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初めての戦闘と出会い

 セクハラアンテナ・・・よりもビリビリくる!強い!

 これは貞操の危機レベルのようだ。

 行列の待ち時間は取材の絶好のチャンスだが、危機の方が見逃せなかった。


 スキル・適性の検査器具は数機しかないようで、セクハラアンテナに気を取られているうちに長い行列ができた。

 待っていられなかった。


「すいません〜!

 行列の待ち時間にトイレに行かせて頂けませんか?」

 行列には並ばず、壇の下から壇上の大神官と神官達に、とっておきの営業用”困ったよ~助けてぇ”顔で声をかけた。

 ・・・男嫌いの私のこれはレアだぞ・・・。

 自分でもきもいが背に腹は代えられない。


「おや、数少ない女の勇者候補だね」

 大神官がちょっとにやにやしながら(これもまた人事部長そっくり!)頷いた。

「ふふふ。女性の生理現状を咎めたりしないよ。

 だが逃すわけにはいかな・・・いやいや道に迷うといけないので、うちの若手に案内させよう」

 後ろにいた若い神官が指図されて降りてくる。


 女性のトイレ案内に若い男性をご指名?

 どんなデリカシー?

 ていうか、見回しても神官に女性はいないのね。

 またここも男女差別か~。

 まあいいや、急がなきゃ!


「すいません!危機的状況なので、小走りでお願いします〜!」

 神官が小池に似たようなぼんやりした若手なのをいいことに、扉を出ると声がした方に走り出した。


「えっ?トイレそっちでしたっけ?

 あれ~、そういえば女性のトイレ知らないやぁ、まってくださいぃ~」

 一応素直に?追いかけてきてくれたが、遅い。

 アンテナは激しく反応している。

 まだるっこしいので、手を取って引きずるように本気で走りだした。

 自分でも驚くくらい早く走れた。


「え~?あ~。困りますぅ~」

 なんかねじのゆるい神官だなあ。今は助かるけど。


 神殿を出ると目の前に豪華絢爛な門がそびえ立っていた。

 ちゃらい感じの門番が隠れもせず道の真ん中で、侍女の体を無理矢理触っていた。


 ・・・これか?

 いやこれだけじゃなさそうだ。

 でもこれも放置するとじきに悪化する予感がする。

 うう。。


 いわば同じ会社の従業員同士のセクハラみたいなものだから、一瞬躊躇する。後がめんどくさそうだ。

 が、ほっておけないと思う。


「すいませんごめんなさいよそ見してました!!!」

(恥を知れ!!!←内心)


 内心罵りつつ言い訳を叫び、走りぬけざまに股間げりをする。


 ドゴオッ!!!


【クリティカルヒット!チャラ男門番は気絶した!】


 7年くらい通い続けている道場の最終奥義が何を隠そう『不意打ち』での『股間蹴り』である。

 もとが『弱者が複数や強者相手に生き残る見込みを最大限に上げる』術を教える流儀だ。卑怯だの何だの言ってられないのである。


 思った以上の勢いでぶっ倒れた門番から、侍女が慌てて離れたのを脇目に見届けて、スピードをまた上げる。


 やっぱりこれだけじゃない!

 アンテナが激しく告げる。

 この先に肉体の危機に晒された女性がいる。


 星空の下、大きな門を抜け、アンテナの指す方に石造りの夜道を走る。


「ひえぇえええ~。そっちはだめぇ~」

 キキィッと暗い方へ角を曲がると、もはやぶら下がっている神官はゆるい悲鳴を上げた。

「すいません黙ってください!敵に気づかれます!」

 小声でお願いすると、神官は意外にすぐ黙ってくれた。今は助かる。


 灯りがある通りを曲がると、暗い路地がたくさんあった。

 その一つの中程。

 制服のようなものを着た少女が車のようなものからごつい男2人に抱えあげられ、まさに黒いドアの建物に連れ込まれようとしていた。

「・・・・!!!」

 息をのむ。


 また暗い路地かぁ!

 もう、外灯つけてよ政府!


 悪態でもついて気分を落ち着かせようとするが、類似点が多すぎて、自分が暴行されそうになった事件の恐怖がフラッシュバックして心拍数が上がって震えが出てしまう。

(やばい、落ち着かなきゃ)

 心を映すように、晴れていた空が急に陰りどしゃ降りが降り始めた。


 落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ・・・!こうしてる間にもあの娘は!


 しかし、ますます自分の心のコントロールがきかない。

 ぬれた身体が芯まで一気に冷たくなる。

 感情が爆発しそうだ。


 と、ぐるぐるする視野の端っこに、痩せた白髪の人が映った。

 我に返る。


 あのひょろっとした姿、髪の毛は・・・まさか・・・あの夏の。


 神官の手を取り落とし、立ちすくむ私に、その人はすーっと影のように近づいてきた。


「敵に名乗ってはいけないよ」


 すれ違いざまに、耳元で囁かれた。


(・・・えっ?)


 その人はすっと陽炎のようにすれちがって、急いで振り返ってももういなかった。

 さっきとは別の意味でどきどきしていたが、すとん、と恐怖は収まっていた。


 落ち着かなきゃ。

 私は今は誰かを守る立場なんだ。


 私が習ったのは格闘技じゃない。

 生き残るための戦闘術だ。

『生き残るためには、一撃必殺。冷静さが命を救う』

 パニックで思考能力が低下したら、他人どころか自分も救えない。

 グランドマスターの教えを心の中で繰り返す。


 いつの間にか雨はやんでいた。

 すっと息を吸って、一瞬身体の力を抜く。

 そして。


「女の子を救出します。見張りをしつつ、助けを呼んでください」

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