第二章21
「汚い足で――コウキ君を苛めるな下郎!」
「おっと」
飛び掛るエリーシャを『剣聖』は軽く躱し、
「キャウ!?」
カウンターで軽く腹を蹴り飛ばす。小柄なエリーシャは硬い床をバウンドし、倒れて動かなくなる。
「や、め…エリーシャを…傷つけ、ないで」
「バーカ、自分の身を心配しろってんだ」
「アガ、ギ、ヒィ!!」
笑顔で『剣聖』は僕への加虐を強めるサド侯爵の愉悦に浸った顔で。
「あは………ないてるこうきも………なかせてるこうきも………かあいい」
いつの間にか傍でしゃがみ込み、僕を見て微笑むリプシマ(ディド)。僕の血の飛沫を顔に受けて髪に受けて、それでも柔らかく微笑む――――僕が苦しむ様をみて、可愛いと。
硝子玉のように無機質なリプシマ(ディド)の瞳の中で、僕が叫んでいる。痛みに仰け反る、苦しみに震えている。
停電したように一瞬視界が暗黒に落ち、刹那に痛みでまた光が戻る。
数度その行為が繰り返されて初めて、自分が痛みに耐えかねてショック死になり、死ぬたびに体内咒力の作用で蘇生している事に気付いた。
気付いた所で抗う事もできずに、死と蘇生を繰り返される。
叫んで叫んで叫んで、痛みに耐えかねて死んで、生き返って、また死んで………
「ハッ!死にたくても死ねねぇだろ。なんせ勝手に傷が再生しちまうからなぁ」
刃が力任せに引き抜かれ、露わになった傷口から、血が吹き出る、ビュウビュウと音を立てて、憤水のように吹き出る血。
朦朧とした意識の中で赭に染まるディド。
「かあいい………えへへ………こうきの………おいし………」
僕の血を舐めとって、口元を汚したまま陶酔しきった顔。幼稚さと残酷さが分かれないまま、体だけが大人になったかのような歪さで僕の公開解体ショーを愉しんでいた。
やがて、それにも飽いたのか疲れたのか、地獄の拷問も終わり………『剣聖』に髪を掴まれ、顎を掴まれ、口を開かされ、
「ん………んぶ!?」
息が出来ない、抵抗も出来ない、ただされるがままに、口内を蹂躙される。上から、荒々しく口内を吸われる。
「あはは、こうきとこうきでキスしてるー」
――――口唇を、奪われた。