第二章15
「この俺こそが正真正銘の『剣聖』ヤグチ・コウキだと言ったら………さあ、どうする御先祖様?」
『ただの高校生の僕』とは明らかに違う、『剣聖』を名乗るもう一人のヤグチ・コウキ。
テレビに流れていた、宣伝広告として喧伝していた、そのままの姿で――ソイツは我こそが救世主と嘯いた。
――――ギリギリと頭の片隅で痛みが走る。
「ほん、もの………?正真正銘………?」
――――ピリピリと粟立つ肌。
「じゃあ………この僕は………なんなの?」
「クハハ、少なくとも女に化けてコソコソしてるような腑抜けには『剣聖』は名乗れまいなあ。
御先祖様が復活する前からずっと、復活した後からずっと、君達の動向は全て把握している。
いや、流石に一瞬で宇宙に行かれた時だけはケムに巻かれたけどね。それから、いきなり女装して現れた時もさ」
「世迷言を!」
腰から力が抜けかけた僕の隣で、エリーシャが怒鳴る。
「この私が!このエリーシャ・バルカが復活を執り行ったこのコウキ君を差し置いて!
如何なる者が『剣聖』ヤグチ・コウキを名乗り上げる!?
事と次第によっては只では帰さん!」
キッと眉根を吊り上げて、槍の切っ先を少年に向けるエリーシャ。勇ましくも美しいその姿を、しかし『剣聖』は鼻で哂って、
「カリカリすんなよ『失敗作』のエリーシャちゃんよぉ。あんたが半端者だから、御先祖様も満足に復活できなかったんだろうが!」
「――――!?」
息を呑む、絶句する、息が止まる――――そんな気配。
「キサマ!!」
怒気を露わにして、手にした槍を投擲した。
轟音かなぐり上げ空気の壁を破り一直線に『剣聖』の心臓を貫かんと!――されども
「おーおー、怖い怖い」
軽く、蝿を払うかの如く………それだけで『剣聖』は片手で槍を砕き壊した。
「女の相手は女にさせたほうがよさそうだ。
でておいでよ――――」
『剣聖』は大げさな身振りで呼ぶ、誰かを。
「出ておいでよ――――『ディド(・・・)』」