第二章12
エリーシャが耳打ちする。
僕が、この想いを力に変える為の、呪文を。
長く長く止む事無く痞えることなく舞い降りる風と空の申し子たちの欠片に、手を伸ばす。空なんて見えないけれど、青空を力強く羽ばたく為に、翼なきこの身の為に、
「舞風――――」
今は、その力を、借りよう。
口をつくのは、エリーシャに教わった呪文。
「――――八葉!」
風が起こる。
舞い降りていた羽が自ら動き羽ばたき、風を起こしている。底を埋め尽くした鳥羽が、再び空へと舞い上がる。頂上を舞い遊んでいた鳥羽が、僕へ向けて急降下を始める。
僕の呪文に、呼応するように、
既に亡び滅びた命が、再び――――仮初ではあるけれど――――命を得る――――四剣四刀の有靱翼――――神威兵器『鵝臨射』として、やがて始まる聖戦の供として介添え人として。
バサリ、ばさり、
強い強い翼の羽ばたき音。それは天空を縄張りとする猛き猛禽の翼。
虚空を裂いて現れたのは、雄々しく猛き鷲一羽。最初の鷲に続いて次々と鷹、隼、鳶が右手に爪を立てて僕の右手を「宿木」としていく。
反対に左手の方には燕、雀、鶇、鵯が止まり軽やかに囀る。重くて痛い右手の猛禽と違ってこちらは可愛らしい。
重い右手と軽い左手、だけど命の重さに変わりは無い。
鳥たちが一斉に僕から離れる。
八羽の鳥、仲良く飛び立つ。
猛禽も小鳥も関係なく。今は滅びたはずの鳥たちが、仲良く、楽しげに、歌いながら。
――――これが、護ったもの。
アカリが遺したもの、ヒカリさんが守ったもの――――僕の為に、世界の為に、人類の為に――――命を懸けて、命を費やして、命を捨てて。