来るまでには間に合うはずだ。
暖かい塊はいつもやっかいで、心地は良いのだが私のペースを崩す。