ブラック勇者候補
勇者候補、、とな?
???
・・・英訳間違った?私?
でも隣の青年も、そのまた隣も、そのまた隣も、それぞれの言葉でマジかよ、と呟いたので多分本当なのだろう。
あれ?どうでもいいけど今隣の白人ぽい青年、日本語でした?
見た目は白人ファイ○ルファンタジーキャラ風?(詳しくないけど)なのに。
大音量が続ける。
「申し遅れた。
私は我が国の大神官を任されている者である」
あ、大神官で確定!
とにかく今は大神官の演説を本記(メイン記事)に仕上げることを第一にしなきゃ!
目はまたぎゅうっと大神官にピントをあわせながら、残りの視野角と音声で回りに動きがないか探る。いつでも持ち歩いているICレコーダーにポケット内でスイッチを入れる。雑音は入るけど、不審に思われないためには仕方ない。
ノートの見出し部分に日付と時間、場所(国名とかわからないから空白を空けて、仮・神殿とする)、大神官氏名の分を空白空けて、大神官が発言、とガリガリ書き込む。
速記文字を書きつつ、ターゲットから目は離さない。
サイドの雑観記事は、この群衆の動揺の様子と、後で2、3人からコメントをとればいい。
さっきの青年日本語通じるなら楽だから1人目は彼にして、後は女性少なくとも1人、それから多そうな英語圏1人捕まえよう。
質問したいことばっかりだけど、この手の有力者の演説に質問を途中でするといいことはない。今はおとなしく言われたことを聞いといて、後で捕まえて1人で囲み取材しよう。
考えながら、演説内容をメモしていく。
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○○(空白)大神官によると、本日午後大神殿にて第3回勇者候補召喚が行われた。
勇者候補たちには魔王討伐のためそれぞれ戦力向上してもらう予定だという。
以下は戦力上昇の方法だ。
剣士、魔法使いなど自分に適したジョブにつき、修業、関係する活動をすることでジョブごとのスキルを磨く形式。選択するジョブ数に上限はない。
3つ以上のジョブのスキルを全6種類以上極めた者は、勇者と名乗ることを許される。勇者に限り従来レベルMAX後の上位スキルも身に付けることもできる。
肉体系、魔法系、知能系など、元の世界で熟練していたスキル、潜在的なスキルはこちらの世界では増幅する。
重点的に少数のスキル経験を積むのも、いくつかのジョブスキルを広く薄く納めるのも個人の自由だ。
新たなスキルを身に付けたい者は、勇者候補優待価格で稽古などを受けられる。
冒険者ギルドに属して臨時のパーティーを組み依頼をこなす、騎士や軍人の見習いになるなど仕事をしながらスキルを磨くのが一般的だ。
衣食住としては城下町の朝食賄い付き共同住居が使える。装備、衣服は当座使えるリサイクル品をこの後無料で先着で貸し出す。
ーーーふむふむ、魔法という概念がまかり通っている宗教、地域なのね。
じゃあこの大声も彼らの言うところの魔法の一種なのかな。
たまに意味不明な言葉が入っているので、意味があっているのか不安だ。
第一、もともとの意義やこの国のことについて何も触れていない。
どこにでも、自分達に都合悪いことは聞かなきゃ答えない役人っているものだな。
分からない事ばっかりだ。
まわりの勇者候補たちは着いていけているのだろうか?
聞き耳をたててみる。
「これって異世界トリップってことかしら?」
「だよな!オレ選ばれた勇者になっちゃうかも?」
「うほっ♪ハーレム作るもんっ!」
・・・ええ?
話をまとめつつも、内容にはついていけてない私。一方で周りの人々は大方なんだか状況を好意的に理解しているようだ。
メモ取りつつもわかってないの、私だけ??
「時間経過した分向こうの世界でも時間過ぎてる系かな?
時間ストップ系かな?」
「てか死んだらもとの世界に戻るのかな?」
「いやー、よくあるレベル1で死に戻り系かもよ?」
ちょっとびびる。
死ぬ危険があるレベルって理解しつつも悲壮感なく気軽に話してるの?この人たち。
猟奇事件取材だろうが戦地取材だろうが精神を保つ技を、記者やカメラマンは年と共に手に入れる。一種の自己防衛の麻痺だ。
だから仕事モードにチェンジしている記者とかならわかるけど、普通の人が自分の死を語るには気楽すぎる。
派手なルックスでぱっと見軟弱な2人なんだけど、なんだろう、この違和感。この人たち、後で取材しよ。
でも今は、すぐ後でも捕まるこの人たちじゃなくて、大神官優先だ。
私たちは町に降ろされるって話だから偉い神官達にそうそう楽に会えるってわけじゃなさそうだし、今すぐ聞けないにしろ顔を繋げとかないと。
ーーー気がついたら変な所にいて、謎と不合理ばかり。
私の感覚では、衣食住に関する大神官の言い草なんて、ありがたいというよりも「寮つきブラック企業みたい」と思う。無料で住まわせる代わりに、普通の家賃払えないような安給料で働かせて、永遠に無料宿舎から出られず馬車馬生活の仕組み、みたいな。
着の身着のまま合意なしで召喚しといて、承諾を取ろうともしないんだもんなぁ~。
なのに状況を楽観視している人も複数いる状況。
不思議。
なんにせよ私だけじゃなくみんなの問題だから、大神官の言葉が途切れたら手を挙げて、無理にでも全員の前で質疑応答モードに入ってもらおう。
国と政府の仕組み、今までの勇者候補がどうなったか、とか色々聞いとかないと。
機会を逃さないように前の方に行っとこう・・・。
説明が続く中、じりじりと群衆の間を通って前の方へ移動する。
後ろからさっき気になる話をしていた2人もそっとついてくるのが分かった。
「それでは最後に、そなた達のスキル、適性を調べる。
検査器具の前に並ぶのじゃ!」
と言われた辺りで、セクハラアンテナが働いた。