第二章19
「クハハ喚かないでよ失敗作ちゃんよぉ。あんたと違ってディドの聖名を継承した正真正銘のリプシマ(ディド)に敬意を払えってんだ」
「あなたは…きらい…こうきは…わたしの」
むっとふくれたリプシマ(ディド)はエリーシャを睨み
「………いでぃじーぶぁるきゅーれ」
「――――!?」
ただ一つの言霊だけで、虚空に浮かぶ九つの神威兵器。体温が氷点下を一気に下回る。
「『東方より来たれ風神』!!コウキ君!」
「うん、わわわわ!!」
エリーシャの飛翔魔術で僕らは全力で回避行動をとる(といっても僕はエリーシャに抱きついてるだけだが)。刹那――――
「………ぜんだんはっしゃ(ふぁいえる=ふらい)」
炸裂!炸裂!炸裂!
貫通!貫通!貫通!
破壊!破壊!破壊!
「うううううわわわわああああああ!?」
『九人の怒れる戦乙女』が、数時間前にエリーシャが使った同じ魔術が、前回を遥かに上回る規模で、全てを薙ぎ払った。
「う、うわああああ!」
「きゃああああああああ!!」
崩れる螺旋回廊、壊れる絶滅回避研究所、魔術の余波は瓦礫混じりの暴風となって僕らに叩きつけられ、吹き飛ばされる。
圧倒的な――――魔力。
壁に衝突した痛みより、エリーシャよりも強い魔力の持ち主に心が痛む。
「あららら、リプシマ(ディド)ってば勝手に始めちゃって…まあいいや、俺も混ざらせてもらうよ」
耳にしたのはまたしても聞きたくない呪文。
「舞風――――」
一陣の風と風の隙間から、それは生まれる。全身から血の気が引くほどの冷めた刃が。