表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
9/46

第8章:家族の絆

【SIDE:志水亜美】


 家族には絆がある。

 私の家族はとても仲がいい、兄も私も両親の事が好きだし、向こうも私達を子供として愛してくれている。

 その優しさは今の私にとってひとつの参考にもなっていた。

 

「……麻尋ちゃん、目を瞑っていてね。お湯をかけるよ」

 

「はーい」

 

 可愛くお返事、ただいま麻尋ちゃんをお風呂に入浴させている最中だ。

 今までは結城さんが入れていたんだけど、彼はそういうのが苦手らしく私がしている。

 麻尋ちゃんは暴れたりしないので、ゆっくりとシャンプーを洗い流す。

 

「んっ、あわあわ~っ」

 

 身体が泡だらけなのを楽しむ麻尋ちゃん。

 彼女の髪をゆっくりと撫でる。

 

「麻尋ちゃん。目は痛くない?」

 

「だいじょーぶっ。いたくないよぅ」

 

「もう少しで終わるからね。よし、いい子だ」

 

 最後までジッとしてくれた麻尋ちゃん。

 身体を洗い終えて私達はお風呂場から出る。

 

「パジャマに着替えようっか。はい、麻尋ちゃんのだよ」

 

 私が手渡したパジャマを彼女は頑張って着替えている。

 

「んっしょ……んー」

 

 子供ってホントに可愛いなぁ。

 行動を見ているだけで癒される。

 濡れた髪をタオルでふくのも私の役目。

 くすぐったそうに麻尋ちゃんは頭を揺らす。

 

「亜美おねーちゃん。くすぐったい~」

 

「ふふっ、それじゃこうしたらどう?」

 

 きゃっきゃっと笑顔を見せてくれる麻尋ちゃん。

 7月も半ば、私が彼女の世話をし始めてから2週間。

 結城さん達との付き合いもずいぶんと慣れ始めていた。

 昼は普通に大学に通い、夕方は結城さん達と一緒に夕食を食べて、麻尋ちゃんをお風呂にいれたりして彼女が寝るまで傍にいる、家に帰るのは夜の10時過ぎ、そんな生活に私は満たされていた。

 だって、結城さんや麻尋ちゃんと一緒にいることが本当に楽しいんだもん。

 何だか本物の家族になれた気がして……。

 私なんかが結城さんの家族になれるわけないんだけど。

 

「麻尋ちゃん、お風呂を上がりましたよ。結城さん」

 

「パパ~っ、おふろ、あがったよーっ」

 

 結城さんはノートパソコンでお仕事中。

 最近は何やら仕事が立て込んでいるらしくて忙しいみたい。

 

「風邪をひかないようにな。……ホントに亜美ちゃんがいてくれて助かるよ」

 

 やっぱり、男の人ひとりで子供を育てるのは大変だよね。

 

「……そうだ、亜美ちゃん。外の天気がかなり荒れてきてるよ」

 

「え?本当ですか?」

 

 私は窓の外をのぞくと、強い風がふいてる。

 雨は来る前から降ってきていたけども、その雨も激しさを増す一方だ。

 

「台風が近いって言ってたからね。もう少し、俺も早く気付けばよかった。どうにも今から外に出るのは危なすぎる」

 

 ここから私の家までは歩いて20分くらい。

 亮太兄さんに頼んで車を出してもらうしか……。

 でも、私が結城さんの家に入り浸っているのは実はまだ内緒にしている。

 余計な詮索をされたくないし、それに言えない事もあるから。

 

「亜美ちゃん、今日はうちに泊まっていく?その方が安心だよ」

 

「それは……」

 

 私もそうさせてもらいたい気はある。

 だけど、問題もあるわけで……。

 

「おねーちゃん。きょうはとまってくれるの?」

 

 そんなつぶらな瞳で見つめないでよ、麻尋ちゃん。

 うぅ、あまりの可愛さに抱きしめてしまう。

 

「それじゃ、今日は泊まらせてもらいます」

 

「分かった。すぐに準備をするよ」

 

「私は家に連絡をいれておきますね」

 

 家に連絡するのは気が重い。

 お母さんは私が男性の家によく行ってることに気づいている。

 夕食を家で取らないし、帰ってくるのは10時過ぎ、誰でも気づくって。

 だけど、お母さんは反対せずに応援してくれている。

 どうやら私に彼氏ができたと勘違いしているみたいだけども。

 問題なのはお父さん……と亮太兄さんだ。

 家に電話をすると、運悪く、電話に出たのは兄さんだった。

 

『……お前、今、どこにいるんだ?母さんが心配しているぞ』

 

「えっと、お母さんに代わってくれない?」

 

『今、風呂に入ってるからダメだ。父さんに代ろうか?』

 

「それは勘弁。ひどいよぅ……わざと言ってるでしょ」

  

 兄さんは私が彼氏の家に入り浸っていると思い込んでいる。

 まぁ、状況としては似ているので誤魔化しているの。

 

『それで、どうするつもりだ?台風4号、接近中。今日の夜は激しい雨風、つまり帰れずにお泊りするとか言い出すつもりじゃないよな?』

 

「……そうだけど。私だってもう18歳だし、大学生なんだよ?」

 

『彼氏ができて浮かれるのは分かるがダメだ。お泊まりは許さんぞ。すぐに車で迎えにいく、場所はどこだ?ついでにどんな男が彼氏か見てやりたいしな』

 

 まずい、兄さんを誤魔化す事はできそうにない。

 ここはお説教を覚悟して強行突破するしかない。

 

「ああっ、もうっ。私は今日、彼の所に泊まっていくから。文句言わないで。お母さんにもそう伝えておいて。それじゃ、おやすみなさいっ!」

 

『ちょっと待て。開き直るつもりか、おい……ぷちっ』

 

 私は言いたい事を言って、電話を切る。

 明日帰ってから亮太兄さん&両親にはお説教されるに違いない。

 深いため息をつくと、さらに追い打ちをかけるような兄さんからのメールが届く。

 

『兄からの最大譲歩だ。子供だけは簡単に作るなよ。以上』

 

 短い文章ながらストレートすぎる文面に思わず噴き出しそうになる。

 一応、私の事を心配してくれているらしい。

 私はリビングに戻ると、歯をみがき終えた麻尋ちゃんが待ってくれていた。

 

「亜美おねーちゃん。いっしょにねよーっ」

 

「亜美ちゃん。今日は麻尋と一緒にその部屋で寝てよ。俺は隣の部屋を使うからさ」

 

「えーっ。パパはいっしょじゃないの?」

 

 麻尋ちゃんの言葉に私と結城さんは思わず顔を見合せてしまう。

 

「それは、その、ね?」

 

「麻尋。パパは亜美ちゃんとは一緒に寝ちゃダメなんだ」

 

「どーして?3にん、いっしょがいいよぉ」

 

 私の服の裾をつかむ麻尋ちゃん。

 気持ちは嬉しいけど、結城さんと一緒に寝るなんて恥ずかしすぎる。

 だって、5年前のあのファーストキスの夜でさえ、朝まで眠れずにいたのに。

 

「いっしょにねようよ。ねー、パパぁ。おねーちゃん~っ」

 

「いや、だから……困らせないでくれ、麻尋」

 

 だけど、私は麻尋ちゃんの瞳がわずかに潤んでいる事に気づいたの。

 そうか、麻尋ちゃん……お母さんが恋しいんじゃないかな。

 奈々子さんと離れ離れになった寂しさを感じていてもおかしくない。

 子供はそう言う事に敏感で当然だもの。

 

「……その、一緒に寝ませんか、結城さん?」

 

「あ、亜美ちゃん?キミまで何を言って……?」

 

「麻尋ちゃんは寂しいんですよ。だから、今日だけは私をふたりの家族にしてください」

 

 家族には目に見えない絆があるの。

 私が結城さんと麻尋ちゃん、二人の家族の間に入るのは難しい。

 だけど、今日だけはその間に入りたいと思ったんだ。

 

「……亜美ちゃん。うん、キミがそう言うなら」

 

 私達は寝室に入ると布団を並べて3人で寝ることに。

 麻尋ちゃんを挟んで両側に眠るので恥ずかしさは半減する。

 いつも麻尋ちゃんが寝る前には絵本を読んであげる。

 だけど、今日はそれがなくても、ちゃんとお布団に入ってくれた。

 

「おねーちゃんとパパ。いっしょはたのしいねっ」

 

「そうかい。麻尋は亜美ちゃんが好きなんだ?」

 

「だいすきっ。だって、亜美おねーちゃんはわたしをぎゅってしてくれるの」

 

 麻尋ちゃんの言葉に私も嬉しくなる。

 今の生活は楽しい、けれど、いつかは終わりが来るの。

 だからこそ私は思うんだ。

 この時間を大切にしたいんだって……。

 

「おやすみなさい、麻尋ちゃん。いい夢を見ようね」

 

「うんっ。おやすみなさい……」

 

 そう言って目を瞑る麻尋ちゃん。

 私は彼女のを優しく撫でながら眠りにつくのを見守る。

 しばらくして、彼女は寝てしまったようだ。

 

「……亜美ちゃん。俺は、父親失格だよ。亜美ちゃんに言われるまで、麻尋が意図することに気づけなかった。この子は……寂しかったんだな」

 

 結城さんは天井を見つめて静かに告げる。

 

「麻尋ちゃんは我慢強い子です。けれど、だからこそ、気づいてあげないといけない」

 

「うん……難しいな、子育てっていうのは」

 

 この歳でお母さんがいなくなって、お父さんと二人っきりで暮らしていく。

 その寂しさは私には想像できないもの。

 

「――あの、結城さん。お話してもいいですか?」

 

 外から聞こえる激しい風の音、そんな夜に私は結城さんに少しだけ心を近づける。

 私の中に、忘れようとしていた初恋の想いがよみがえり始めていた――。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ