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『隷属返し』

 敵の仲間が来る前に急いで逃げ出さなきゃ!手伝ってもらおう!

 ドアを開け、上にいるだろう若い神官に呼びかけた。


「神官様!敵を倒しました!民間人の救助をお願いします!」


 すると喜んでいた女性達の顔色が変わった。

「いや!やめて!」

「たすけて!」

 口々に小声で悲鳴を上げた。


「・・・まさか」

 とっさの判断で開けかけたドアを締め、内側からかんぬきをかけた。


 彼女達が息をつくのが分かった。


「ごめんなさい。私はこの国にさっき着いたばかりで、何も分からないんです。

 神官達にあなた方の身柄を任せると、まずいということでしょうか?」

 小声で問いかける。


 彼女達は疲れた身体を起こし、狭い檻の中で次々お辞儀をしてきた。座ったままなされたそれは土下座に近い。面食らった。


「女勇者さま!どうぞおやめください!」

「偉い方々はたまたま魔力が高く産まれた市民を魔力ポーションくらいにしか思っていませんわ」

「似たような目に遭うだけです」

「お助けください!女勇者様!」


 びっくりするが、嘘とは思えない表情だ。しかしなんで勇者候補だってわかったんだろ。

 じゃあともかく檻の鍵見つけなきゃ!


 と思った瞬間、ガチャガチャ音がした。

 締めた黒いドアを外側から開けようとしているようだ。

 ビクリとする一同。


 ひとっ飛びで番台に行き、檻の鍵を探す。

「鍵はここでしょうか?どなたかご存知ですか?」

「右の上の方の引き出しだと思いますわ」

「わかりました・・・ありました!」


 鍵の束を取り出し、端から檻を開けていく。

 制服の少女も協力してくれた。


 檻を開けるのはいいけど、次はどうしたらいいのだろう?

 疲弊した全員つれて、神官を撒くにはどうしたらいいんだろう?

 この国に警察はいないのだろうか?

 私が考えてもどうすれば安全か分からない。


「このあと具体的にどうしましょう?

 案のある方お願いします」


「指を食べさせてください」


 しごく冷静な声でそれは言われた。


 ゆび・・・?気でもふれたか?


 ちょうど今鍵を開けた檻の中、ピンクの髪をした可憐な女性の口から出たその言葉にぎょっとする。

 けれど、驚いて見返した彼女の知性的な瞳に、狂気やおふざけの感情はない。

 周りを見回して、捕らえられていた全員が頷いているのが分かった。もっとぎょっとする。


「あの・・・指って、まさか私の・・・?」


 空気がゆるんだ。

「え? ・・・あら、違います。

 驚かせてすいません、そこの人買いの指ですわ」


 なにやらワケアリのようだ。

 檻の鍵を開けるのを続けながら、彼女の話を聞く。


 いわく。

 元々魔力の強い人間は王族と神官など指揮する側に多かった。

 戦えるタイプの魔力をもって生まれた民(以下「戦闘系」)は騎士団や軍に属していた。

 だが、魔力ある民は魔王軍との戦いで激減してしまった。

 生き残った魔力ある民は国とマフィアで取り合いされる存在となってしまった。

 戦えるタイプ以外の魔力の民(以下「文化系」)は無理矢理戦いに行かされたり、国やマフィアに隷属させられ魔力ポーション扱いを受けるようになった。

 この地下室の黒いドアがマフィアの目印だという。


 その隷属化の方法が「魔力を自分より弱らせてから、犯す」か「肉体を食べる」ことだという。

 そして真名を握り、条件を決め従わせる。


「私たち文化系タイプの魔力を単なる暴力で弱らせることは困難ですの。

 ですから彼らはまず指を落として食べ、従わせてから、名前を聞き出します」


 言われて見れば、捕まっていた女性たちは左手小指の先がなかった。

「それを解除する方法が、指を食べた相手の指を食べ返す、ってことなのですか?」

「はい。『隷属返し』ですわ」


 ううむ・・・・。


 カニバリズムは生理的に受け入れがたかった。

 でも、彼女たちは自分たちがされた理不尽をやり返すだけだ。

 前より見抜けるようになった目をもってしても、彼女たちが嘘をついているようにも見えなかった。それに元々私は女性被害者にえこひいきな思考回路の持ち主だ。

 警察や裁判所に当たる公的組織である騎士団や神殿にも頼れないというなら、事態打開のため指切りという私刑も仕方ない、と自分を無理矢理納得させる。

 納得させるしかない。事態は急を要する。


「わかりました。

 ではどうぞ存分に成敗を!」

 ピンクの髪の女性に押収したナイフを渡そうとしたところ。


「私たちは隷属条件で縛られ、主達に刃を向けられませんの。

 どうか、女勇者様の手で切り落として、食え、と命じてくださいませ」


 「ええっ」


 一気にハードルが上がった!!!!


「う う え ちょ さすがにそれは厳し」

「どうか!女勇者様!」

「お願いします!」

「助けてください女勇者様!」

 土下座をする女性達。


 うわああ〜ん。目をそらせない。

 そうだよねそうだよね。酷い目に遭ってる方々を前に、悪漢の指一つ落とせずにどうする。

 えええそういう問題かなあ。どうかなあ。

 うああああん裁判員裁判ってこういう感じだったのかなあいや違うか、刑実行自体が民間人によるってどうよ?

 えええびびる。混乱する。


 でもでも彼女達を助けるにはこれしかないんだから!

 と自分を無理矢理納得させる。

 繰り返すが事態は急を要するからあ〜!

 うええええ・・・。


「分かりました。やります」

「では右手人差し指を根元からお願いしますわ」

「分かりました!」


 うわああもうやけだ!目を閉じておきたい。怖い。だが目をそらしてはいけない。この世界の現実をみておかなきゃ。うわーんもう今私はニュースの現場にいるよ!私当事者だよ!指バラバラは猟奇的すぎて日本じゃ新聞報道できないけどね!


 内心へっぴり腰だが、ナイフを握った。

 ピンクの髪の女性の指示にしたがい、男達全員の右手の人差し指を切り取った。番台の男は両手の人差し指だ。それはこの男が多く彼女達の指を食べたからだ。

 因果応報、因果応報、と呟きながら、次の指示通りにひと関節ずつ切り刻んだ。

 12個の肉片ができた。


 自分の手が気持ち悪かった。切り刻んだ感触が抜けない。平常心を保つのが難しい。

 が、吐き気を飲み込んで命令した。


「皆さん、食べなさい」


 私が声をかけると、彼女達は勢い込んでそれぞれ一つずつ掴み、血生臭い肉片をものともせず飲み込んだ。


 制服の少女と私が息を飲んで見守る中、確かに場の雰囲気が変わったのが分かった。

 暗い雰囲気が薄れ、疲れきっていた囚われ人たちは生気を取り戻し、目に力が戻った。


「そして次はどうしましょう?」

 問いかけるのとほぼ同時に、キリッとしたピンク髪の美女が動いた。


「サイレント!」

 右手人差し指を振りかざし短く呪文?を唱えると、ガチャガチャ、ドンドン!と聞こえていたドアを開けようとする音が途切れた。


「失礼しましたわ、女勇者様。この部屋は防音しました。

 どなたか結界魔法使えるひと!」

 とたんにシャキシャキ指示をとばしはじめる。


「はい!私やります!」

 今度は赤い短髪の少女がドアにとびついて呪文を唱えた。

「キープアウト!」


 ドアの揺れが止まり、黒いドアを境に外と切り離された感覚が分かった。

 にしても分かりやすい呪文だねぇ。助かるけど。


 と、人心地ついたところで、彼女たちは揃って私に深々と頭を下げた。

「わ、やめてください!当然のことをしたまでです!」


 居心地の悪さに頭を上げさせようとするが、今度はまた妙な事を言い出した。


「私、司書をしておりましたルシアと申します。

 どうか私の指をお召し上がりくださいませ、新たな主様」

倫理崩壊の危機を女勇者はどう切り抜けるのか?!

次回は「てってれー。こぶんをてにいれた!」です

(04/23 8時更新)

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