第一章 12
最早何度目になるのか、目覚めた時には同じ天井。
「あれ?」
「お気づきになられましたか?」
執事のゴルヘグが上体を起こした僕に気づき、声を掛ける。
「なんで、ぼく……?」
エリーシャの槍に刺された筈なのに……ピンピンしている。絶対死んだと思ったのに。
「痛……」
と、胸の真ん中に焼け付く様な痛み。しかし、もちろん風穴なんて開いていない。痛みからすると痣くらいは出来てそうだが、気絶するほどの重症とはほど遠いものだ。
「一応、手加減はしてくれたんだね」
本当に刺し殺されるかと思っていただけに、ほっと一息をついて、傍らに立つエリーシャに笑い掛ける。
「………コウ、キ………くん」
しかしエリーシャの顔は蒼白。まるで亡霊でもみたかのように僕を見ている。
硬直しているエリーシャを代弁するかのように、ゴルヘグが口を開く。
「いいえ、エリーシャ様は何一つ手加減などしておられませぬ。あの瞬間、コウキ様は確実に絶命しておられました」
「……………え?」
「エリーシャ様のシュベルトライテに胸を貫かれ、即ショック死。しかし流石はアンヴァリッドと申すべきでしょうか。心臓を完全に貫かれながらも再生するまでに僅か三十秒。伝説級に力のある不死者でもここまで速やかな再生はなかなかできぬというのに」
「な、何をいって………」
ゴルヘグの言葉の意味を理解できず呻く僕の手が、ジュクジュクとした液体に浸る。
「………え?」
手が、血に浸っていた。
ベッドは大量の血を吸っていた。
まだ固まっていない赤い血が、部屋中を赤く汚していた。
その血は誰のものか?
考えずとも、気づいてしまう。
胸の真ん中に痛み………傷なんて無いのに。
だけど血に汚れた服が、部屋が、証明していた。
「………コウキくん、そんな……わたし、避け…られると、思って、た………のに」
信じられないと、力ない目で僕を見るエリーシャ。その手に握られた白銀の槍には………緋い液体。
僕はエリーシャの槍に貫かれ、即死し………そして、即『再生』した。
やや後方で、ハスドルバルが立ち尽くしていた。
「君が、本当に能力まで喪失しているとは………な」
血の飛沫で顔を汚したまま。
「自己再生能力は往時のまま。しかし……」
それは、死刑判決を受けたような、絶望の顔だった。
「復活したヤグチ・コウキに『剣聖』としての戦闘力は皆無………か」
ハスドルバルは沈黙する、深い絶望に沈み。少年の姿のまま、老人の翳を滲ませて。