第二章20
「舞風――――」
一陣の風と風の隙間から、それは生まれる。全身から血の気が引くほどの冷めた刃が。
「――――万葉!」
「ヒィ!?」
それは、正しく『雨』としか言いようのない刃の洪水だった。
「『東方より(スト)、来た(リ)…れ風神』!!」
苦しい息を吐き出して再び紡ぐ飛翔魔術。一瞬で僕らは螺旋階段を頂上へ――しかし
「キャ………アアアアアアアアアア!」
「ウワ、アアアアアアアアアアアアア!?」
怒濤の剣刃は弾幕網羅となって逃げ場の全てを覆い尽くす。エリーシャの必死の回避運動も防御魔術も全く役に立たず、
「哀れ小鳥は真逆様っと」
嘲笑う声を聞きながら、僕らはもんどりうって螺旋階段の底の底に倒れた。
「か………はぁ………」
本当ならスプラッタ即死の高さだが、エリーシャの魔術が残っていたお陰で軽減され致命傷は免れたらしい。それでも、痛烈な打撲で体内の空気という空気が全て吐き出され酸欠間近。
「――――!!つ、ウウ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「クハハハハ、痛い?痛い?痛いか御先祖様!?どうだい俺様流『舞風・万葉』は!」
かてて加えて、手に足に肩口にざっくりと刺さった刃物の激痛。アア、全く、痛覚があるのを呪うほどに痛い、イタイ、痛すぎる!
「御先祖様が復活するまで『鵝臨射』は絶対封印・完全秘匿で手が出せなかったからさ。代用品で我慢してたんだよ。
一日一日何本も何本も刃物を体に突き刺して取り込んで飲み込んで………痛くて痛くて気が狂いそうだったさ」
のたうつ僕に哄笑をあげ近寄る『剣聖』。
「それもこれも全て全て全て全て!あのババアが『鵝臨射』を隠しやがったからだ!『鵝臨射』さえ手に入ればあんなにもイテェ思いをせずに済んだものをさぁ!!」
「ガ!?――――――――!!」
あまりの痛みに、最早言葉すら出ない。
『剣聖』が僕を足蹴にする。肩口に刺さった短剣の柄を踏みしめて、筋組織を突き破り、骨を砕いて更に奥へと捻じ込んで!
「だから御先祖様!!アンタもたっぷり味わってくれよぉ、俺様と同じ、刃物が肉を切り骨を削り血を噴き出させ痛覚神経を引き千切る痛みと苦しみって奴をサァ!」