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突然ですが、第一回拡大勇者会議です。

 ミーエが皆を呼ぶと、笑顔の隷属メンバーが集まってきた。

 とりあえず大きな怪我はないようだ。よかった。


 途端、知りたいこと、やらなきゃいけないことがガーッと大量に押し寄せてくる。


 ステルス射手達の目的は何か?生き残りは?

 ラーキ達、操られてた神官は今は大丈夫か?黒幕は射手とは別?またすぐ動く?

 女性を縛って放置した悪人勇者候補。被害者面してその辺にいるかもしんない。現場の遺留品まだあるかな・・・。他にも悪人よりの勇者候補がいるかもしれないし、こりゃ今後ずっとつきまとう課題だな。


 宿舎は復旧可能なのか否か?今夜の宿は他を探す?宿舎放棄するなら遺留品と使える品物だけでも夜になる前に取りに行かないと。

 王都を離脱するなら、王都内に実家のある子だけでも今日中に送り届けないと。

 それ以外の隷属の子と眷属メルメの家に連絡できないか試そう。

 今日中に召喚魔法を習うとか無理そうだし、代わりにお金でやってくれるところないかな。


 亡くなった方の弔いもしないと。被害者名簿・・・名前って概念が難しいこの世界じゃ難しいな。遺影を念写して顔写真並べるとかしかないか。それでもご遺族が気づいてくれればご遺体を引き取りにきてくれるかもしれない。下手に神殿に渡して遺体を魔力ポーション扱いでもされたらたまらない。回収を急がなきゃ。

 あ、グールの死体もあのままじゃまずいよね。どうやって片付ける?あの死体にまたグールが寄って来たらたまらない。

 というかさっきの夢?ではノスフェのようなあの人のような人がグール残骸の辺りから上がって来たように思えたけど。。。


 懸案事項のあまりの多さに、治っていた頭痛がすぐに戻ってきた。

 イメージ的にはトップ級一面記事、雑観・サイド数種、ズーム・豆知識まで全部1人で担当してって言われてる感じだ。この午後だけでどうしろっていうの。

 順を追って考えないとよくわからない・・・またリスト化するかと手帳を出したが。


(ああもう悪い癖だ!)


 ぐしゃぐしゃ髪をかき混ぜる。


 ゆっくりしてないで仕事もトリアージしなきゃ!

 起きた瞬間は現実社会の感覚に戻ってたせいか新聞が一番気になったが、ここは平和な日本じゃない。

 新聞は死んでしまった後の情報開示と類似事件への注意促しの意味だから、多少遅れても新たに人は死なない。でも今は私の行動にこの子達の命が守れるかどうかがかかってるんだから!

 命を守るのがとにかく優先!


 バシッと顔を叩く。

「よし!起きた!今後の短期計画立てよう!身内だけで話したいんだけど、ルシアは?」

「ネズミ様!すぐ動かれるんですかっ?安静にしないと」

「ミーエほんとごめん、スピード命なんだ」

「ネズミ様・・・」


 困惑顔のミーエの後ろから、ぬっと顔を出してラスタが言う。

「ルシアどのは屋上だ」

「そっか。屋上って皆で上がれる?」

「行ける。伝書鳩してから行け」

「わかった。私たちだけで上に上がろう。ここで騒ぐと他の怪我人に迷惑だし。行こ?」

 足におそるおそる力を入れると、意外と普通に立ち上がれた。


=======

ルシア!起きたよ、ありがとう。

今から短期計画を立てる会議を始める!

上に皆で行くよ。

=======


 ミーエは一瞬躊躇したが、男性に「行ってきていいよ、皆小康状態だし大丈夫」と言われて着いてきた。もう普通に歩ける私を見て驚き顔だ。

 戦いに加わっていた中では唯一もう起きていたバンビも寄ってきて、同席していいかと聞くのでもちろんと答える。今は小さくなって寝ているグリコを背負って着いてきた。

 この子も眷属だから構わない。むしろ歓迎だ。


 昨夜の戦場が見渡せる屋上にメンバーで集まる。ルシアの回りに円上に座った。

 照りつける太陽は一つだ。快晴だった。


 まず、立ち上がってお辞儀をした。

「皆さん、全員力をあわせてくれたから被害が抑えられました。勇者候補を代表してお礼を言います。どうもありがとうございました!」

 バンビは周囲の反応を見て目玉をくりっとさせ、隣の私に合わせてお辞儀した。

「オレからも。飯の世話と妹の手当ありがとーございました」


「そんなことは気になさらないでくださいませ!

 元はと言えば私たちの国の者があなた方異世界の方々を呼び寄せた事から始まっているのですもの。こちらこそ申し訳ないですわ」

 隷属メンバーは恐縮するような笑顔を浮かべお辞儀を返した。女の子たちの中で1人眷属のメルメもちょっと状況が分かっていないような感じでおろっとしたが、周りに続いてお辞儀した。


 総員お辞儀+土下座気味座りお辞儀+1人爆睡、という謎の空間が出来た。


「皆さん顔を上げてください」

 雰囲気を仕切り直すために、会議の議長的テイストの身振りで話を再開する。うん、ノってきた。

「でも、私といたせいで争いに巻き込んでごめんなさい。篝火で守られた町の外に連れて行ったせいで命を懸けさせてしまいました。

 ということで、今夜からどうしようか考えています。射手がどこの手の者かにも関係するけど、皆の身の振り方をゼロに戻って考えたいと思います。例えば私より強くて信頼できる隷属上書きしてくれる相手を探すとか。

 心当たり無いかな?」


 隷属女の子達の間にざわっと衝撃が走る。

 それを手で制して続ける。


 一人一人の顔と順に目を合わせながら、熱い身振り手振りで演説をはじめた。 

「隷属のままでいてもらうにしても、リスクを考えたら無所属のまま野宿はあり得ない。長いものに巻かれるフリして神殿か王宮に身を寄せとくとか、今晩どこに泊まるかは今後の身の振り方を決める大きな要素だから、皆で相談して決めたいの!

 昨夜は何も分からないまま宿舎に連れて行ってしまったけど、早々に戦いがあったことで早期に問題点が浮き彫りになったとも言える。

 ピンチはチャンスの精神で、議論しよう!」


 ステルス射手。

 操られてた神官。

 悪人勇者候補。

 宿舎は復旧可能か否か?

 王都を離脱するほうが良いか?

 王都内に実家のある子は誰か。

 皆の家に連絡する方法。

 死亡者の弔い。神殿に先んじなくてはいけないこと。

 グールの死体の始末方法。

 夢でのお告げ(?)。

 懸案事項を手短に説明してまとめる。


「私が気づいてない事もあると思う。情報共有のために、皆さん大きな事から小さな事まで、忌憚無い意見をどうぞ!」

 ビシッと両手を広げて意見を求めた。


「はい」

 ノリをくんでくれたバンビがすぐに手を挙げた。

「はい、バンビくん」

「火矢のことだが速報では一発で焼け死ぬと聞いたがオレの周りでは倒れても死なないかわりに魔法の炎が収まってもしびれて動けないのが多かった。あの火矢はもしかすると生け捕り用なのではないか」


「はいっ!」 

 レッドベリーがバンビの真似をして手を挙げる。

「はい、レッドベリーどうぞ」

「ステルスのため射手の服装はよくわかりませんでしたが、金の正規軍が使う魔法付加矢を使ってました。金の軍の魔法部隊か、軍そのものでないにしても魔法付加武器を入手できるほど王宮と繋がりのある襲撃者だったはずです」

 レッドベリーの横のラスタ・グリーンが無言で手を挙げ、続ける。

「戦場で使用済みの武器を拾って傭兵や王都外に売る黒扉もいる。が、今回の矢を確かめたが錆びや欠けがなかった。間違いなく正規品だ」


 複雑な顔をしたルシアが手を挙げた。

 貴族然とした彼女のそれには何だか違和感がある。この流れ作ったの私だけど、全員挙手させるのもなんか悪いな。

「ルシアどうぞ」

「金の軍は古来肉体強化派が多く魔力において他国に劣りましたので、敵の魔力を自軍に転用するための付加魔法付き武具の開発に数十年前から重きを置いておりました。少なくとも十数年前には実用段階に進んだという文献を読んだ事がありますわ。今回の火矢もそのうち一種かもしれません。多分、一定程度弱っていたり最初から魔力が低い方は焼き尽くし、魔力の高い方は生け捕りにするというものでしょう」

「生け捕りにして隷属とか魔力ポーションにするってこと?」

「そう・・・ですね。男性の場合はそうでしょう」

 レッドベリーとサリユが動揺したが、すぐに平静を装ったのが分かった。サーチアイ、デリカシーないな。けどとりあえず今はおいておく。


 ともあれなるほど、宿舎を飛び出して射られた人たちの中にも、即死の人と生きているが身動きできない人がいた。バンビの周りには生け捕りボーダーラインを越えた魔力の持ち主が多かっただろうことを考えれば理屈は通る。


 更に複雑な顔をしたルシアが絞り出すように続ける。

「私は主に書物での知識頼りでしたので実物を見ても分かりかねましたが、お二人がそう言われるならあれは金の国の兵で間違いないでしょう。神殿と王宮は元々狐と狸の化かし合い状態でしたが、大戦後は生き残りをかけて水面下で熾烈な人材と魔力の争奪戦を繰り広げておりましたから」


 死んでも後ろめたさのない戦力として勇者候補を呼び出した神殿。それをすぐに横取りしようとした王宮ってとこか。

 人類の危機だからこそ手を結んで戦おう、とはならないんだね。

 その他人の身勝手で不条理に殺された人たち。

 やっぱ理想と現実は違うな。一瞬遠くを見てしまう。

 あ、そういえば。


「えーと。今更だけど、皆の話の流れからいくと、今いるこの国が金の国、ってことで合ってる?」

 ビール腹大神官は【一番広い国】としか言わず、決して国の名前を明言しなかった。金色こんじきの〜とかは何度か台詞に出てきたけど。


 バンビ以外の皆が頷いた。

「はい。ここは金の国ですわ。

 今は魔物との大戦に全人類が脅かされていますが、魔物がここまでの勢力をもたなかった頃、十数年前には人の国同士の戦国時代がありました。

 今公に残る国はこの金の国と、どこにあるのか・・・この大陸にあるのかさえ分かっていない中立国、緑の国だけだと思いますわ。その他の人間の国家は戦の中で金に吸収されました。自治県レベルのものは王都から遠い地域に残っているとは思いますが。

 あと残るのは、国というよりは精霊をよりどころとした宗教団体というような立ち位置である光の神殿や、黒扉の後ろ盾とも言える黒の集団といった、国を越えた超法規的存在のみですが、実体はよくわかっていませんの。光と闇に属する方々はいわゆる人間を超えた存在であるという理解の仕方が一般的ですので」

「そうなんだー・・・。何か色々知らなくて、ごめん」


「いいえ。ところでネズミ様、何人程度の部隊でしたかわかりますか?」

「えと、見えなかったから矢の軌跡からの推測だけど、多分100人程度かな?

 黒幕は誰かとか尋ねたら自殺したり仲間に撃ち殺されたりしてたから、操られてるか、相当厳しく訓練されてるって感じだったよ」

 私が返事をすると、退避組だった茶髪のメンバーは息をのむ。

 この世界でも普通の国民にとってはあの行動はやっぱり変なんだよね、とちょっと安心した。国民総自殺覚悟だったら怖すぎるもん。まぁ、リーケみたいなボケボケのもいるんだから人それぞれだよね。


「でしたら、おそらく王宮近衛の一部か、上位王子の個人兵ですわ。彼らなら直属の王族に絶対服従です。大戦の最中私は黒扉に捕らえられたので今どの王子が生き残って上位にいるのかまでは分かりませんが、上位の王子ならば多くの個人兵を抱えていました。

 傭兵や国軍の一般兵なら自殺するまでの統率は取れていませんし、どの程度の戦力か不透明な勇者候補を手に入れるために100匹もの操虫を消費するのは損得勘定的に考えづらいですから」


「確かエンヴィーを操ろうとしてたのも、金の王宮に伝わる操虫あやつりむしだってルシア言ってたよね」

「はい。ですが、神殿に操虫入りの内偵を忍ばせエンヴィー様を操ろうとした王族と、今回兵を動かした王族は別系統だと思います。

 王立図書館の秘蔵書によれば、操虫傀儡術は秘術で、秀でた者は歴代王のうち数名のみということです。歴史的遺物の1つである操虫という物自体、王族でも知る人は稀です。私も実物は初めて見ました。

 そして、兵と直接繋がりが強いのは軍事力を司る上位王子の一部だけです。

 一度に両方手を下す事ができるのは少なくとも王だけでしょうし、王その人が動くにしては流石に拙速かと思いますわ」

「そっか・・・。王族内も足並み揃ってる訳でもないんだね。

 にしてもさすがルシア、王宮にも詳しいね」


 ルシアはちらりとバンビとメルメに視線をやり、サイレント結界の範囲をきゅっと狭めた。


「ええ。私は権利と名を剥奪され死んだ事になっておりますが、『生前』は王家に連なる者でしたから」


 結界内に入っていた数人はドキっとして、だが平静を装った。結界外に出された数人も私たちの様子を見てちょっと困惑顔をしたが、でしゃばらずに黙って見張り体勢に入ってくれた。


「金の王家は側室の子を含めれば戦前では100名を下らない大所帯でした。

 私は王位継承権最下位の存在でしたので、王宮内に席を求めず歴史記録者を目指し王立図書館の司書をしておりました。そのため公には顔もあまり知られておりません。ですが多少は顔見知りもおりますので、今後も神殿や王宮関係者と接触するときは顔を隠すか、距離を取らせて頂きますわ。

 といいますのも、王族内の争いで殺されるところを幼なじみと乳母の手引きで身代わりの死体を残して生き延び、王都外へ逃げのびたところで黒扉に囚われたというまぬけな経緯がございますので、王宮に戻る訳にはまいりませんの」


 結界内は完全にしーんとする。結界外へ音を漏らさないタイプの結界なので、さわさわと外の風の音はする。


「ルシア・・・」

 結構気軽に打った相づちの返事がこれで、びっくりした。

「え、と、どうしよう。ルシア、様。ほんとはこの国のお姫様ってことだよね。ごめ、も、申し訳ありません!お姫様相手に色々申し付けましてご無礼を!お許しくださいっ!」

 ほんのりテンパって頭を下げると、ルシア本人からはっしと手を握られてしまった。

「ネズミ様。今は私は一市民です。それどころか死人ですの。どうかネズミ様の隷属として扱ってくださいませ」

 死人と名のるルシアの掌の体温にどきりとする。可憐で美しい顔の、上気した頬、ピンクがかった金色の潤んだ瞳。命を狙われたお姫様。今彼女が温かく、息をしていることが2重に奇跡なんだと思った。手を握り返す。


「わ・・・わかった。生きているってばれたら追われる立場ってことだよね。普通に接するよ。その代わり、全員他言無用でね。・・・それでいいんだよね?」

「はい。皆様もよろしくお願いいたしますわ。ご面倒をおかけしますが、あなた方には事実を理解して頂いておいた方がいいと思いましたので」

「エンヴィーには伝えていい?バルドルはやめとくから」

「分かりましたわ」



「おいグリコが起きたッ!何か来るッ!!」


 と、そこでサイレント結界の外からバンビが叫んだ。


 かわいい女の子姿で寝ていたグリコがいきなりガバッと起き上がって目を見開いたと思うと、その瞬間バサァッ!!!とバーサーカー兎に変身して臨戦態勢で階段に向かって唸った。

「グルルルル・・・ッくちゃい!」


 時を同じくして、四方を見張っていたメンバーが口々に叫んだ。

「何か制服の変な団体が来ています!」

「あの変な匂いがするよっ!」

 ノンが鼻をつまむのと同時に、真横にいたラスタもウッとうめいて鼻と口を覆った。

 確かに何か・・・すえた焼豚っぽい匂いがする。


「招かれざる客とはこのことね・・・でも、今はいい事思いついたわ」

 美しい小鳥が舞い降り、1人落ち着いた顔をしているキスカの肩にとまった。

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