第二章31
僕は右手を力強く振りかざして、叫ぶ。
「兼定!」
隼が、一羽の隼が、僕の呼びかけに応じて
「なん、だと!?」
目を見張る『剣聖』の前をヒュルリと翻って、僕の細い腕を宿木に選んだ。そう、僕を散々苦しめた和泉守兼定の所有権が………僕の元に戻っている。
「君は、僕の『技』だけを盗んで僕の記憶は引き継いでなかったんだよね。だから、知らなくても仕方ないか」
呆気に取られる『剣聖』。
「この水心子正秀はお父さんの愛刀でね。僕はこの刀の特性・能力を熟知しているんだ」
息を呑むエリーシャ。
「『復古』………それが水心子正秀の固有能力。
この刀に斬られたものは在るべき姿に戻る。だから、君に奪われた僕の兼定は」
ぽややーんと微笑むリプシマ(ディド)。
「水心子正秀が切った兼定は、僕の所に戻ってくる。それが、道理」
「………そんな、反則」
「それとさ、君の刃を破壊して刃に込められていた魔力を有効活用させてもらったよ」
僕が言葉を放つと同時に、瓦礫の山と化していた絶滅回避螺旋階段が、
「破壊したのは六百本弱。それだけの魔力があれば、まあ、思い出を残すぐらいには」
音もたてず、静かに、
「そして、ささやかな小鳥の御宿を復元するくらいにはなったかな」
水が大地に滲みこむように、当然の様に速やかに、
「闘争で荒らすには、ここは悲しすぎる」
アカリが作り、
ヒカリさんが守った、
鳥類絶滅回避研究所は、
僕の手の力で元の姿に戻った。
「僕は剣聖にまるで敵わない。
だけど、アンヴァリッドの再生能力と、極限までの加速能力があれば、それなりに太刀打ちできる」
痛みに耐えながら、
「そして打ち合えば打ち合うほど君の獲物は減少して君の戦闘力は低下していく…水心子正秀の『復古』能力で削られて、破壊された思い出を戻すための魔力として消費される」
のたうち廻りたくなるほどの痛みに耐えながら、
「それでも、まだ続けるかい?
僕を『鏖し』きれない、中途半端な『剣聖』君」
『剣聖』の瞳を見据えて、大見得を張る。
「なんなら――君の全てが骨抜きになるまでチャンバラにつきあってもいいけれど?」