るつぼ、そして人事部長に似たあの人
私の身体が壇上で倒れて入院騒ぎになっている頃。
意識の方は、謎の空間にいた。
意識が身体を離れるとき、ズームと引きを繰り返すような奇妙な視界で、私は上から自分が倒れるのを見ていた。
金色の鱗粉が視界一杯光る中、倒れ込む自分が近く見えたと思ったら遠く見える。
天井を超え、意識が上昇しているようだ。
車酔いに近い気持ち悪さ。
ズームと引きが繰り返すうち、引きの時間が長くなり、辺りが真っ白になっていく。
そしてとうとうホワイトアウトした。
私、死んだのかな・・・。
当然最初はそう思った。
死後の幽体離脱というものなのかと思ったからだ。
だが、時間感覚の狂う間もなく、ふと気づくと足が床についていることに気づいた。
金色のモヤがかかっていた視界が一気に開け、足下が見えた。
大理石のような高級感のある床だ。
えっと思って周りを見ると、とんでもなく広い宮殿もしくは聖堂のような所にいることが分かった。
とんでもなく柱が太く、とんでもなく天井が高い。
目の前にはとんでもなく大きく荘厳な雰囲気のステンドグラスがあり、その壇上には白い神官服のようなものをまとった人々がいた。
真ん中の一段高い所にいる、太った神官の顔に、ぐっと視線が吸い寄せられる。
「えっ?兼原人事部長?」
目を疑う。
コスプレした人事部長かと思うが、よく見れば少ない髪の色と肌、目の色が違う。
ぱっと見そっくりだが、白人系のようだ。
その人こそ、先ほど金色の鱗粉の渦の上で笑顔で手招きしていた人物だった。
なに、これ・・・。どういうこと?
何なのあの人、ここは一体・・・?
しばらく呆然とするが、はっと我に返る。
習性でいつも持ち歩いている記者ノートとペンをブラインドタッチで取り出し、構えて周りを見回す。
とにかく情報収集しなくては!
大神官(仮)に集中していた意識を戻して周りを見ると、神殿(仮)の広間には、私のように戸惑った顔をした人たちがたくさん居る事が分かった。
あれ?さっきからいただろうか?
分からないが、とにかく取材してみよう!
「ヘロゥ、エクスキューズミー!」
私はまず隣にいた男性に話しかけようとした。
彼も戸惑った目をしつつも私に話しかけようとしてくる。
私の声をきっかけに一気にざわめきだした、数百人かそれ以上の群衆。
そのとき。
「しずまれ!」
壇上の大神官(仮)が大声を上げた。
人1人で出せる声とは思えない大音響だ。
言語は少しなまった英語。
とんでもない大声に、また周りがざわめく。
周りのざわめきは多種多様な言語が入り混じっていた。
人々は人種のるつぼらしい。
以下色んな言語が混じるが、特に注のないかぎり、全て日本語で通訳するのでよろしくです。
てなわけで。
またざわざわしていると、大神官がもう一度一喝した。
「驚きはもっともだが、しずまれ、勇者候補達!」
・・・え?
今なんつった?