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第二章11

「なん、で―――――?」

 掌に残った羽を呆然と見続けながら混乱した頭で、何も考える事もできず、跪いて呟く。

「――――ヒカリさんは、もう何十年も前に死んでいます」

「し………死?」

「死して後ただ一人幽体となってこの場に留まり守り続けた。時を重ね歳を重ねながら」

 エリーシャは僕に背中を向けている。

「生まれ落ちて一度も外に出る事無く、死して後も一度も離れる事無く、ここの防人として過ごした人………それが、ヤグチ・ヒカリお婆さま」

 彼女の体温を感じるには遠く、されども彼女の甘い香りが届く位には、近い。

「彼女の生命全てをかけて、コウキ君の神威兵器をガモンハイドに悟られない為の結界を張っていた………それが、ヒカリお婆さまの『御役目』」

「それ、だけ………の為に?」

「それだけの為に、僅か十歳のこどもが此処で自決し、自らの命を犠牲にして封印を張り……以後半世紀以上、此処で寂しく唯一人」

「………………………」

 エリーシャの言葉が染み込むまでには、時間を要した。ヒカリさんの言葉を飲み込むまでに時間が必要だった。血を分けた人の消滅はあまりにも突然過ぎて、理解が追いつかなかった。

「コウキ君、ヒカリさんが生涯かけて護ったものを………受け取りましょう」

 エリーシャの優しい声を契機に、鳥類絶滅回避研究所は様相を変え始めた。

「――――あ」

蛍火灯り、陽炎立ち昇り、幽玄定かならぬ幻灯充満する。

今では闇の底は闇ならず、螺旋階段の底から遥か高くまで、弱弱しくも儚き光満ち溢れ、

「――――ああ」

 されども光は何かに遮られる。何か?何かってなんだ?目を凝らして何かを見つめる。


 ふわり、フワリ、はらり、ハラリ、

 

何かが分かる。それは螺旋階段の遍く全ての絶滅回避実験鳥籠から放たれた、鳥の羽。


ふわり、ハラリ、ひらり、ヒラリ、


風を切って踊り、風に乗って舞う、視界を埋め尽くす鳥の羽。

黒羽白羽赤羽、尾羽風切り羽冠羽、羽毛綿毛、雀の羽燕の羽鷹の羽、啄木鳥の羽四十雀の羽白鳥の羽、身近にいる鳥の羽、山間に潜む鳥の羽、木立に止まる鳥の羽、魚をとる水鳥の羽、命を奪う猛禽の羽、何万キロも飛び続けられる渡り鳥の羽………

羽、はね、ハネ………これほど多くの命が産まれ、育ち、老いさらばえ、失われ………そして遺された鳥羽(とば)

「コウキ君の神威兵器は、コウキ君の力だけで存在するものではありません」

 涙が出た。知らぬ間に、流れ落ちた。

 命は産まれ、育まれ、生き抜いた後、次代へと受け継がれて、そして消える――――僅かな形見だけを残して。

「ここで生まれ、育まれ、新たな生を産み、そして儚く散った、または敢え無く滅びた鳥たちの命の欠片――――それが貴方の助力となる源」

胸ポケットの写真へと掌を重ねる。

僕の残したもの、彼女の遺したもの。

託されたその想い、受け取ったこの想い。

掌に乗せられた羽を弱く柔らかく包み込む。

「アカリ様が作られ遺志を託し、ヒカリ様が思いを継がれて護り続けた力」

命は繋がる、繋がっている。容易く断ち切られもし、しぶとく続きもする命の連なりに、

「この百年で滅びた鳥たちの力全てが……コウキ君の力となります」

雪の様に降り積もる鳥羽、既に足首にまで達するほどに。積みあがる命の欠片に――――感謝を――――そして誓いを。



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