第二章28
シュン、と音がしたのは『剣聖』の刃が薄皮一枚切り裂く直前、
「ヤアアアアアアアア!!」
白銀の槍が僕の脇を掠めて、『剣聖』の刀を防ぐ。目の前で激しく散らす火花。息を呑んだその瞬間には、
フツ………ブシャア
「キャウ!?」
左手首を深く斬られていた。動脈断たれて血が迸る。痛みよりも、噴き出す血の量に生理的に気が遠くなりかけた。
『剣聖』はエリーシャの槍を受け流して、更に飛翔、空中で縦旋回。
「――――花天」
三連剣激の終わりは輪を掛けて過激で華麗に。『剣聖』と刃雨は一体となって僕を生体解剖しようと勇んでやってくる。
(処理が………追いつかない)
力の抜けた左手から抜け落ちる七星剣。
(追いつかないなら………更に速く!)
水心子正秀を両手で握る。
体内で魔力図式を高度精密化、六十四倍速化開始!世界が目に見えて遅くなる。
「ァァァァァァァアアアア!!」
『体感速度一瞬』を『一秒未満』へ!
『行動速度一秒』を『一瞬未満』へ!
「ウァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
至近に刃雨は五百!細かな目測など不要!
躊躇うな!迷うと死ぬぞ!全て叩き切れ!
両足広げ足場を固め、左手から噴き出す血が床に落ちるよりも遙かに早く刀を振るう。刀を振るった所に軌跡のように血の赤い線が書き連ねられていく。
「ウウウウうららららららら螺良ラララララアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
出鱈目に/撃墜記録 六十四!/水心子正秀を振って/一二八!/目前の危険から/一九二!/ぶち壊していく。/二五六!/切り崩されて/三二○!/光の結晶となる刃が/三八四!/線香花火のように/四四八!/煌いて消えていった。
五一二!
(よ………し!)
至近の刃を全て叩き壊して、胸中で安堵。
「――――無様」
耳がその音を伝えた時には
「ミウ!?」
肩口を切られていた。
死角に回った『剣聖』が、容易く僕を切る。