表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

せせらぎに滝

 ズーと屋上に戻ると、キスカは話は終わったという感じでジェムズの上から降り、男たちにパンパン手を叩いて言った。


「では、叔父さまがた。お願いしますね。

 お兄様、まずはこちらの解呪を至急お願いできます?

 ジェムズの影武者と2人は学園の準備に出発して。

 召還できる人はあちらのルシアさんの指示に従って。

 治癒のできる人はこちらのミーエさんの指示に従って。

 残りのメンバーには力仕事やってもらうわ。宿舎跡からご遺体と遺物を引き揚げてきてちょうだい。くれぐれも丁寧にね。

 ・・・あ〜逃げるなジェムズ!あんたはもちろん残るのよ」

「へぶっ」

 遺体引き揚げと聞いて逃げようとしたジェムズは、見えない鎖にない首を掴まれた。


「あ〜もう、かといって臭いからそこ立ってないでよ。先に下に行って始めてて」

 そしてぽいっと階段に押し込まれた。慌てて制服の部下達も降りていく。


 それから叔父達へ挨拶のため歩み寄ったキスカが思いついたようにミーエを振り返った。

「あ、そうだわミーエさん、医療関係に人手はいるかしら?」

「あ、ええ・・・人手といいますか。怪我人の応急処置はできましたが、長期治療が必要な方が十数名いらっしゃいます。その費用と受け入れ先をどうするかですね。正直、王都に平民が入れる値段の医院はありませんから」

 これって無一文の私たちではどうにもならないな。


 見ていると、基本は能面顔のキスカが俯いたかと思ったらきゅるんとカワイイ上目遣いで叔父の顔を伺う。

「医療となるとジェムズ程度の人脈と資産じゃ無理じゃないかしら・・・ねえ叔父さま?」

 兄と従兄弟達はムッとした様子だったが、若い衆の嫉妬を受けて尚更叔父は誇らしげな顔をしてフフッと頷いた。

「うむ。私が資金を出している医院があるからそこで面倒を見よう」

「まあ本当ですか!助かります、叔父さま!ありがとうございます!」


「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

 私とルシア達もまとめて営業笑顔で礼をすると、キスカの叔父はまんざらでもない顔で頷いた。

 その後ろでキスカはムッとした顔の兄の耳に口を寄せ「解呪は今兄さまにしか頼めないの、急いでね」ともう一度頼んで機嫌を取った。

 表情は様々なまま、キスカの家族も出発した。


 ルシアもリーダーシップ凄いと思ってたけど、キスカの生徒会長ぶり&二面性小悪魔っぷりもすごいな。人材の宝庫だね。


 感心していると、キスカは私の方に向き直って問いかけた。

「ネズミ様、他に男手が必要なことありますか?」


「ちょっと待って」

 手帳を開いて、泥棒騒ぎの前考えていたことを思い出す。


 そうだ。グールの死体!


 さっき夢?の中では川底にグール死体の気配を感じなかったけど、所詮夢だしな。

「グールの死体が気になるんだ、片付けるなら人手いるし。

 今からサーチするね。お行儀悪いけど時間もったいないし、背中向けて話を続けますがご了承ください〜・・・」

 屋上の端に寄り、サーチ全開。大河の川底をサーチしつつ話を続けようとする。


 不意にざわめきが走った。


「どうしたのっ?!」

 サーチ範囲を広げるが特に殺気や何かは感じない。

 見ればルシアもサリユもレッドベリーも驚きに目を見開いて私を見ている。


「何?みんなどうしたの」

「あの・・・ネズミ様、その髪・・・」

 思えば急いで外壁を降りたときマントのフードが落ちたまま、今は黒髪が全開になっていた。

「ここでは珍しいかもしれないけど、私達の国は元々黒髪ばかりなんだよ。言ってなかったっけ?ほら、この彼も黒髪だし」

「ネズミ様が黒髪なのは存じ上げてましたわ。

 ただ、後頭部の髪が一筋白くなってますの・・・昨日はなかったと思うのですけれど・・・」


「えっ?」

 ルシアに怖々言われてぎょっとする。

 後ろ髪を前にかき寄せてみると、一筋光る白髪になっていた。


 ぴえええええ?!!


 一晩で白髪になっちゃったの〜?!

 心労!??

 こう見えてまだ20代女子なんですけど私!


 やだああああ!!


 内心冷や汗をかきつつも、皆の手前マインドクリアで平常心の顔を保つ。

「う、う〜ん。なんだろ、ストレスかな?」

 若白髪になった位笑って流したかったが、皆がやけに真剣な顔で見つめてくるので流せる雰囲気ではない。

「え、えーと(^ー^;」


 し、しーーーーーーん。

 変な空気だ。


 後ろ頭を両手でおさえて困惑していると、ズーが控えめに発言した。

「あ、あの、いいですか」

「うん。なに?」

「黒扉の上部組織は【黒の集団】【黒の使者】とか呼ばれてます。彼らは全員黒髪に白メッシュ、黒装束だそうです。オレは会った事ないですが、有名です。さっきも下で皆に黒の使者だって勘違いされてましたよ」


「うん、勘違いされてたよね。でも黒髪黒装束までは昨日サリユから聞いてたけど白メッシュは知らなかったよ」

「はいっ!うちの実家の本にも、黒髪が長くて白い筋が多い程、歴戦の黒の者って書いてあったよ!」

「私も詳しくは知りませんが・・・似た記述は読んだ事がありますわ」

 手を挙げたレッドベリー、ルシアも続いて後押し発言をする。


「・・・・・・」

 えー!なにそれ。

 内心ぞっとする。単に黒髪と服が似ている、というのとは違う。この世界に来てから足が速くなったり目がよくなったり、幾つもあった身体の変化。その変化が人外である【黒】方向に行っている・・・ということなら、怖い。

 もしかして・・・今他人から見た私のオーラ、真っ黒になってるとか・・・そういうこと、ないよね?

 つい自分の手足を見てしまうが、今は夢と違いオーラの色は見えない。


「・・・もしかして呪いとかじゃないかな?キスカ」

「失礼しますね。すんすん。くんくんくん。ーーー呪いのニオイはしません。むしろ昨夜の戦いの直後なのに、よくもうこんなに魔力が溜まってるんだなと尊敬しますね」


 美少女に一晩洗っていない頭を嗅がれて、一瞬乙女の羞恥心が疼いた。が、キスカが真面目な顔一辺倒なので助かる。でも確実に心のMPは削られた。

「あ〜。うん、そっか。ありがと。呪いじゃないなら、とりあえず一旦この件は様子を見るという事でどうかな」


 えーと、気を取り直して仕切り直して。

「では。先ほどの会議の続きを始める。」

 中断していた第一回拡大勇者会議の続きを始めることにした。

 屋上にいない隷属などには伝書鳩で短報を同時通信する。スカイプ会議的なイメージだ。


「先ほど発言してくれた、ズーを紹介します。

 第2期勇者候補だそうです。私と元の世界での母国が同じです。

 先ほど、黒扉の動物裏取引グループから保護しました」


 いきなり大勢の美女、少女たちの前で紹介されたズーはへどもどしながらお辞儀して挨拶した。

「あ、え、と、日本から来ましたズーです。よろしくお願いします」

 ルシア達がお辞儀を返す。


「先ほどの騒ぎは、キスカのご家族の移動用動物を奪いにきた黒扉でした。現在は鎮圧しています。

 黒扉1人死亡、3人捕縛。魔物・動物使いの隷属が4人。うち3人は黒扉グループチーフの死亡により解放され保護、うち1人重傷。

 そして残り1人がこちらのズーですが、ズーはまだ黒扉か神殿の誰かの隷属のままです。もし彼が何か不審な行動をしているときは隷属条件により本意でなく動いている状態かもしれません。危険なのですぐ私に連絡して下さい」

 ズーは真横にいる私にこんな風に言われ、下を向いて恐縮しだしたので、軽く肘で突っついてフォローのため笑いかけておいた。

「というわけなのでズーはできれば私の側にいてください」

「・・・はい」


 それから敵味方不明の弓矢を使う相手への注意を促し、ステルス射手の遺体、弓矢などが片付けられていたことを報告する。


「では人手の話に戻します。

 ロッカ、篝火には人手いるかな?」

「そうですね・・・応急処置は午前中で終わってます。むしろ補修は職人にしか出来ないですから、その人手は足りてます。それより、またあのレベルのグールが来ちゃったら危ないので、橋沿いを見張りしてもらえると安心して仕事できます」

「なるほどそうだね。国の正規軍とかには頼めないのかな?」

「どうでしょう・・・私たち一般市民から頼むというのはやったことがないですね。勇者の権限があるネズミ様がお願いしたら違うのかもしれませんが、わかりません・・・」


 むー、またお上独特の例の頼んで頼みっぱなし系のやつか。本来国がやるべきって気がするが、まあ今日の所は無い物ねだりしてもしかたない。後日パーティとかで頼んでみよう。

「おーけーわかった。キスカ、手配お願いできる?一応後日分は神殿と王宮にも陳情かけてみるけど、臨時分だけでも」

「了解です」


「えーと、他の議題はどうかな」

 ルシアが手を挙げる。

「王都内に実家のある者ですが、ロッカさん、キスカさん、ミーエさんの3人です。共にご家族と再会できていますわ。

 王都南、つまり下流側郊外にご実家があるのが、マナさん、アザラさん、ターニャさんの3人。ロージィさんのご実家はさらに南隣の町にあるそうですわ。

 メルメさんのご実家の山向こうの村は、北側に位置しますわ。

 後ほどキスカさん、ジェムズさんにご協力頂いて片道だけでも遠距離連絡できないか試してみますわ」

「とりまとめありがとう。その件はルシアに任せていいかな?」

「はい。わかりましたわ」


「えーと他にはいかがですか・・・」

 言いながら、グールの死体のサーチをさっきのどさくさで忘れていたことを思い出した。やばい、時間の無駄した。


 聞き耳をたてサーチアイを再稼働する。

 ついでに大河の向こう岸を見ると、ジェムズ達がちゃんと瓦礫撤去作業しているのが見えた。偉い。

「あれ?」

 その、すぐ裏。先ほどからうろついていた神官達が、廃屋の反対側から担架のようなものを運び出したのが見えた。

 ・・・あれってもしかして、遺体を運び出そうとしている?

 

 亡くなった方のご遺体はご遺族の元にかえしたい。そのための被害者名簿だ。このまま神殿に渡したら遺体はご遺族に戻るのだろうか、・・・否。


「見て!神官達が!」

 文脈を無視して、とっさに口に出す。

「ご遺体って持ってかれたらご遺族に戻らないかもしれないよね?どうしよ?」

 この場合の交渉はどうやる?・・・うう、とりあえず道を塞ぐのが先か?


 初動を迷ったその時を同じくして、

「貴様!返せッ!!」

 キスカのお兄さんの怒鳴り声が聞こえた。

 建物の反対側の地上で急にドタバタ激しい音がする。

「にゃんだこのドロボー!寝た振りすんにゃ!」

 グリコの甲高い叫び。一瞬遅れて、


 バフッ!!!・・・ドサアッ!!!


「グリコッ?!!」


 大きい物が倒れる音とバンビの怒声がした。


 心臓が掴まれる。

(まさか最凶生物グリコちゃんが?!)

 彼女達の強さを信じすぎて、子どもメインのメンバーを目の届かない所に置いてきてしまった判断ミスにぞっとする。


 慌ててサーチ意識を向けると、黒扉の1人とキスカ兄がもみ合っている。すぐ側には、なんと無敵のはずのバーサーカー兎が地面に横たわっていた。

 瞬間、クマムシの綱を切ったときと同じ気配を感じた。二重にぞっとする。


「ポップンクラスター!!!」


 バンビの怒りに満ちた声。


 ボボボボン!ボボボン!ボボボボン!!!!


 正にクラスター爆弾。広範囲に広がる爆弾を一気に放出した。

 視界一面が爆煙で埋まる。

 

 しかし当たった手応えがない。


「ラディカルドライブ!」


 バンビは自ら爆速で爆煙の真ん中へ飛び出していった。


「行って下さい!神官達は私たちが足止めしますわ!」

「お願い!」

 ルシアの言葉を背に、私もバンビを追って飛び降りた。


 心臓が痛い。判断ミスだ・・・毎回ほんとにすまない。トリアージ的には死人と大人は後回しだ。


 生きてる子どもを守らなきゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ