第三章 3
「あ………れ………?」
気がつくと、見慣れた所にいた。
空は青く、大地には草花芽吹き、風が吹けば木立に葉がざわめく。
赤煉瓦の屋根、白亜の校舎が立ち並ぶ学園都市、国連大学付属魔法学校(UNUMS)の、母校の、総合武道訓練場………通称『バトルクリーク』。
見間違う事など無い見慣れた景色。でも、
「………ゆめ………?」
感じる気配、空気の密度が違う。
………人の気配は無い、孤独な夢。
この風景から受け取る印象は、寂寥と寂寞。
昨日まで、ほんの数十時間前まで当然の様に通学し、勉強し、運動し、遊び、生活していた環境が、今は、遠い、遠い夢物語のようで………これが夢だと理解できてしまう、悲しい明晰夢。
――――金属の空と生命維持装置なくば死ぬまで四秒の月でなく、優しい空気に包まれた、地球の光景。
当然のように過ごしていた世界が、今では、とても、とても………遠い。
「夢のまた夢………美しく、そして儚い言葉だと思いませんか、コウキ君」
「エリーシャ………て、わわ!?」
振り向いて、
「えりぃ………しゃ?」
………再び、言葉を失った。
瞳に映るは、森羅万象を統べる『神仙女王』の風格と気品。
「やっぱり、コウキ君は年上の女性の方が反応が大きいですね」
大人の余裕を持った微笑浮かべて、子犬か何かになったように撫でられる僕の頭。
日本人の平均より高い身長がハイヒールによって更に高くなっていて、平均身長を下回る僕の目線に、ちょうど彼女の胸がある。
目の前には、服を盛り上げて我が儘な自己主張をしている大きな胸。
「でぃ………ど?」
「ふふ、コウキ君と始めて会った時の格好をしてみました」
それはこの世の者とは思えない、美しい女教師だった。
それは盛大に咲いた大輪の華。蕾ですら一つの芸術だったものが、花開いて一つの神秘にまで昇華していた。
そして…色々控えめだった『ちんまい』エリーシャが、色々ワガママな『おっきな』ディドに変わっていた。ああ、アダルティー。
「どうなさいましたコウキ君?耳まで真っ赤になっちゃって、金魚さんのようにお口をパクパクして」
息を呑む。息が荒くならないように。
心臓は爆発しそうなほど、血管は破裂しそうなほど………ものすごく『甘えたくなる御姉さまの魅力』に耐えて、ようやく声を絞り出した。
「う、あ、え、お、う…あうあう、す、すいません」
「ふふ、コウキ君ったら………本当に初対面の時と同じ反応をしましたね」
口に手を当てて上品に微笑むエリーシャ(ディド)。
「此処は夢の中ですから、少々自分の姿を変える事もできるのですよ。それで、折角ですからディドのスタイルになってみました」