第二章22
――――口唇を、奪われた。
想像も付かなかった行為に体が緊張する。
荒々しい舌使いで僕の口の中の血が舐め取られる。
「コウキ、君!?」
「んー、じゃましちゃだめー」
(や、やめ………て、よぉ)
エリーシャが助けに来て(リプシマ(ディド)に止められているが)ようやく抵抗する意思が生まれて、ジタバタと足掻く。が、『剣聖』は僕の体を締め上げて放そうとしない。
と、痙攣する右手から、
(あっ、だめ、ダメ)
根こそぎ力が奪われていく感覚。百年掛けて守り続けられ、そして、ついさっき、僕の元へ帰ってきた力が、奪われていく感覚。
(いや、だ。やだーーーーーーーー!)
「んあ!?」
力任せに動いて、ようやく『剣聖』を突き飛ばした。
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
手の甲で自分の口唇をゴシゴシして、『剣聖』を睨みつける。
「クハハハハハ、貰った貰った貰ってやったぜ鵝臨射をよぉ!ババアたちが百年かけて守った鵝臨射をなぁ!」
『剣聖』の方は僕の事などお構いなく
「舞風・八葉……来い鵝臨射どもよ!」
試し切りを、始めた。
バサリ、バサリと翼の音、しかしそれは福音でなく、
「!やめてーーーーーーーーーーーーー!」
無差別に大規模に、喉が裂けんばかりに張り上げたエリーシャの声が、蚊の鳴くようにしか聞こえないほど、『剣聖』の手に渡った鵝臨射は全てを切り裂き始めた。
壊れる壊れる螺旋回廊実験鳥籠。
ピーピーギャアギャアガーガーキーキー。
小さく大きく強く弱く、種々様々な………断末魔。それは百年を守られた絶滅危惧種達の………断末魔。
飛び散ってくる血、羽、肉片、卵の残骸。
「ちっ、まだ半分だけか。いまわの際じゃねえと吸い取れねーって面倒だな」
「そ、んな………」
鵝臨射が………鵝臨射の半分、刀に変わる猛禽四羽が………奪われてしまった。
アカリが、ヒカリさんが………守ってくれた………鵝臨射が………