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第一章 7

それから三十分ほど掛けて、カウンセリングみたいに根掘り葉掘りじっくりと、僕への事情聴取が行われた。

「部分的な記憶喪失、ですね」

 生い立ちから家族構成、僕の記憶がどこまで保たれているのかじっくりと検証される。

 普通の公立小学校からUNUMSの中等部に入学。そのままエスカレーター式に高等部へ。そして、高等部の二年生に。僕の昨夜(?)までの記憶に問題は無かった。

「残った記憶は十七歳、UNUMSの二年時まで。まだディドと逢う前の記憶で止まっている………」

 問題があるのはその先だった。記憶が無いことが分かった時点で、話の流れは過去の出来事の説明に変わり、十八歳から二四歳まで、僕の知らない、僕の記録を聞かされる。

件のディド・バルカとの出会いは高等部三年生の時。

UNUMSに教師として赴任してきたディドが、弟ハスドルバルのところに遊びに来たときに紹介されたとのことだが………

「あれはまさに電撃的だった………」

 当時を思い出し、ハスドルバルが笑う。

「僕の(ディド)を初めて見た時のコウちゃんの反応といったら………うっふっふ」

 ハスドルバルの含み笑い。う………この笑顔は………嫌な予感。

「目を見た瞬間に固まって、耳まで真っ赤になって、酸素不足の金魚みたいに口をパクパクしちゃってさぁ――――いやいや、人が一目惚れする貴重な瞬間というものを間近で見ることができたよー」

「あらあらそれは初々しいですねー」

「初恋ってすごいねー、一目ぼれって可愛いねー、それを端から見ているのはホントに楽しかったねー」

「ほほう、それはそれはからかい甲斐があるってもんですねー♪」

「………………………っあうあう」

「用もないのに職員室にいってー♪

だけど姉さんに話しかけられずに遠くから見てるだけー♪

 まごつく間に他の先生から雑用押し付けられる毎日―♪」

「あらあらまあまあー♪」

「は………はっど?………あうあう」

ハッドが歌うように赤裸々に僕の恥を暴露し、メガネを輝かせて他人の恋話(こいばな)を聞入るメイドのネルさん。

ゴルヘグさんは相変わらずの無表情。

エリーシャは………あ、目蓋を落としてソッポ向いてる。

(ナンデスカ、コノ桃色空気ハ………?)

 自分の記憶に無いのに、自分の恋話がこんなに恥ずかしいとは!

 いやまあ確かにディドさんは綺麗だし、夢の中で一目見ただけなのに心に焼き付いて離れやしないし、有り体にいって完璧に僕の好みのど真ん中ではあるんだけど………実際会った事もない人だからなんとも言えない。

 悩んでいる間に悪友っぷりを存分に発揮するハスドルバルの言葉は更に続き、

「んで、バレンタインにねー、なんとコウちゃんが手作りの………」

「――――お爺様」

 冷たい、冷たーい瞳と声で、エリーシャが遮られた。

「その記憶は私にとっても大事なものです。たとえお爺様であっても………笑われるのは許せない」

 思わず背筋がゾクゾクするほどに、冷たい瞳で、エリーシャはハスドルバルを止める。

「それよりも、コウキ君へ説明を始めましょう。コウキ君に、現状認識してもらう為に」

 叱られたハスドルバルはややバツが悪そうに苦笑し………最後に、しみじみとハスドルバルが呟く。

「楽しい日々だったねえ…あの頃はさ」

 しかし、楽しい日々は長くは続かなかった。

「――――絶滅戦争」

 そう、全ての終焉(おわり)はこの戦いから始まった。



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