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第二章33

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 暗い暗い闇の底の底。

 絶滅回避研究所は、元通り。

 闘争に巻き込まれて怪我した鳥達も、水心子正秀の能力で治癒されて、元通り。


「エリーシャ……僕………強く、なりたい」

 先に言葉を漏らしたのは僕の方。


 だけど戻らないものも幾つかあって。

 戻らないものは、掛替えの無いもので。

冷たくなった幾つかの骸が、切々と物言わず訴える。

 

「強く………なりたいよ………」

 覚悟を決めた。決心は付いた。

 僕がやらないといけないということが、心の奥底まで深く刻み込まれた。


 手には水心子正秀の重み。

 それは新たに死した生き物の重み。

 二度と戻らない命に、遺された雛は乞い願う、謳いながら。


「コウキ君は………十分強いです」

 エリーシャが血塗れになった僕をハンカチで拭く。

「コウキ君は、凄く強い『心』の持ち主」

 血を拭われる度に身が清められる想い。

「でも、心なんて強くても――――」

 ――――あれほどの技量の差、敵わない実力差は覆せない――――という言葉を続ける前に、

「どうして『心技体』という言葉がこの順番なのか分かりますか?」

 エリーシャの矢継ぎ早の言葉に断ち切られた。

「心の強さが、他の何よりも重要だから。

間違っても体の強さではなく、決して技量の優劣が重要ではないから」

 黄金色のエリーシャの髪が、僕の胸元で眩しく輝く。

「心が、心の強さがなければ、技も身体もどれほど優れていても仕方がありません」

 少し背伸びして僕の首筋、頬の血を拭うエリーシャ。血臭は薄れて、エリーシャの甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「心が強ければ、どんな困難にも立ち向かう心が強ければ………『技』や『体』の優劣なんて瑣末なことです」

 胸元に引き寄せた手を両手で包んで微笑むエリーシャは、まるで天使のように……

「盗まれた『技』の分も奪われた『刀』も全て取り戻せるように、私が鍛えてあげます」

 ………訂正、補修を受けることになった生徒を励ます教師のように見えた。

 だからごく自然と、当然のようにこんな言葉が口から飛び出した。

「うん、お願いしますエリーシャ先生」

 『先生』という言葉がどういう効果をもたらしたのか、

「――はい。必ず私がコウキ君を強くしてみせます」

 エリーシャはまるで結婚式の花嫁のように、笑って見せた。

 エリーシャは一度大きく頷いて口を開き、

「コウキ君」

 しかし目線を切って下を向き、胸の前で手を合わせ、迷いの表情をみせる。

「………エリーシャ?」

「私と………その………あの………」

 小さな声でぼそぼそと呟いた後、

「…あ…………あのー………えっと………」

 真っ赤になって、息を吸って、思い切って、一言。

「ね、ね、ね、ね、寝て(・・)!」


「☄!♨※ !?ふぇえ?! ※♨!☄」


「くれま・す、か………?」

 尻すぼみに小さくなるエリーシャの声と、林檎よりも真っ赤になった頬が鮮烈に目に焼きついた。

 暗い暗い闇の底の底。

 絶滅回避研究所は、元通り。

 死んだモノは鳴かないけれど、生き残ったモノは鳴いていた。

  ――――精一杯、歌ってた。


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