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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第7章:私にできること

【SIDE:志水亜美】


 初夏の暑さが気になりだした7月7日。

 今日は七夕、彦星と織姫の年に一度の再会の日。

 子供の頃、遠距離恋愛している彼らが年に一度だけしか会えない事を寂しいと思った。

 私は4年ぶりに運命の人と再会をした。

 結城さんは奈々子さんと離婚して、子供の麻尋ちゃんと暮している。

 26歳の彼、私はまだ18歳という年の差もある。

 今さら恋愛という関係にはなれないのは分かっている。

 結城さんにはそんな余裕もないだろうし。

 だけど、私は彼らの役に立ちたいと思ったんだ。

 どんな形でも、再び傍にいられるのなら……。

 未練はなくなったはずの初恋。

 数年の時を経ても変わらぬ想い、これは未練か、それとも執着なの……?

 私自身、気持ちの整理もできていないままだけど。

 それでも私は彼の傍にいたい。

 ――だけど、彼は私の事をどう思ってくれているのだろう?

 

「ちょっと、亜美さん。また今日もダメなの?」

 

「ごめんね、美代子。しばらくはそちらに付き合えそうにないわ」

 

 大学の授業が終わって、私は友人の美代子達から食事に誘われた。

 しかし、私には今日、大事な予定が入っている。

 今日は麻尋ちゃんの4歳の誕生日。

 予約しているケーキとプレゼントを届けないといけないの。

 

「最近、付き合い悪くない?ハッ、まさか彼氏ができたとか?」

 

「え?そうなの?志水さんの彼氏って誰よ?」

 

 友人たちに囲まれて問われるけど私は慌てて否定する。

 

「か、彼とはそういう関係じゃないし。違うから」

 

「彼?やっぱり男の人なんじゃないっ。隠さなくてもいいでしょ?」

 

「だから、本当にそういうのじゃ……あっ、もう時間だから行くね」

 

 私は逃げるように彼女達から離れようとする。

 そんな態度が気になったのか美代子は私に言う。

 

「まぁ、いいけど。何か恋愛ごとに困ったら相談してよ?相談くらいには乗ってあげられるわ。特に亜美さんは男性と付き合いがないんだから余計に心配なの」

 

 どうやら私は友人たちから心配されているみたい、半ば好奇心だろうけどね。

 

 

 

 

 私の通う大学は地元の街のはずれにある。

 電車でひと駅、街の中心街に戻ると、注文していたプレゼント用のぬいぐるみを取りに行く。

 これは私が麻尋ちゃんに上げようと思っていた物。

 ウサギが好きだと言っていたので、ウサギのぬいぐるみにしたの。

 ちょっと安易かな、と思うけど子供は単純なモノの方が喜ぶはず。

 私はお店でラッピングされたぬいぐるみを受け取り、あとは頼んでいたケーキを持っていくだけ、夕食の材料は結城さんが買ってきてくれることになっている。

 予定していた時間になり、私は結城さんの家を訪れる。

 

「いらっしゃい、亜美ちゃん」

 

「こんにちは。麻尋ちゃんはどうしていますか?」

 

「今、部屋で遊んでいるよ。風邪が治ってからずいぶんと元気になったよ。おかげでこちらは大変だけどね。子供は元気な方がいい」

 

「そうですか。あ、これ、ケーキです。料理の方もすぐに取りかかりますね」

 

 私はケーキを彼に手渡して、キッチンに入ることにした。

 今日は麻尋ちゃんの好きなハンバーグ。

 ハンバーグを焼いているとその匂いにつられたのか、部屋から麻尋ちゃんから出てくる。

 

「亜美おねーちゃんだぁっ。こんにちは」

 

「こんにちは。麻尋ちゃん、もう少しだけ待っていてね。すぐにできるから」

 

 最近はほぼ毎日会っているので私にも慣れてくれている。

 ホントに麻尋ちゃんは可愛いの。

 

「わたしもおてつだいするよ?」

 

「それじゃ、お皿を並べてくれる?」

 

「はーいっ。パパ、おさらをとって」

 

「ん?あぁ、分かった。ほら、ゆっくりと持って行けよ」

 

 小さな手でお皿を持って歩く麻尋ちゃん、それを心配そうに身守る結城さん。

 いいな、こんな光景……家族という感じがしてすごくいい。

 

「……家族、か」

 

 私もその中に入れたら、なんて、そんな事を思ってしまう私がいる。

 逆にどうしてな奈々子さんはこの家庭の幸せを……いや、これは考えちゃいけない事だ。

 

「はい、できました。麻尋ちゃん、手を洗って来て」

 

「あいっ。パパもいっしょにいくよー」

 

 私が結城さん達と関わりあって、お世話するようになって嫌だと思う事は何一つなくて。

 見ているだけでほのぼのとしていて、毎日が楽しい。

 私はお皿に料理を移しながら、今の自分の幸せを考えていた。

 こんな時間がずっと続いて行けばいいのに……。

 誕生日ケーキをテーブルに置いて4本のろうそくをさす。

 そのろうそくに火を灯すと、麻尋ちゃんは嬉しそうにその火を吹き消した。

 

「4歳の誕生日おめでとう、麻尋ちゃん」

 

「麻尋。ハッピーバースデー、またひとつお姉さんになったな」

 

「ありがとうっ。えへへっ……」

 

 はにかむ顔がとても愛らしい、人形さんのように抱きしめてしまいたくなる。

 私はプレゼントのぬいぐるみを彼女に差し出す。

 

「麻尋ちゃんへの誕生日プレゼントだよ」

 

「あ~っ、うさぎさんだぁっ。おねーちゃん、ありがとう」

 

 喜んでそのぬいぐるみを受け取る麻尋ちゃん。

 彼女は私の作った料理を食べているとふと箸をとめる。

 

「どうかした、麻尋ちゃん?」

 

「このハンバーグ、ママのと同じ味がする」

 

「あ、それは、私が料理を教えてもらったのは麻尋ちゃんのママだからだよ」

 

 ずっと奈々子さんから料理を教えてもらった。

 だから、味に関しては彼女のものと同じに近い。

 それは麻尋ちゃんに何かを思い出させてしまったのか。

 

「そうなんだ。……亜美おねーちゃんのりょうり、わたしはすきだよ」

 

「そう。麻尋ちゃんはハンバーグが好きなんだ?」

 

「そうだよ。おにく、だいすきなのっ」

 

 私は今まで普通に接していて気づいていなかったんだけど、麻尋ちゃんは両親の離婚をどう思っているんだろう?

 まだそういう事を理解できない歳ではある。

 だけど、奈々子さんがいない事を寂しがっている素振りも見せない。

 

「どーしたの?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

 私は微笑で誤魔化すと、食事を続ける。

 いつか奈々子さんが帰ってくると思っているのかもしれない。

 それが理想的なんだけど、結城さんにはその意志はないみたいだし。

 人の家庭のことなので、私には深く追求するだけの資格はない。

 

「……亜美ちゃん、あとで話があるんだけどいいかな?」

 

「はい、いいですよ?」

 

 結城さんから改めて言われると何だか緊張するな。

 一体、何のお話なんだろ?

 

 

 

 麻尋ちゃんを寝かせてから私は結城さんと話をする。

 いつもの時間、家に帰るまでのわずか30分だけが私と結城さん、ふたりだけの時間だ。

 私は紅茶を入れると、美味しそうにそれを彼が飲んでくれる。

 

「亜美ちゃんはホントに何でもできるんだ?」

 

「紅茶はただの趣味です。この香りとかが好きなんです」

 

 紅茶のカップに口をつける私に結城さんは言う。

 

「……本当に亜美ちゃんには感謝しぱなっしだよ。おかげであの子の誕生日をちゃんと祝う事ができた」

 

「せっかくの誕生日、楽しく祝ってあげたいじゃないですか」

 

「キミの優しさにはとても救われている。だけど、無理はしなくていいから」

 

「無理なんてしてません。むしろ、私はこうして結城さんたちのお世話をしたりするのが楽しいんです。私にできることは限られています」

 

 そうだ、私にできる事なんてしれているもの。

 結城さんの負担を軽減できればそれでいいの。

 

「だから、気にしないでください。前にも言いましたよ、これは恩返しのようなものだって。結城さんがくれた優しさを今、お返ししているんです」

 

 私のもう一人の兄として接してくれた時間。

 その温もりや優しさは今も私に思い出として残り続けている。

 そんな彼の役に立ちたいのは当然の事で、だけど、それ以上の関係になりたいとか下心を持って接してはいない。

 ううん、そちらの意味では私は5年前から臆病になっているもの。

 

「私は麻尋ちゃんや結城さんのために何かをしたい。それだけですから」

 

「……昔から変わらないね、亜美ちゃん。キミの優しさ、純粋さは変わっていない」

 

 彼にそう言われると私は軽く頬を赤らめてしまう。

 

「それじゃ、また来ますね。おやすみなさい」

 

 私はしばらくの雑談のあと、部屋を出ようとする。

 靴を履いて外に出た私はあるものに気づいた。

 部屋の郵便受けに何か小包が入っていたの。

 宛先はなく、ただ一言だけ「麻尋へ」という文字が書かれていた。

 

「これって、もしかして……?」

 

 私はそれが誰からの贈り物なのかを理解する。

 すぐ傍まで来ていたんだ、奈々子さん……。

 

「立ち止ってるけど、何かあったのかい?」

 

 私はその箱を結城さんに手渡すと彼は何も言わずに頷く。

 麻尋ちゃんの事を奈々子さんはまだちゃんと娘として想っている。

 その事に安心しつつも、どこか私は寂しい気持ちになってしまう。

 奈々子さん、どういう気持ちでこれを届けに来たんだろうって――。

 

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