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始まりの路地

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ひとの肉はまずい。


だがひとの苦悩は何より甘美だ。

そのほの暗い魔力は舌に甘い。


ひとの愛情の味はまだ、知らない。

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 夜の路地は危ないーーー異国でも、異世界でも。


 白い石で作られた伝統的な町並み。

 帰り道、露店で賑わう明るい表通りから、暗い路地が見えた。


 女性は無事に家に帰りたいなら、美しい黒髪や顔をヴェールやスカーフで隠してしか、通りを歩けない。

 日頃は男勝りな私も、不本意ながらトラブルに巻き込まれるよりはましだと思い、その国では借りたスカーフを頭に巻いていた。


 夕暮れが夜の闇になり、まばらな人々が足早に帰宅を急ぐ時刻。

 路地には灯りはなく、明らかに一般人は入っちゃいけない雰囲気を醸し出していた。


「1人で路地に入っちゃダメだよ。

 闇の世界と通じているから生きて出られない、とオレも子供の頃脅されたもんさ」

 先ほど、友人に言われた言葉。

 頭では分かっていたーーー。





 大学2年の夏休み。

 仲良くしていた留学生たちの誘いに乗り、比較文化学の研究課題模索と環境緑化プロジェクトのボランティアを兼ねて、彼らの里帰りにくっついていき、アジアと中東、アフリカの数ヵ国を回っていた。

 日本でのおせっかいへのお返しだと、みんなよくしてくれた。

 毎日充実していた。


 何故か物心ついたときから地球の色んな国の気候、生物環境に興味がある、というだけの考え無しで非力な女子大生だった私。

 そんな私が、ジャーナリストを志望し実用的な護身術を習い始めるきっかけになった、事件だった。


 1人で路地に入っちゃいけないのは知っていた。


 でも、幼子を抱えた男がしゃがみ込んで「息子が怪我した、助けてくれ」と叫んでいるのが目に入ってしまった。

 疑って見ても男の顔に嘘はないように思えた。


 しかし自分が行くより警察を呼んだ方がいい。

 周りを見渡すが、警察官らしい人は見当たらなかった。

 急に人足が途絶え、先ほどまで側で露店を見ていたはずの友人の姿さえ見えなくなった。


 無精髭で顔は真っ黒、布を巻き付けただけのような服を着た、明らかに医療費などなさそうな男。 

 むずがる子供の声だけが響く。


 泣き声を聴いているのが耐えられなくなった私は、いくらかお金を渡すだけ渡してすぐ去ろうと思って、警戒しながら近づいた。

 と、数歩路地に入った途端。闇が深くなる。

 後ろから口を押さえられ、道の影からもう一人の男があらわれ私を押さえつけて何か乗り物にのせようとした。

 子供を抱いた男もすくっと立ち上がって一緒に乗り込んでくる。子供はもっと泣き叫ぶ。


「・・・!!!」


 人さらいだ!


 私・・・売られるか犯されるか殺されるか、全部かだ!


 身を守るすべがなかった私は、恐怖に真っ白になって抵抗もできなかった。

 バカ!私のバカ・・・!

 押さえつけられながら、ただただ自分の判断ミスに怒りが湧いてくる。


 そのとき。

「ぎゃっ!」

 バチンッと強い静電気で弾かれたように男の手が離れ、突然体が自由になった。

 乗り物から首を出してみると男たちが撥ね飛ばされていた。

 ぐいっと腕を引かれて見ると、長い白髪の女性が私と子供の手を引いて明るい大通りに向けて走り出すところだった。


 立ち直った男達が細い棒を振りかざしてなにか叫ぶ。

 今度は女性が何かに撥ね飛ばされるように倒れた。

 とっさに駆け寄るが、外傷はないが弱っている様子だ。

 もともと病気かなにかであるらしく、呼吸が弱々しかった。それでも腕の中の子供は離さない。


「大丈夫ですか!」

 何もできない。

 私のせいで、ごめんなさい!

 嘆きながら、とにかく逃げようと今度は私が彼女を助け起こす。

 白髪だから老婆だという先入観があったが、乱れたヴェールからのぞいた顔は若かった。


 その間にも、男達が知らない言語で怒鳴りながら何か攻撃してくる。

 女性が子供ごと私をかばうように抱き締めた。

「だめっ!逃げなきゃ!」

 走り出そうと身動きすると、右耳に柔らかいものが触れた。


 ”この子を、助けて。”


 現地語ではない。囁かれた言葉は何の言語かも分からなかった。

 けれど、意味はわからないのにそう言われたと感じた。

「え?何・・・っ!!!」

 次の瞬間、強く弾かれたように私は明るい大通りに飛び出し、その勢いのまま通りの向こう側に広がる大河、神の川に落ちた。

異世界トリップを初めて書いてみます。


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