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ふるさと  作者: 夕顔
12/13

タイミング

 桜の並木道で着信があったメールは直からだった。


 ドクン


 心臓が一際強く脈を打ってから、私の体の中が悲鳴をあげて捻れたように感じた。

 もう暖かい塊から逃げるのは困難だった。


 何年ぶりだろうか。


 メールには

「明日〇×霊園入り口に13時」

と書いてあった。


 おじさんが眠るお墓がある所だ。


 私は反射的に

「了解」

とメールを打った。


 暖かい塊も大きいが、おじさんのお墓へこの時期に行くのは、私にとって躊躇するべき事ではないのだ。

 ただ今年は直と共に行くだけだ。




 暫く考えて、暖かい塊が笑っているのを諌めてから大久保さんの電話番号をアドレス帳に登録し、ベッドに横になり直を思った。




 私と彼はこの数年何の連絡もとらなかった。


 その間彼への恋心に気付いた私はあれ程に悶え苦しみ、最終的に考えないように気付かないようにした。

 しかしこうして突然の連絡を当たり前のように受け入れる。

 それは私と彼が積み重ねてきた年月と出来事がそうさせるのだ。




 直は少しでも私に恋心を抱いてくれた事があるのだろうか。

 この部屋でのキスは何だったのか。






 ああそうか。


 これがタイミングというやつだ。




 あの時この部屋で私が目を開く事ができていたら、もしかするとタイミングが合ったのかもしれない。




 結局秋世ちゃんが言ったように全てはタイミングで、そして一緒にいる時間が長く近い程タイミングをはかるのは難しいという事だ。


 そして私は間違いなくタイミングを逃した。




 もしかすると一番大事なのは価値観より相性より、お互いを思う気持ちとタイミングなのかもしれない。




 私はずっと直と共にいる事が当たり前だと思っていた。

 大学で県外に出ても私がいる空間に彼は帰ってきていて、悲しい事があるとお互いを支えあった。


 それはずっと続くものだと何故か疑わなかった。




 そして直がいなくなってしまい、恋心を知り年月が過ぎていくにつれて、気付かないふりをしながらひっそり彼と一緒の未来に焦がれていた。


 暖かい塊はそれを私に気付いて欲しいと訴え続けてきたのだ。




 私の恋心を知ったら直は何を思うだろうか。


 タイミングが合わなければ積み重ねてきた大切な物は壊れてしまうのだろうか。






 いっそ壊してしまおうか。


 そもそも数年に渡り連絡が無かった彼には結婚したという情報は入らなかったが、恋人や婚約者がいてもおかしくない。


 そして私も気付かないふりをしながら暖かい塊にずっと蝕まれて過ごす位なら、壊して先を見る事が必要なのではないか。




 私は私でおじさんを思えば良い。

 おじさんにもきっと分かってもらえる。


 明日おじさんのお墓から帰ったら大久保さんへ電話をしよう。


 もしかするとこれが私と大久保さんが近付くタイミングなのかもしれない。

 そして彼との間に新たな暖かい塊が生まれて、彼と共に歩みたいという感情を覚えるのかもしれない。

 その時には私も直に感謝するようになるかもしれない。




 そうしたらきっと私は桜の花を昔のように慈しむ事ができるようになる気がする。






 だけど今はこの暖かい塊に身を委ねていよう。

 明日には決別しなければならないのだから。




 私は目を閉じ、これまでの事を思い出しながら眠りについた。


 暖かい塊は「ふるさと」を奏でていた。

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