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第一章 15

「………エリーシャ?」

 信じられない思いでその名を口にする。

「ヤグチ・コウキを処分するということで会議が進んでいるようですが………私は、それに反対します」

 大人達を真っ向から見据えてキッパリと、エリーシャは断言する。

「エリーシャ!下がれ!君にはこの会議に出席する権限はないだろう」

 誰かの怒声。しかし無視して歩み寄るエリーシャ。すれ違いざま、エリーシャが僕に囁く。僕にだけ、聞こえるように。

(大丈夫。あなたを処分なんて――――)

 柔らかい声、僕を安心させるように母性的な微笑み。微かに立ちのぼる、甘い香り。

(――――絶対に、させませんから)

エリーシャは僕を護るかのように、僕の側に立ち、円卓の面々に話し掛けた。

「私はディドのサンサーラです」

 サンサーラ、また、この言葉。

「私には絶滅戦争の記憶がある。

私にはコウキ君と共に戦った体験がある。

私はこの場にいる誰よりもコウキ君の事を熟知している。

だから、断言できる――コウキ君は、どんな障害があろうとも、最後には必ず勝利を掴んでみせる、と」

 力強い言葉にはなんの迷いも無く、

「エリーシャ・バルカの名に掛けて、コウキ君の喪失した記憶と能力を、私が、必ず、取り戻してみせます」

 エリーシャが断言する。

 僕は………孤独なんかじゃない。僕よりも頭一つ小さな少女の健気な応援が、凍りかけていた僕の心を再び暖めてくれた。

小さなエリーシャの体。でも、その姿は夢の中で見た人のように、大きく感じられた。

 しかし――――

「これはしたり。『人類存続の為に必要な犠牲』を散々強いてきたバルカ家の言とは思えませぬなあ」

 エリーシャの熱弁には、冷水をもって答えられた。否、それ所か、


「――――ふん、同じ失敗作どうし、随分と仲が宜しいようだ」


「――――な!?」

 エリーシャをも蔑み、嘲弄する言葉。

「この生意気な小娘も、一緒に処分した方がよろしいのではないか?ハスドルバル翁。揃って役立たずだ」

「そうだ。『ディド』の聖名を継承できなかった御主の名を掛けて、一体何の価値があるというのか?」

 エリーシャに向けられる言葉の刃の、集中口撃。聞いているこちらの方が痛々しい。

 大の大人が寄ってたかって少女を責める。その、醜悪な、光景。

「おまえら………」

 耐え切れなくなった僕が自分の事も忘れてエリーシャに助け舟を出そうとして………

「――――シュベルトライテ」

 ぽつりと呟いたエリーシャの片脇に浮かび上がった白銀の槍に、あっさりと僕の動きは止められた。

 先刻、僕の胸を貫いた槍。白銀の、至高の芸術のように美しい――――凶器。

 すーっと、僕の身体から血の気が引いていった。

「エリーシャ!気が狂ったか!?」

「権威ある円卓会議に武器を持ち出すなど言語道断!」

 騎士たちが椅子を倒して立ち上がり、暴挙に出たエリーシャに口角泡を飛ばして……

「………ブリュンヒルデ」

「言語道断………」

更に一本、今度はエリーシャの頭上に浮かぶ。

騎士たちの動きが止まる。口も止まる。

「ゲルヒルデ!オルトリンデ!ヴァルトラウテ!」

「ごんご………」

 更に、更に、更に三本!

「ヘルムヴィーゲ!ジークルーネ!グリムゲルデ!ロスヴァイセェ!!」

「………どうだん」

 続々とエリーシャの周囲に出現する神威兵器、なんと総計九本!

僕を貫いたシュベルトライテに良く似た、でもどこか違う槍が更に八本。

「ま、まあまあまあまあ、落ち着きたまえエリーシャ君」

 すっかり下出に出てしまった騎士たち。完璧に腰が引いてしまっている。

 さっきまでうるさかったワンちゃんが、シッポを巻いてお腹見せてるような変貌ぶり。つまりは、白旗上げて完璧な降参のポーズ。

 無理もない。実は、僕も物凄く怖かったりする。一本でも危険な神威兵器、それが九本もあるのだから!

「我々もちょいとばかし言葉が過ぎたのは謝るから………と、とにかくまあ、槍を、その危険極まりないものを収めなさい」

 脂汗を流しながら説得を始めた騎士をみて、

「名にしおう騎士ともあろう方々がそんなに取り乱して――――みっともないですよ」

 冷たい、背筋が凍りつくような笑顔をエリーシャが作り………

「イディジー・ヴァルキューレ、全弾発射(ファイエルフライ)!」

 号令と共に、火箭(ミサイル)のごとく槍は放たれる。

「ぬおおおおぉぉお!?」

「ぎゃあああああ!??!」

 閃光一閃目は灼かれ、轟く爆音鼓膜を破かんばかり。破裂する円卓、穿たれる壁、騎士達は泡を食って逃げ惑い、暴れ狂うその威力、まさに『九人の怒れる戦乙女たち(イディジー・ヴァルキューレ)』!

「あ、あわわわ………」

 一人何もできず目前の惨状にまごつく僕の手を、

「逃げます!コウキ君!」

 片手にシュベルトライテを掴んだまま、エリーシャが、強く、引いた。



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