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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ Remember
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番外編:序章:幼馴染の関係

初恋のカケラ Remember

番外編。奈々子サイドの過去編です。

【SIDE:高梨奈々子】


 初恋の思い出。

 初めての恋なんて言えば誰にでもある。

 初恋が実らないというジンクスがよく言われる。

 それは大抵、初めての恋という経験不足のせいでもあるし、初めて恋をした人間が運命の相手とは限らないというだけ。

 本気で好きな人間が初恋だったら、絶対にうまく行ってほしいと願うのは当然。

 それは私、高梨奈々子も例外ではない。

 この初恋は成就して欲しい。

 そう思っていた……初恋が叶うまでは。

 これは私が14歳の時の思い出話。

 初恋の記憶の断片。

 初恋のカケラ――。

 

 

 

 

 私には幼馴染がいた。

 家が近所のふたりの同級生の男子。

 ひとりは真面目で優しいけど面白みに欠ける男、結城和輝。

 もうひとりは不真面目で最低だけど面白い男、志水亮太。

 ふたりとも私にとっては大事な幼馴染達。

 

「だから、やっぱり、女は年上に限るって。年下を包み込んでくれるだけの包容力、年上お姉さん最高っ。お前もそう思わないか、和輝?」

 

「……俺は別に恋愛事には興味がない」

 

「はっ、ダメだなぁ。男に生まれたら女に興味を持つのが当然の宿命だろ?和輝はもっと遊んでみろよ。見た目抜群のくせに、女に興味なしってもったいない。いいぜ、女は。なぁ、奈々子?」

 

「その流れで女の私に話題を振ってくる所が亮太らしいわ。死ね」

 

 軽薄そうな男が亮太、隣を歩く物静かな方が和輝だ。

 中学校への朝の登下校中の会話だが、相も変わらず、亮太は最低だ。

 

「怖っ!?何だよ、ちょっとした冗談じゃんかよ~っ」

 

「どこが冗談?」

 

「お前も年上男子の包容力、守ってくれる感ってのに憧れないか?と言う意味でのフリだ。決して変な意味じゃないぞ?」

 

 慌ててそう言い訳する彼に私はいつもの事なので呆れもしない。

 亮太と言う男は見た目は女受けもするし、性格も人を楽しませるから女にもモテる。

 けれど、それゆえに女性関係には呆れるくらいに軟派すぎる。

 思春期真っ盛りの男の子。

 そう一言で済ませられればいいんだけど、出来ない事情がこちらにもある。

 

「そうね。年上で雰囲気のいい男なら好きよ。どこかの誰かさんと違って落ち着きがあって、女の子に一途さもあれば最高じゃないかしら?」

 

「おいおい、奈々子に散々に言われてるぞ、和輝。しっかりしろよなぁ」

 

「アンタよ、アンタっ!このバカっ、亮太に決まってるでしょっ。和輝とアンタを一緒にしないで」

 

 このバカには自覚という言葉がないのかしら。

 

「失礼な。何を言う。僕ほど一途な男はいないって。マジで」

 

「その言葉が嘘ね。アンタに泣かされている女の子の話をよく聞くわ。少しは和輝みたいな真面目さを見習いなさいよっ」

 

「僕は今でも十分に真面目だっての。人に文句言う前に奈々子もツンっとした態度を何とかすればいい。ん、あれか、いわゆるツンデレってやつか。ツンデレ路線継続中か。何なら僕にデレの部分を見せてくれ」

 

「ツンデレ?意味分かんないけど、バカにされてるのだけは分かった。マジで死ね。むしろ、私がアンタをここで滅ぼしておくべくね」

 

 私と亮太はいつものように言い争う。

 彼の発言は私に限っては不愉快発言が多い。

 それだけ親しいと言えるんだけど、私も普通の女子と同じような態度で接して欲しいと願う時があるの。

 

「……お前ら、毎日、飽きないな」

 

 私達を見ていた和輝がどうでもいいような口調で言い放つ。

 いつもの日常、当たり前の光景。

 亮太がバカ発言して、私が言い合って、それを和輝が見守っている。

 不思議なほどにどこか心地よさを感じる幼馴染の関係。

 それが14歳の頃の関係だった。

 遠くない未来にその関係が崩れるなんて思いもしていなかった。

 幼馴染の関係は他の関係と上辺だけの関係と違って壊れることなんてない。

 そう信じていたのに。

 

 

 

 

 私には好きな男の子がいる。

 中学2年にもなれば初恋の一つくらいしてもおかしくない。

 だけど、私は別に初恋に浮かれる事はなかった。

 もちろん恋をしている自覚はある。

 私は“彼”が好きなんだ。

 ……その相手が私の事などまるで女として見ていない男だから困る。

 それは逆に私にとっては恋愛してる事実を隠し続けられている。

 

「奈々子って好きな子いないの?」

 

 休憩中の何気ない雑談の中で友人に尋ねられて私は言葉を詰まらせる。

 

「……いない」

 

「嘘だぁ。今の絶対いるって。間があったもの。誰なのよ?」

 

「別にいいじゃない。誰だって……」

 

 友人達の追及をかわそうとするが、彼女達は勝手な憶測をのべる。

 

「私の勘じゃ幼馴染の結城君か志水君のどちらかだと思うのよね」

 

「あっ、私もそう思う。だって、ふたりともめっちゃ仲いいし」

 

「私があの二人と付き合うって?ありえないでしょ、幼馴染よ?」

 

 適当にはぐらかそうとする私に友人は笑いながら言う。

 

「そうやって隠しても無駄だからね?どちらが本命なの?教えてよ」

 

「どっちかと言えば結城君じゃないの?喧嘩ばかりの志水君より相性よさそう」

 

「そう?喧嘩するほど何とやら。意外な本命は志水君かも」

 

 結局、私の恋愛は彼女達のいい話題にしかならない。

 

「どーでもいいでしょ?」

 

「うわっ、やる気ないなぁ。奈々子ってふたりもイケメンそばにいていいわよね。どちらも狙える余裕ってやつ?」

 

「……そういうのじゃないわよ。あのふたりって」

 

 片方は女泣かせの女ったらし、もう片方は女性や恋愛に興味なし。

 どちらを相手にしても恋人とするなら難しい。

 

「そのふたりと幼馴染ってだけで羨ましいけどねぇ。奈々子の本命はどっちなのか、そのうち付き合った方が正解って事で期待しておくわ」

 

「変な期待をしないで」

 

 私はため息で誤魔化しながら話題を変える。

 もしも、私の初恋が成就することがあるのなら。

 

「……本命が私に振り向くわけないじゃない」

 

 わずかな可能性でもあるのだとしたら。

 

「だって、アイツは私を女扱いしてくれていないもの」

 

 それはきっと幸せな事なんだと思うの。

 

 

 

 

 放課後になり、私が部活が終わり帰宅途中のことだった。

 言い争う男と女、路上での喧嘩をしている光景に出くわす。

 思いっきり、相手の女性は男の頬を平手で叩き、去っていく。

 ……白昼堂々とよくやるわ。

 こういう場合は大抵は男が悪い。

 呆れながらその男の横を通り過ぎようとする。

 すれ違いざまに相手もこちらを気付く。

 

「……って、アンタかっ!?」

 

「ん?奈々子じゃん。よぉ」

 

 恥ずかしそうに軽く手を挙げて挨拶する男は亮太だった。

 またこの男は懲りもせずに何かしたのね。

 私は他人のふりをして通り過ぎたい気持ちを抑えつつ、立ち止まる。

 

「さすがに平手は痛いなぁ……ひどくない?」

 

「アンタが何かしたからでしょ。今の彼女?」

 

「元、な。たった今、お別れを告げられました」

 

 肩をすくめて、彼は赤く腫れる頬を押さえる。

 痛々しく見える腫れた頬、だが、彼は落ち込んだ様子もない。

 亮太は女癖が悪くて、すぐに別れるのもよくあることだ。

 

「あれってアンタが好きだった年上彼女じゃないの?」

 

「年上だから気にしすぎたのか、いまいちわからん。勝手に僕の浮気を疑って、勝手に誤解したまま別れた。少しは僕を信じてくれてもいいのにな」

 

「普段の行いが悪いのよ。女にだらしないから」

 

「……一応、僕だって恋愛って意味では真面目な方なんだけどね」

 

 どこがと声を大きくして言ってやりたい。

 恋人がいようがいまいが、仲のいい女の子が多い姿を見せられれば誰だって傷付く。

 

「アンタに恋人なんて似合わないのよ。そんなに女好きなら恋人なんて作らずにいればいいじゃない。下手に作るからこじれるのよ」

 

「言い返す言葉もないな。恋愛したいってのはあるんだけど、うまくいかない」

 

 彼には惹きつけるものがあるのに、態度が悪いから意味をなくしているの。

 私は彼を近くの公園につれていき、水道の水で冷やしたハンカチを差し出す。

 

「これで少しはマシでしょ。思いっきりされてるから後を引くわよ?」

 

「サンキュー。さりげない奈々子の優しさに癒さるよ」

 

「思ってもない事を言わないで」

 

「ホントだって。僕なりに奈々子の事は評価してるつもりだし」

 

 彼はハンカチを頬に当てて微笑する。

 亮太が最低な男だと言うのは分かってる。

 それなのに、私は……。

 

「お前みたいな子が恋人になってくれたらいいのにな」

 

 冗談めいた口調で言う彼に私は何も言葉を返せずにいた。

 やめてよ、亮太。

 ……変な期待してしまうから、変な事を言わないで。

 

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